ゲームの世界へ
あれから三日、経ったが、一度上がったチーム滝沢の士気はそのままに、作業のピッチは上がって行った。絶対にあの作品を超える!この想いは滝沢も同じだった。そこで滝沢は、敵について考えた。前作…とは言っても発売出来なかった訳だが、ドラゴンストリームを超えるには、敵を敵兵じゃなく、モンスターにしようと思ったのである。そこで滝沢は案を巡らせた。
「井上!ちょっと来てくれ」滝沢は女性キャラクターを担当している井上を呼んだ。
「な…何ですか?」怒られ慣れてるのか、井上は少し引いていた。
「別に怒ってないって。お前にしか出来ない事を頼みたいんだ」滝沢の言葉を聞いて、井上は浮かれたように飛んで来た。
「お前さぁ、確か、昔、漫画を描いてたって言ってたよなぁ」「ハイ、色々と描きましたけど、やっぱ得意だったのはアドベンチャーものですかねぇ」人差し指で鼻の下を撫でながら得意気に答えた。
「そこでな、お前に敵のデザインを頼みたいんだ」
「敵って…オレは人物とかより…」言いかけた所を滝沢は右手で遮った。
「今度の敵はモンスターにしようと思ってる」滝沢の言葉を聞いて、井上の顔が明るくなった。
「モンスターですか!やる…やります。オレ、こう言うの待ってたんです!是非、やらして下さい」井上は滝沢の思惑以上に前向きだった。
「で…女性キャラはどれ位出来てる?」
「もう、イラストレーターで角度付けたり、表情を触ったり…まぁ、オレじゃなくても出来るくらいまでは行ってます」井上の態度はどこか自慢げだった。
「そうか、よしっ!じゃあ後は…オイ、尾上、スマンが井上の仕事、引き継いでやってくれ」前に見せた尾上のやる気見ての抜擢だった。
「えーっ、じゃあ外観はどうするんですか?」尾上は滝沢の思惑を知らず、不満げに返した。
「大丈夫、寺尾に戻ってもらうから」滝沢は少しニヤけて言った。
「オレ、戻るんですか?」今度は寺尾が不服そうな態度を取った。
「だって、オレが戻って来ただろ?」滝沢は親指を自分に向けて返した。
「奥さんの方は大丈夫なんですか?」詳細を知らない寺尾は心配そうに返した。
「大丈夫だ!信頼出来る人に見てもらってるから」滝沢は意味深に答えた。
その時、『よしっ、ここからだ!』と思った時に携帯電話がなった。N大の川上からだった。
「もしもし、滝沢です」
「あぁ、滝沢さんか?ボクや、川上や」
「あの…もしかして…」
「おぉ、用意出来たで」『アチャー、タイミング悪いなぁ』
「あの、ちょっと仕事が立て込んでて」
「滝沢さん!仕事と奥さんと、どっちが大事やねん。こんなん言いたないけど、大丈夫や、コッチ済んだら仕事したらエエねん」流石の滝沢も無茶苦茶言うなと思った。
「あの…お言葉ですけど、一応、私も生身の人間ですんで…」言い訳がましいが、いくら妻を救う為とは言っても、自分が倒れてしまっては意味がない。
「構へん、構へん!コッチの仕事は寝とって出来るから」滝沢は耳を疑った。寝ていて出来る?何だそれ?
「どう言う事ですか?」
「アンタなぁ、寝やんと、どうやって奥さんの意識の中に入るつもりや」滝沢はやっとの事でなるほど、合点が行った。言わば寝に帰る感じと言う事だ。それなら可憐を救った後、夜中にでも会社に来て、作業すれば良いと言う訳だ。
「分かりました!直ぐに行きます」滝沢は即答した。
滝沢は皆んなに説明するのに、まさか寝に帰るとは言えないので、心配はされたが「大丈夫!体力は有り余ってる」と少々無理がある返答をして、会社を出た。
『皆んな、スマン。必ず可憐を救って、仕事も終わらせるからなぁ。』
滝沢がN大に着いたのは午後九時を少し回っていた。
「遅くなってスミマセン、川上先生」研究室に入ると、入院患者用のベッドや様々な機械が入り、すっかり病室の様になっていた。
「おぉ、待ち兼ねたで、滝沢さん。ほなら、そのベッドに寝てくれるか?」川上が指示したベッドは大層、立派な入院患者用ベッドだった。
「良く、こんなベッド用意出来ましたねぇ」滝沢は感心したように言った。
「言うたやろ?医学部が協力してくれるって。そんな事より早よう」滝沢がベッドに横たわると、可憐が初めてここに来た時同様に滝沢の頭にもコードが付けられた。
「これから全身麻酔を使って眠ってもらう訳やけど、一旦眠って、奥さんの意識とリンクして向こうに行ってしもたら、コッチ側と通信は出来ひん。せやらか、ちょっと注意事項を言うとくで」川上の言葉を聞いて、滝沢は急に恐ろしさが湧いて来るのが自分でも分かった。
「まず、ムコウに行ったら、その場所を忘れん事!その場所は、コッチとの出入口になる場所や。何か、ヤバいって思った時は、その場所まで行く事。でないとアンタはずっと眠ったまんまや」川上は強い口調で言った。
「始めの場所ですね」滝沢は自分にも聞こえるくらいの音を鳴らして唾を飲み込んだ。
「そう!ほんで、ボクはゲームの事は良う知らんけど、ゲームの中で死ぬ事があるんやろ?」川上の表情がより一層、神妙さを増した。
「そうですね。死んだらどこかで生き返ってペナルティに持ち金が半分になったりします」反対に滝沢は普通にゲームの説明をするように話した。
「そこや!気ぃ付けなあかんのは。ゲームはあくまでゲームの世界!死んでしもたらアンタは永遠に奥さんの意識の中を彷徨って、コッチでは植物状態になってまう。奥さんを早く助けたい気持ちはあるやろうけど、絶対に無理は禁物やで。さっき言うた様に、ヤバいって思たら絶対に最初の場所やで!エエな」川上の語気には鬼気迫るものがあった。
「ほなら、行くで!無事に帰って来いよ」マスクを付けられた滝沢は徐々に深い眠りに入っていった。
滝沢が目を覚ますと、どこかの小屋の様な家の一室の粗末なベッドの上だった。
「何だ?どこかで見た事があるような、ないような…」
滝沢は辺りを見渡し扉があるのが見えた。思い切って扉を開けた滝沢の目に、壮大な景色が飛び込んで来た。
「何だ?これって…古代西洋の城下町?」滝沢がこの世界に馴染み、そしてそれが何を意味するのか思い出すまで、しばらくの時間がかかった。




