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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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リンゴ診療所

ハイネン村は入ってすぐ一本の道がまっすぐ北に向かって伸びていた。

その道を50メートルくらい進むと広場があり、広場の中央に幹の太い古木が生えていた。古木の周囲には無数の挿し木がありそれらにもたくさんの葉が生い茂っている。その木は村人達にとても大事にされているらしく周囲に柵が設けられていた。


「これがオリーブの木ですか?」

とフロルはシュテファンに聞いた。


「ええ、樹齢一千年を超えるというこの村のシンボルです。」


それはすごい!とフロルは思った。というか、これだけ存在感のある古木なら見逃す事は絶対無いだろう。万が一見逃してしまったとしても、村人に聞けば場所を教えてくれるはずだ。


その広場からは北東、北、北西の方角にまっすぐで広い三本の道が伸びていた。それぞれの道にたくさんの街路樹が植えられており、道の手前にはそれぞれ『サクランボの小道』『アプリコットの小道』『リンゴの小道』という立て看板が立っていた。


「街路樹が多い街なんですね。」

「綺麗な花が咲き実もおいしく食べられる木をたくさん植えているそうです。村人や観光客が楽しめるように。周囲の堀は盗賊対策でもありますが害獣対策でもあるのだそうですよ。」

とシュテファンは答えた。


『オリーブの木が生えているところまで行って、そこからリンゴの木が生えている道をまっすぐいく』

という説明はとってもわかりやすかったのだという事にフロルは感心した。


「・・襲撃者達は、僕達を待ち伏せしてましたよね。」

とシュテファンは言った。


「襲撃者は僕達が、あの道を通ってルリさんに会いに行く事を知っていたんです。ルリさんやルリさんと暮らしている子供達の事が心配です。僕、先に行っています。フロル君はここでヴェル達を待っていてください。」

「待ってください!今は別行動はとらない方がいいですよ。だいたいルリさんの家に既に賊が侵入していたとして。ルリさん達が人質になっていたとしたらシュテファンさんに助け出せるって言うんですか⁉︎

ここでヴェル様達を待ちましょう。」


確かにその通りだと思ったのだろう。シュテファンは思いとどまった。


その後、フロルとシュテファンの間に会話はなかった。


その時間はたぶん数十分だろう。しかし、フロルには何時間にも感じられた。


シュテファンと別行動をとらなかったのは、その方が良いと思ったからというのもあるが、内心フロルがシュテファンを疑っていたからでもある。もしシュテファンが襲撃者の共犯者なら一人でルリさんの所に行かせたりしたらルリさんが危ない。


ただフロルがシュテファンを疑っている事に深い根拠はない。

ただ単に、新緑騎士団員を疑いたくない、というだけの理由だ。


そして、シュテファンが潔白であった場合。シュテファンの方はフロルの事を疑っているだろう。残りの三人は兄と、兄の友人と兄の部下だ。

それに対してフロルは新緑騎士団に入って間もない新参者なのだから。


ものすごく気まずい数十分。


ユリウス達三人がオリーブの木の側に現れた時は、フロルはあらゆる意味でほっとした。


「フロル無事だったか⁉︎」

とユリウスが聞いてくれる。

「はい!」と言った後、「ユリウス様もご無事で良かった!」という言葉を言いそうになり慌てて言葉を飲み込んだ。ユリウスは無事なようだったが、オーラフが無事ではなかった。右足を斬りつけられ足から血が滴り落ちている。


「ルリという人の所に行く前に医者に寄りたい。シュテファン、病院の場所わかるか?」

とヴェルが質問した。


「ルリさんが医者だ。孤児院は病院を兼ねているよ。」

「ここから近いのか?」

「徒歩でも五分はかからない。」

「よし、行こう。オーラフ、もう少し頑張れ!」

「はい。」


「賊はどうなったんですか?」

とフロルはユリウスに聞いた。」

「村からの救援に気がついて逃げて行った。何人かに深手は負わせたが生け捕りにはできなかったのでまた襲って来るかもしれない。」

「あの賊は・・強盗ではないですよね。」

「私とヴェルが今回も重点的に狙われていたから、あの侯爵夫人の手の者かもしれないな。」

「え?」

「白葡萄荘は、あの侯爵夫人の持ち物だろう?」


そうだった。襲撃の黒幕はヴェルの母親と思われるリーナさんではなく『あの侯爵夫人』である可能性が高いのだ。

考えるべきなのは、侯爵夫人とリーナさんあるいはリーナさんの姉妹との関係性なのだ。


今は、それ以外の事は考えまい。そう思ってフロルは、クークーが入った鳥籠をぎゅっと抱きしめた。


そして、ルリという女性の元に向かった。



ルリさんの家は『リンゴの小道』沿いにあった。赤い切妻屋根をした小洒落た建物だった。リンゴの実の色みたいな色の屋根だなとフロルは思ったが誰でもそう思うものらしく、病院の名前は『リンゴ診療所』だった。


