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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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亡命の条件(2)

エーデルガルトとの話し合いが終わり、フロルは自分の部屋へ戻った。


なんかすごい貴族令嬢だった。自分も大概、貴族らしくないと思っていたがそれ以上だ。とフロルは思った。

だけど、彼女は国王の愛妾と仲の悪い継子なのだ。きっとあれくらい根性がすわっていなければ今まで生き延びて来られなかったのだろう、とも思う。

でも悪い子ではないような気がする。

彼女の求め通り一筆誓約書を書いたのだが、それを見て彼女は

「うわー、字が綺麗だなー。」

と言ってくれたのだ。


フロルがぼーっと考え事をしていると

「フロル様。」

と言ってクリスティーネが部屋に入って来た。


「何?」

「新緑騎士団の、レーステーゼさんとカイトさん、それにホルガーさんという方が訪ねて来られました。」

「んええっ⁉︎」

フロルは慌てて飛び出そうとしたが、ドレスを着ている事に気がついて思いとどまった。ユーリとアレクだけならともかく他にも人がいるならドレス姿はまずい。


「着替えるから手伝って!」

とフロルはクリスティーネに頼んだ。グリューネバルトは王都から遠い土地なのに。

駆けつけて来てくれた事がとても嬉しかった。




ユリウスとアレクサンデル、それに第二隊の副隊長のオーラフ・ホルガーはグリューネバルト邸に着いてすぐ、ヴェルギールが休んでいる部屋に通された。ヴェルギールはエールを大量に飲んでグダグダに酔っ払っていた。


「あれぇ〜。ユーリとアレクとオーラフに似ている人がいる〜。」

「おまえは何で、真っ昼間から酔っ払っているんだーー!」

ユリウスが額に青筋を浮かべて怒った。

この三日間、ずっとヴェルとフロルの事を心配し続けていたのだ。それなのにこの醜態。グリューネバルト人達の目が無ければ殴っているところだった。


「医療処置なんです。」

とヴェルの側にいた女医のアリーセが慌てて言った。


「クローゼさんが飲まれた薬物は解毒薬がありません。なので、水分を大量にとって少しでも早く体外に排出する以外に処置方法がないのです。それで利尿作用のあるアルコールを飲んで頂きました。」


本当は、延々と水を飲ませていたのだがヴェルは伯爵夫人の姿で見舞いに来たフロルの腕を捻る事件を起こした。フロルが伯爵夫人だという事に気づかれたら困るので、全て夢だったという事にする為に酒を飲ませたのである。本来は肝臓に負担がかかる為、酒を飲むのはあまり好ましくないのだが、フロルの正体がバレないことの方がアリーセ達には遥かに大切なのだ。


「ユリウス様ー!」

酒臭い部屋の中にフロルが部屋の中に入って来た


無事な様子にユーリもアレクもほっとした。だが、すぐさまユーリは顔をしかめた。

「その手首の包帯、どうしたんだ?」

「え?」

と言ってフロルは手を背後に隠した。


「ちょっと火傷を。でも、もうほとんど治ってますから!」

本当はヴェルの指の跡がアザになって残っているのだ。なので、エーデルガルトと会う前に包帯を巻いて隠したのである。


「ご迷惑をかけて申し訳ありません。でも、来てくださってとても嬉しいです!」

「何があったんだ?まだ詳しい話を聞いていないんだ。」

とユーリが聞く。

「それが私にもさっぱり。変な薬入りのお茶を飲まされて、あ、私はハーブティーが苦手なので飲まなかったのですが、その後屋敷に火をつけられて。あ!その屋敷ってローゼンリール家の所有だったらしいです。」

「何⁉︎」

「私もそれ以外の事はさっぱり・・。」

「そうか。」

と言った後ユーリは

「二人の命が無事で良かった。」

と言った。


「ところで、何で床に馬のぬいぐるみが落ちているのだろう?」

と言ってアレクがぬいぐるみを拾った。「あ!」とフロルは内心で思う。


「んーとねえ、それはこの部屋に来た女の子が持っていたの。」

とヴェルが言った。

「ヴェルギール様。」

慌てフロルが言葉を遮ろうとする。


「その子に『誰だ〜』と言って、つかみかかったら逃げてっちゃった。あはは。」

「これ、私達が伯爵夫人にもらった馬にそっくりに見えるけれど。確か王太子殿下が、伯爵夫人は馬を買ったおまけに馬商人からぬいぐるみを贈られたと言っておられたけれど・・。ヴェル、まさかおまえ。」

「伯爵夫人につかみかかったのかーー!」

ユーリがヴェルの首を締めあげた。


「わー!ユリウス様、落ち着いて!」

とフロル達が騒いでいると


「入るぞ!」

とノックもせずにエーデルガルトが部屋の中に乱入して来た。




フロルはげっ!と思った。


つい先刻、素顔をさらしてエーデルガルトと面会したのだ。男装していても顔を見たら正体がバレるだろう。フロルはヴェルが横になっているベッドに突っ伏して顔を隠した。


「あなたは?」

とアレクが質問する声が聞こえた。


「僕の名前はエーデルガルト・フォン・ローゼンリールだ。ローゼンリール家の一人娘で、国王の愛人とは義理の親子になる。現在、グリューネバルト領に亡命申請中の身だ。ちなみに後ろにいるのはイルムヒルト。僕の死んだ実母の乳母だ。伯爵夫人に提示された亡命を受け入れる為の条件が、死んだ旦那の友人達を殺そうとした犯人を見つけ出して捕まえる事だそうだ。というわけで、被害者のおまえに話を聞きに来た。おまえが経験した事を一つ残らず話してもらおうか!」


「姫様、聞き取りならわたくしがいたします。どうか姫様自らこのような下賎な者どもと直接口を聞くような真似はおよしください!」

母親の乳母とかいう女がそう言った。だが、エーデルガルトは「ふん」と鼻で笑った。


「あの伯爵夫人は、ふんぞり返って下々の者に『善きにはからえ』と言っている奴に亡命を許可してくれるほど甘い女じゃねえよ。」

「ですが、こんな汚らわしい酔っ払いと姫様が言葉を交わすなど。」

「酒じゃなくて薬の影響でこんななってんだろ。でも確かに話が聞けそうにないな。もう一人も殺されかけたショックで寝込んでいて会えないという話だし、今時の男どもはほんと惰弱だよな。」

なんか、背中にアレクとユーリの視線を感じるような気がフロルはした。


「姫君は伯爵夫人にお会いになられたのですか?」

とアレクが聞いた。


「ああ、会ったぞ。」

「ヴェルギールとフロレントの事を伯爵の『友人』と言ってくださったのですか?」

そう言うアレクの声は感動したかのように震えていた。なんか感動する要素があるかな?とフロルは突っ伏したまま首をひねった。


「ああ、言っていた。ところで、おまえは誰だ?」

「新緑騎士団後方事務隊隊長アレクサンデル・カイトです。」

「そうか、わかった。僕のこの話し方や亡命申請中という事情を聞いても表情を変えないおまえは、なかなか見どころがある奴だ。よって僕の部下にしてやろう。男どもから話が聞けない以上、伯爵夫人にもう一度話を聞きに行く。おまえ、ついて来い。」


「承知致しました。姫様。」

とアレクは言った後


「ユーリ、おまえはフロレントから話を聞いてくれ。直属の上司であるおまえにならフロレントも会うだろう。じゃ、行って来る。」


エーデルガルトとアレクが部屋を出て行く音がして、ようやくフロルはベッドから顔を上げる事ができた。


すみません、アレク様。『伯爵夫人』には今は会えませんよ。フロルは心の中で謝った。


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