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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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騎士団への報告

ヴェルが目を覚ました事をフロルが泣いて喜んでいた頃。


新緑騎士団の団舎の門の側で、帰宅予定時刻を過ぎても戻って来ないフロルとヴェルの事をユリウスが心配していた。


そんなユリウスを見てマクシミリアンが声をかけた。


「ユーリ、そんなに心配しなくても。ヴェルの事を紳士だと信用していたのだろう?」

「だがもう夕方だぞ!このままでは夜になってしまう。」

「きっと、何かのトラブルに巻き込まれているだけだよ。」

「それを心配しているんだろうが!」


二人が噛み合わない会話をしているところに、一台の馬車が駆け込んで来た。グリューネバルト家の紋章付きの馬車だった。


馬車の中から出て来たのはリーリアだった。マクシミリアンは嬉しそうに笑顔を見せたがユリウスは半歩後ずさった。リーリアがすごい剣幕で押しかけて来た時に、碌な事があったためしがなかった。


「いらっしゃい、リーリア。」

「マクス、緊急の用なの。団長様に会える?」

「何の用だ?」

とユリウスが聞いた。


「私もよくわからないんだけど。」

「そんな曖昧な理由で取り次げるか!」

「手紙を預かってんのよ!」

とリーリアは叫んだ。


「ウィンクラー夫人からかい?」

とマクシミリアンがリーリアに尋ねる。

「ううん。ルーカスさんから。私も読んだのだけどわけわかんない手紙というか、書き殴ってあるし、体言止めばっかだし、解読不能だからもう直接この手紙団長のところに持って行けってウィンクラー夫人に言われて。」


「ルーカス卿は王都にいないの?」

「極秘任務でどっか行ってたの。そしたらそこで偶然火事に遭遇して、野次馬しに行ったら二階のバルコニーで『助けてー、助けてー』とフロルが泣いてたそうで、燃える屋敷の中に入ったらヴェルギールが毒だかヤクだかの影響で意識がなくて、ああとにかくここに手紙あるから読んで!」


ユリウスがリーリアの手から手紙をふんだくった。


「二人は大丈夫なの?」

マクシミリアンが蒼ざめてリーリアに聞く。

「大丈夫じゃないから報告に来たんでしょうが!とにかく私もわけわかんないけど、ルーカスさんは極秘任務中で急いでグリューネバルト領に戻らないといけないから、二人をそのまま一緒に連れてったって事は手紙から読み取れた。このままだと、二人が失踪とか誘拐とかいう事になっちゃうから、二人は全然無事じゃないけど無事だって事を騎士団に報告に行けってウィンクラー夫人に言われてここへ来たの。団長に面会できる?」

「来い!」

と言ってユリウスは踵を返した。その後をリーリアとマクシミリアンはついて歩き出した。



団長室では、団長がアレクサンデルから今月分の会計報告を受けていた。


緊急の用だと告げると団長はすぐにリーリアに会ってくれた。今、深緑騎士団内でのリーリアの評価はディムであるローザより何百倍も高いのだ。


書き殴った内容の手紙を見てアレクは顔色を悪くした。他人宛ての手紙をこんなふうに書き殴った書体で書いて来るなど余程の異常事態と推測できる。


「誰が届けに来たんだ?」

とアレクは質問した。

「ナントカカントカって街の食堂の下働きの子。お金渡されて、王都まで配達を頼まれたって。その子も火事が起きていた事だけは気づいていたみたいだけど、それ以上の事は何もわからないって言ってた。」


「二人は今日どこへ行っていたんだ?」

と団長はユーリに聞いた。


「トラオームリヒトです。」

「何しに?」

と聞かれたのでユーリは団長に事情を説明した。


「わけがわからない手紙だが、とにかく二人はアイゼナッハ卿と共にグリューネバルト領へ行ったようだな。」

と団長は言って眉間を押さえた。


「ユーリ、アレク。第二隊の副隊長を連れてグリューネバルトに確認に行って来い。二人の様子を確認して来るんだ。相手はグリューネバルト家だ。絶対に失礼がないよう対応しろ。」