「すみません、急患です!」

とヴェルが叫ぶと、庭で遊んでいた子供達がわらわらと寄って来た。一番年長っぽい女の子が「入って入って」と言って中に入れてくれる。


診療所の中に他の患者はおらず、女医と思われる女性は老婦人とおしゃべりの真っ最中だった。フロル達の事を見て、血を流している患者よりもシュテファンの顔を見て驚いていた。


「え?シュテファン君⁉︎」

「ご無沙汰してます。こちらは僕の兄のヴェルギールで、怪我をしているのは兄の部下です。どうかよろしくお願いします!」

「ああ、うん。わかった。そこのベッドに横にならせて。」


その後30分くらいバタバタとして、その後ようやくフロルとユリウスとヴェルギールとシュテファンはルリさんと差し向かいで話をする事ができた。ちなみにオーラフは鎮痛剤を処方されて眠っている。ルリさんや子供達が何かの襲撃に遭った気配はなく、その事にフロルはほっとした。


「アデルリーナ・ライゼーよ。よろしく。」

黒髪美人の女医さんが笑顔で自己紹介する。そういえば『ルリ』というのは愛称で、本名はアデルリーナっていうのだったっけ。とフロルは急に思い出した。彼女も柑橘系の良い香りがする女性だった。


「シュテファン君はー、大学受かったの?もう大学生?」

「事情があって受験しなかったんです。まあでも、その話はまた後日。今日はご友人のアデルリーナさん、通称リーナさんの事が聞きたくてこちらに伺ったんです。」

「リーナの?リーナがどうかしたの?」

とルリは心配そうな顔をして言った。その発言を聞いてフロルは『リーナさん』は良い人なのだろうと思った。リーナさんが言動や性格に問題がある人だったら「どうかしたの?」ではなく「何かしたの?」と聞いて来るはずである。


「ヴェルギールの身の上話は以前にした事がありましたよね。最近になってお父さんがようやく告白してくれたのですが、ヴェルと一緒にバスケットに入れられていたメモ紙から、リーナさんがいつもつけていた香水の香りがしたって。なので、リーナさんがヴェルの事情を何か知っているのでは?と思ったんです。正直に言いますと、リーナさんか、リーナさんの姉妹がヴェルの母親ではないかと思っているんです。」

「リーナは一人っ子で姉妹はいなかったわ。だからリーナがお父さんの跡を継ぐ為に大学の医学部に通ったのよ。それに、リーナがヴェルギールさんの母親?・・・それはないと思うけれど。もし、そうだったら私には教えてくれたはずよ。」


「という事は、今でもリーナさんとは連絡をとり合っているのですか?」

とユリウスが質問した。


「彼女は今、どこに?」

「リーナとはエルネストロートの内戦が終わった後、大学で再会したのよ。私達偶然同じ大学の医学部を受験したの。私は卒業した後祖父母のいるここへ戻って来たけれど、リーナはそのまま大学のある街に残って今もそこで暮らしているわ。最後に会ったのはリーナが結婚した二年前だけど、手紙はずっとやり取りしているの。」

「という事はリーナさんは大学都市にいるのですか?」

「いいえ、リーナがいるのはグリューネバルト領よ。」


何だって!

フロルは叫びそうになった。


リーナさんを探してはるばるグリューネバルト領からやって来たのに、リーナさんはグリューネバルト領にいるだと!


「そうなんですか・・・。」

とユリウスも呆然として言った。


「ルリさん。リーナさんはどういう香水を愛用していたのですか?」

一瞬、何かを考えてるような表情をしてシュテファンがそう聞いた。


「香りを言葉で表現するのは難しいかもしれませんが。」

「ああ、ちょっと待っていて。私、その香水持っているわ。」

とルリが言った。


「永遠の友情を誓い合った女友達同士で、自分の家に伝わる香水を交換するという伝統がエルネストロートにはあったの。」


今現在、フロル達は病室ではなく自宅の居間部分で話をしているのだが、ルリは居間の壁際にあった戸棚からガラスの小瓶を取り出した。


「こんな香り。」

と言ってルリはガラス瓶の蓋を取った。


シュテファンが

「あっ!」

と呟く。


その横でフロルは顔色を失っていた。誰が襲撃者と繋がっていたのかわかったのだ。

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