↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島津悪鬼録 ~敵味方に恐れられた男、島津に天下を獲らせる~  作者: 春野ケイ
九州統一

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/38

第二十三話 鍋島という男

沖田畷の敗戦から間もなく、龍造寺家では、隆信の嫡男・政家を当主に据えつつも、実質の差配を、家老の鍋島直茂が担うようになっていた。


「政家様は、まだ若く、この混乱をまとめるだけの器量には……。すべて、直茂殿の胸一つで動いておるようです」


義誠は、飯野から肥前入りした義弘の陣で、そう報告した。


「その直茂という男、隆信の下で、これまでも数々の戦を切り盛りしてきたと聞く。侮れぬ相手だな」


「はい。武よりも、調略と内政に長けた男だと聞き及んでおります。此度の降伏交渉、私が向かうことをお許し願えませぬか」


義弘は、義誠の顔をしばし見つめた後、頷いた。


「良かろう。ただし、龍造寺の家名を、無闇に踏みにじるような真似はするな。これから先、九州をまとめていく上で、遺恨は少ないに越したことはない」


「肝に銘じまする」


義誠は、僅かな供回りだけを連れ、佐賀城下へと向かった。かつて、龍造寺隆信という男を、遠く肥前の太守として警戒していた頃を思えば、こうして自らその城下に足を踏み入れる日が来るとは、感慨深いものがあった。



佐賀城下、龍造寺方の陣所で、義誠は鍋島直茂と対面した。歳の頃は、義誠よりも一回り以上、上に見えた。落ち着いた物腰の中に、油断ならぬ鋭さを秘めている男だった。


「有村殿の名は、九州のあちこちで耳にする。木崎原、耳川、そして此度の沖田畷。すべてに関わっておられたとか」


「過分な評判にございます。私一人の手柄ではございませぬ」


「その謙遜、かえって底が知れぬな」


直茂は、そう言って、小さく笑った。


「降伏の条件、聞かせていただこう。無論、龍造寺の家名を残していただけるのであれば、抗う理由もない」


「家名も、政家様のご当主としてのお立場も、これまで通りお認めいたします。ただし、以後は島津への従属を明らかにしていただき、肥前国内の兵は、島津の求めに応じて動いていただくことになりましょう」


「厳しいようで、案外、道理にかなった条件だ」


直茂は、義誠の言葉を反芻するように呟いた。


「一つ、伺いたい。有村殿は、なぜ降った者に、これほどまでに手荒な真似をせぬのか。木崎原でも、耳川でも、降兵を無用に殺めることはなかったと聞く」


義誠は、しばし考えてから、静かに答えた。


「無駄な殺しは、後々の遺恨を生むだけにございます。それに——」


「それに?」


「今日の敵が、明日の味方になることもある。この乱世では、珍しいことではございませぬ」


直茂は、その言葉に、興味深そうな目を向けた。


「その理屈、儂も嫌いではない。政家様のためにも、島津殿との誼を、大切にしたいものだ」



交渉は、思いのほか円滑に進んだ。龍造寺家は、島津への従属を正式に受け入れ、肥前国内に残っていた国人衆の多くも、これに続く形で、次々と島津方へ靡いていった。


陣を辞する際、直茂は、義誠にこう告げた。


「お主のような男が、島津にはあと幾人おるのだろうな。数ではなく、質で勝つ家というのは、厄介なものだ」


「買い被りにございます」


「いや、そうではない。……いずれ、また相まみえることがあるやもしれぬ。その時は、味方としてか、敵としてか——楽しみにしておるぞ」


義誠は、その言葉の裏に、ただの社交辞令ではない、確かな重みを感じ取っていた。


——鍋島直茂。この男、この先も、島津の行く末に関わってくるかもしれぬ。


前世の記憶の中に、その名がどう記されていたか、義誠は正確には思い出せなかった。だが、これほどの器量の男が、歴史の表舞台から、そう簡単に消えるとは思えなかった。


義弘への報告を終えた夜、義誠は、九州の絵図を、改めて広げてみた。日向、大隅、薩摩、肥後、そして肥前の大半。島津の勢力は、いつしか、九州のほとんどを覆うまでになっていた。


——あと、残るは筑前と、大友の本国、豊後のみ。


九州統一という文字が、これまでになく、現実の距離として、義誠の目に映り始めていた。



────────────────────


あとがき


沖田畷の戦後処理を、龍造寺方の実質的な差配者、鍋島直茂との対話を中心に描きました。後に佐賀藩の礎を築くことになるこの男を、単なる敗軍の使者としてではなく、義誠と対等に渡り合う、聡明な人物として描きたいと思っています。


「降った者には手荒な真似をしない」という義誠の一貫した姿勢が、今回は敵将の口から、改めて言語化される形になりました。これもまた、彼の評判が、単なる恐怖だけでなく、一定の信頼として広がっている証だと思います。


次話からは、いよいよ筑前・筑後方面への進出を描いていきます。九州統一まで、あと一息です。


感想、レビューお待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。