「「はい!」」

と二人の声がそろった。


「僕も行きます!」

とマクスが手を挙げる。だが団長は


「おまえは駄目だ。病み上がりで体調がまだ本調子ではないだろう。それに、隊長が三人も一気にいなくなるのは困る。今回はおまえはなしだ。」

と言った。

「そんな・・。」

マクシミリアンは肩を落とした。


「ねえ、マクス。」

リーリアがマクシミリアンの服の袖を引っ張った。


「ヴェルの家族にも報告に行けって言われてんのよ。家がある場所教えて?できたら地図に書いて。」

「家まで案内するよ!」

とマクシミリアンは言った。


「では、団長これで失礼します。ユーリ、急いで旅支度をしよう!」


そうしてユリウスとアレクサンデルは半年ぶりにグリューネバルト領に向かう事になった。





フロルを乗せた馬車は三日かけて、グリューネバルト領に戻って来た。


ヴェルギールは意識を取り戻したが体は動かせないし、意識も混濁していて、今の状況を説明してはみたが理解しているのかいないのか?いまいち不明な感じだった。


グリューネバルト家の館に戻るとフロルはすぐにドレスに着替えさせられ、かつらをかぶせられて重臣たちと会議する事になった。

フロルが戻って来るまでに意見を一致させてくれていれば良かったのだが誰も妥協していなかったらしく、重臣達の意見は真っ二つでケンケンガクガクフロルの前でも舌戦を繰り広げる。疲れていたのと、ヴェルが心配なのとでイライラしていたフロルは


「侯爵令嬢と会ってみてどうするか決めます!」

と重臣達に伝えた。


そして侯爵令嬢と面会する事になった。その前に、フロルはヴェルを見舞った。

ヴェルはベッドの上で固く目をつぶって眠っていた。


フロルはかつて四頭の馬を買った時、無料タダでもらったぬいぐるみを持って来た。『伯爵夫人』は領地に戻ったのに、お気に入りのぬいぐるみが王都の屋敷に置きっ放しなのはおかしいだろうと、クリスティーネ達が王都から持って来てくれていたのである。

目が覚めた時、ブリューテにそっくりのぬいぐるみが側にあったらヴェルの心が慰められるのでは。と思ってヴェルの寝室に持って来たのだ。


目を閉じて眠っていると、ヴェルの長いまつ毛が尚更引き立つ。フロルは無意識のうちにヴェルの顔に触れようとした。


その途端!


目を閉じたままのヴェルに腕をつかまれ、ねじられたのだ!


「誰だ、貴様!」

聞いた事もないような冷たい声でヴェルは言った。背後に控えていたクリスティーネが手刀でヴェルの手首を叩く。力が緩み、フロルはヴェルの腕を振り払った。


フロルは部屋の外へ飛び出した。


「大丈夫ですか、フロル様⁉︎」

後を追って来たクリスティーネにそう聞かれた。


大丈夫ではなかった。ヴェルの哀しみと苦しみに胸が切り裂かれるような気がした。自分の母親かもしれない人に殺されかけたのだ。どんなにそれが辛く、苦しい事だったのか。

どんな時も、何があってもヴェルは笑顔を絶やさない人だった。それは彼の人としての余裕であり人格の深さだったのだろう。彼の怒りの声を初めて聞いた。今の彼には余裕というものが存在しなかった。彼を殺そうとした者がそれを奪ったのだ。


犯人が許せない!

とフロルは思った。

思えば今まで、恐怖ばかり感じていて怒りや憎しみを感じなかった。だけど、今フロルは犯人に対して怒っていた。


絶対、犯人を見つけてやる!

じくじくと痛む右手にそう誓った時。


ルーカスが足早にフロルの側に近づいて来た。


「ウィンクラー夫人から早馬で手紙が届きました。火事になった屋敷の所有者がわかったそうです。」

「誰⁉︎」

「それが・・・。ローゼンリール家の別荘だったそうです。」

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