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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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亡命の条件(1)

「ローゼンリール家?」

フロルはぽかんと口を開けた。


「まさか、ローゼンリール侯爵夫人がヴェル様のお母さんって事⁉︎」

「年齢的にギリギリあり得ない話ではありませんが、本当にギリギリです。そう考えるよりはむしろ・・・。」

「罠だね。」

とフロルはつぶやいた。


ヴェルの事情は誰でも知っている。とアレクは言っていたから、ちょっと調べたら誰にでも、それこそローゼンリール家の人間にもすぐわかる事だったのだろう。

それで、新緑騎士団を憎むローゼンリール夫人は罠を仕掛けたのだ。熊をおびき寄せるのに箱罠に蜂蜜を仕込むように。「偽物に決まっている」と言って手紙を破り捨てたヴェルのお父様は正しかったのである。


ローゼンリール夫人は悪辣だが、ヴェルもフロルも少々考えが足りなかった。


だからと言って許せるわけがない。


「侯爵令嬢は応接室にいるのよね。」

フロルは闘志をみなぎらせて応接室へ向かった。



侯爵令嬢エーデルガルト・フォン・ローゼンリールは応接室のソファーに座っていた。後方には侍女が四人立っている。一人はウィンクラー夫人と同世代に見えたが他の三人は若く、どう見ても10代だった。


そしてエーデルガルト令嬢はその中でも輪をかけて若かった。まだ13歳なのだ。


エーデルガルトは美しい少女だった。顔は小さいが目が大きくまつ毛がバシバシに長い。筋の通った鼻に気の強そうな口元をしていて、たおやかなタイプには見えなかった。フロルの顔を見ると立ち上がったが、背はフロルと同じくらいある。しかし体の凹凸はフロルとは段違いだ。実にけしからん砂時計ボディーをしていて、後ろから姿を見たら13歳には見えないだろう。


若いながらも漂わせている傲慢な雰囲気や、大人顔負けのこのスタイルのせいで、重臣達の意見が二極化したのだとフロルはわかった。エーデルガルト令嬢は万民に「守ってあげたい」と思われる見た目ではなかったのだ。


「ローゼンリール侯爵令嬢エーデルガルト様です。」

と一番年上の侍女が名乗った。この侍女がまた、童話に出てくる悪い魔女みたいに無愛想にふんぞり返っている。態度といい表情といい助けを求めているように見えない。


そんな様子にカチンと来たのか

「グリューネバルト伯爵夫人フロレンティーナ様でございます。」

とフロルの後方に控えているアイゼナッハ夫人が固い声で言った。同世代の侍女達同士で火花が散っている。


「ようやくお目にかかる事ができましたわね。亡きご夫君の為修道院で祈りを捧げているという話でしたけれど、あまりに待たされたものですから、そのまま修道女にでもなってしまわれたのかと思っておりましたわ。」

とローゼンリール家の侍女が嫌味を言う。待たせた事を謝れ。と暗に言っているようだ。


お茶が運ばれて来て、茶菓子にクッキーとリーフパイも出て来た。毒味の為先にフロルが口をつける。

喉を十分に湿らせてからフロルは口を開いた。


「当方に亡命を希望されるとの事でしたね。」

「ええ、その栄誉を伯爵家に授けて差し上げるのです。」

と侍女が言った。


『栄誉』と来ましたか。フロルは苦笑いをした。自分達の方が格上の侯爵家。しかも先先代国王の血を引く王家の血筋。という誇りがあるのだろう。そして当然伯爵夫人であるフロルが、限りなく平民に近い生活を送って来た最下級貴族である事も知っているに違いない。


エーデルガルト令嬢に平身低頭し、彼女を崇め奉る事が期待されているのだとわかっているがフロルはそうしなかった。


「亡命は受け入れましょう。ただし。」

フロルはエーデルガルトの目をまっすぐ見据えた。

「条件があります。」


「条件ですって!なんて無礼な。」

侍女は目をつりあげたがフロルは気にしなかった。


「つい先日、私の亡き夫の大切な友人が殺されかけましたの。屋敷に呼び出され毒を飲まされ屋敷に火を放たれて焼き殺されかけたのです。その屋敷はローゼンリール家の別荘でした。」

「・・・・。」

「夫の友人を殺そうとした犯人を探し出して私の前に突き出してください。それが亡命の条件です。」

「なっ!」

侍女の顔が焼けた鉄のように赤くなった。


「そんな事、姫様とは何の関わりもありません。どうせやったのはあの女狐に決まっています。」

フロルも同じ意見だが、証拠が無い。証拠を示せとフロルは要求したのである。


「動かぬ証拠と共にお願いします。冤罪を誰かにかけて適当に誤魔化す事は許しません。」

「伯爵夫人。」

ドスのきいた声で侍女が言った。


「いくら亡き夫の友人とはいえ、特定の男性に特別な配慮を働かせるような真似は伯爵夫人御自身の不名誉を噂されますわよ。」

「面白い事を言われますね。私は一言も夫の友人が『男』だとは言っていませんよ。」


ふんぬぅっ、という表情で侍女が黙り込んだ。両肩がプルプルと震えている。


フロルは一歩も引くつもりはない。断られたら、この感じの悪い団体を叩き出すだけだ。


当初フロルは、侯爵令嬢に労働をさせようと思っていた。フロルだって養父母が生きていた頃は何不自由の無い生活をしていたのに12歳で養父母を亡くした後は、平民が経営する食堂で下働きをして生きて来たのだ。侯爵令嬢は13歳だ。特別病弱にも見えないし働けないわけがないだろう。


この世の中には一定数、貧乏人が餓死するのは自己責任だがお金持ちのお嬢様がお腹を空かせているのは可哀想、とほざく馬鹿がいる。


世界中の誰しもが、働けないほど病弱でない限り金がないなら働かなくてはならないのだ。自分は高貴な人間なのだから働かずに贅沢がしたい。という人間を視界に入れる事すらフロルは不快だった。


だけど、先刻のヴェルの様子を見てフロルは条件を変えた。正直、13歳の女の子に犯罪事件の犯人当てが出来るとは思えない。だが、犯人を探す為に真剣に努力をするか否か?それを見て考えようと思ったのである。


冗談じゃない。そんなめんどくさい事、絶対嫌!

というのならお引き取り願うだけである。


「なるほど。殺人未遂事件と放火事件の犯人を探して首を差し出せというのだな。」


一瞬、誰がしゃべったのかフロルは気づかなかった。目の前の侯爵令嬢がしゃべったのだというのに気がつくのに五瞬くらいかかった。


「その話のった!犯人を見つけ出して、たっぷり首を洗わせた後、おまえの鼻先に突き出してやろうじゃないか!」

「・・・・。」

「ただし、おまえも自分の言った言葉をたがえるなよ。僕が犯人を見事捕まえた暁には僕と侍女達の亡命を許可してもらう。その時になって、何の事かわからない、とか言い出したりしないよう一筆書いておいてもらおうか!」


フロルもアイゼナッハ夫人もぽかーん、としてしまった。この侯爵令嬢。口調といい根性といいフロルの想像を遥かにぶっ超えた人のようであった。

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