↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島津悪鬼録 ~敵味方に恐れられた男、島津に天下を獲らせる~  作者: 春野ケイ
関ヶ原改変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/44

第四十二話 動かぬ陣

慶長五年九月十四日夜、大垣城にて。


島津義弘は、石田三成に、東軍への夜襲を進言したと伝えられている。


「東軍は、まだ陣立ても整わぬ様子。今宵のうちに、夜討ちをかければ、勝機は十分にございましょう」


義誠もまた、その場に控えていた。


だが、三成は、その策を退けた。


「夜討ちなど、正攻法とは言えぬ。我らは、明日の戦に備え、正面から迎え撃つべきだ」


義誠は、その返答に、内心で重い息を吐いた。


史実に伝わる話の通りなら、ここで義弘公の献策は退けられる。


だが、それが明日の戦における島津の立ち位置を、すべて決めたわけではない。


それでも、義誠には分かっていた。


この戦において、島津が他家と同じように動くことはない。


義弘は、それ以上、多くを語らなかった。


だが、陣へ戻る道すがら、その表情には、これまで見たことのない、冷ややかな諦めが浮かんでいた。


「殿。此度の戦、我らは、どう動きましょう」


義誠が問うと、義弘は、静かに答えた。


「三成殿の指図だけに従うつもりはない。我らは、我らのやり方で、この戦を生き抜く」


義誠は、その言葉に、静かに頷いた。


九月十五日、関ヶ原。


夜明け前から立ち込めた深い霧の中、両軍は、互いの位置を測りかねたまま、対峙していた。


島津の陣は、西軍の一角に置かれていた。


義誠は、豊久と共に、その陣頭に立っていた。


「先手を切るのは、他の諸隊。我らは、様子を見て動く」


豊久の言葉に、義誠は頷いた。


それは、前夜の一件も踏まえ、島津が独自に定めた立場だった。


やがて、霧が晴れると同時に、戦が始まった。


銃声と喊声が、瞬く間に関ヶ原を満たしていく。


石田隊は奮戦するも、次第に押され始めていた。


三成の使者、八十島助左衛門が、島津の陣に駆け込んできた。


「石田様より、前線への加勢をとの仰せにございます!」


豊久は、馬上から、にべもなく答えた。


「各々、戦の仕方がある。他家に指図されるいわれはない」


使者が去った後、三成自らが、陣を訪れた。


だが、豊久の返す言葉は、変わらなかった。


「戦は、各人がそれぞれのやり方で行うもの。今日の合戦に、余の指図は無用でござる」


三成は、悄然として、去っていった。


義誠は、その一部始終を、黙って見守っていた。


痛ましい。


だが、この意固地さもまた、島津がこれまで積み上げてきた、独立した戦い方の証でもある。


戦況は、やがて、大きく動いた。


松尾山に陣取っていた小早川秀秋が、東軍への攻撃を開始したのだ。


その一撃を境に、西軍は、瞬く間に瓦解し始めた。


大谷吉継隊が崩れ、宇喜多秀家隊も持ちこたえられず、戦場から次々と兵が引いていく。


「これは……」


義誠は、その光景を、静かに見つめていた。


史実の通りだ。


西軍は、ここで総崩れとなる。


島津の陣にも、東軍の追撃の波が、確実に迫りつつあった。


周囲を固めていた味方の陣も、次々と姿を消していく。


「義弘公。このままでは、我らも、東軍の大軍に飲み込まれましょう」


義誠の言葉に、義弘は、静かに頷いた。


「分かっておる。だが、背を向けて退けば、格好の的になるだけだ」


義誠は、地図の上に、視線を落とした。


義弘の本陣から見て、退路は、すでに東軍の大軍によって、幾重にも塞がれつつあった。


普通に退けば、全滅は免れぬ。


これまで、幾つもの戦場で、退路を制し、味方を守ってきた義誠にとって、この状況は、これまでで最も厳しい難題だった。


「策が、ないわけではございませぬ」


義誠は、静かに、そう切り出した。


「ですが、この策は、これまでのどの戦よりも、多くの犠牲を、そしてご自身の覚悟を、必要とするものにございます」


義弘は、義誠の目を、まっすぐに見返した。


「申せ」


関ヶ原の戦場に、これから語り継がれることになる、伝説の退却劇の幕が、静かに上がろうとしていた。


────────────────────


あとがき


関ヶ原本戦当日を描きました。


前夜に伝わる夜襲策、そして島津が独自の判断を重んじたこと、小早川秀秋の寝返りによる西軍の崩壊までを、一気に描いています。


今回は、義弘公の夜襲策について、後世に伝わる逸話として扱い、史実として断定しすぎない形に修正しました。


義誠にとって、これまでのどの戦とも違うのは、味方である西軍そのものが、目の前で崩壊していく様を、ただ見ていることしかできないという点です。


そして、ここから島津は、退路を失った戦場で、誰も予想しなかった決断を迫られることになります。


次話、いよいよ島津の退き口——伝説の敵中突破です。


感想、レビューお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。