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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第五章 中の島の攻防

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救援(1)

橋が封鎖されてから五日が経った。


マクシミリアンの熱は三日前に僅かに下がったが、二日前にまた高くなり全身に発疹が現れた。

フロルはひたすら河の水を汲んで来てハンカチを濡らし、マクシミリアンの体を冷やし続けた。


高熱のせいでマクシミリアンの呼吸は荒くとても苦しそうだ。はしかは脳炎や肺炎を引き起こす事もある。そして、そうなってしまえばほぼ命はない。


解熱薬や痛み止めの薬はもう無いが、何か代替薬はないか?と思ってフロルは女性患者達の部屋を訪れた。はしかに感染した患者は同じ建物に収容されているが、女性患者と男性患者の部屋は別々だ。そして、マクシミリアンの母親のロイスティーネはずっと女性患者達の部屋にいる。男性患者は中の島の表島在住の男性医師が診ていた。


男性患者の部屋にはマクシミリアン以外にも男性患者が数人いる。そのほとんどが娼館を利用した客だった。ユリウスとマクシミリアンが河に飛び込んで救出した何とか子爵の甥という人もはしかを発症し高熱でうめいていた。こいつが向こう岸に渡りついていたら、疫病を王都中に振りまいてしまうところだった。その男は

「苦しい、痛い、息ができない、薬をよこせ、金なら幾らでも払ってやる。藪医者どもめ、早く何とかしろ!死にそうだ、苦しい!」

とずっと叫び続けている。

これだけ騒げるうちはたぶんまだ死なないだろう。とフロルは思っている。


女性患者達がいる部屋に行って、その様子を見ただけで薬は無いな。とフロルは理解した。誰も彼も首や脇の下を水で濡らした布で冷やす以外の治療を受けている気配がなかった。


とある女性患者の呼吸音を聴診器で確認していたロイスティーネにフロルは声をかけた。


「ロイス様。」

「何、フロル君?」

「あの・・マクス様の側にいてあげてくれませんか?マクス様すごく苦しそうで。・・その、側にいてくださるだけでもマクス様は、ほっとされるんじゃないかなと思って。」

「それはできない。」

とロイスは言った。


医師としての公平性を気にしているのかと思い、フロルは更に説得しようとした。

だけど、そうではなかった。


「私は悪い母親だから。」

「・・・・。」

「他人が苦しむのを見るのは平気なのに、あの子が苦しみながら死んでいくところは見ている事ができないの。」


それは普通の母親では?というか、むしろ良い母親では?と思ったが、ロイスは悲しそうな表情をして言葉を続けた。


「『あの事件』の時もそうだったの。私はマクスが公開処刑されると聞いて、それを見届ける事ができなくて王都から逃げ出してしまった。遠い遠い街まで逃げて。医学生だった頃は平気で処刑された罪人の解剖に立ち会っていたのに。・・だからグリューネバルト伯爵があの子達を助けてくれてあの子達が解放されて、その時他の団員の家族のように迎えに行ってあげる事ができなかった。他の団員が、嬉しくて泣いている家族に抱きしめられていた時、あの子は私がいない事をどう感じたのか・・・。

あの子は元々私に甘えて来る事はなかったけれど、あれ以来ますます私に何かを期待する事がなくなったわ。私は母親失格よ。あの子の側にいる資格すらそもそもないわ。そして今も・・怖いの。とても怖いの。」


それ、普通の事だと思いますけれど!

逆に、湖のように静かな心で我が子が拷問死させられるところを眺めていられる人って、母親としてやばいんじゃないでしょうか⁉︎


私だって同じ立場なら見ていられないよ!


だから、ロイスさんが良心の呵責を感じるような事じゃない。

そりゃーまあ、牢屋から解放されて外に出て、他の団員が家族に囲まれているのを見たら、自分の母親はどうしたんだ?ってマクス様も疑問には思ったかもしれないけど、それでマクス様が母親を恨んだり憎んだりって事はないと思う。


あの人はディムを決めるコンテストで会った時から今までずっと、浮世離れしているっていうか、頭の中がお花畑というか、正直言ってすごい変わり者だなって私は思っていた。アレク様はマクス様の事を騎士団一の人格者と言っていたけれど、私は騎士団一の変人だと思う。

そんなマクシミリアンが様がいつまでも執念深く母親を恨んでいるわけがない!


とフロルは思ったが、口には出さなかった。ロイスだって今この状況で「あんたの息子変ですよ」とは聞きたくないだろうし。


フロルは黙って部屋を出て行った。


薬があれば。食料が十分にあれば。マクスが少しずつでも回復していっていれば。

そうだったならロイスの心境もきっと違っただろう。


「お腹空いたなあ。」

とフロルはつぶやいた。


昨日から食事が麦がゆだけになった。でも『コマドリの家』の人達はもっとお腹を空かせているはずだ。ロイスと看護婦達が必死になって説得し、一日一食だけ入院患者達は食事を食べるようになった。だが、その食事もまもなく尽きるだろう。


「フロル、泣いているのか?」

廊下の隅でうずくまっていたらユリウスが駆け寄って来た。フロルは自分が泣いている事に気がついた。もう正直フロルもいっぱいいっぱいだった。


歯を食い縛るフロルの頭にユリウスはそっと手を置いた。心が弱くなっているから。ユリウスに抱きついて声をあげて泣きそうになった。


その時。ユリウスの背後の窓の向こうに見えるものがあった。

娼館という場所は、外を歩くお客様に中にいる女性達の顔がよく見えるよう、窓がとても大きくできている。その窓の向こうから一隻の船が見えたのだ。


伝染病が流行り出して以来、この周辺には全く船が来なくなった。だから、珍しなと思った。

船がどんどんと近づいて来るに従って、乗っている人の顔を見えるようになった。


「あれは!」


グリューネバルト家の紋章が船には掲げてあった。そしてその船に、親友のリーリアとアレクが乗っているのが見えた。

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