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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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クリスティーネの昔話

そしてパカラパカラガッタンゴットンと馬車に揺られ、フロルは故郷グリューネバルトへ戻る事になった。


「ところで、亡命を申請して来たって事でしたけれど、受け入れるって事でいいんですか?」


フロルがそう質問するとクリスティーネは言葉を詰まらせた。


「それが、領地でも意見が分かれているみたいです。侯爵令嬢を受け入れるのは火中の栗を拾うようなものだと言って反対している人もいますし、どのような理由であれ若い少女が助けを求めているのだから受け入れるのが人道だと言っている人もいます。この亡命騒ぎがローゼンリール夫人の罠なのでは?と勘繰っている人もいます。」

「その子とローゼンリール夫人がグルって事ですか?」

「いえ、侯爵令嬢がローゼンリール夫人に上手い事操られているのでは?という事のようです。まだお若いですから。」

「侯爵令嬢って何歳なんですか?」

「13歳です。」


それは若い。というか幼い。


その年齢の少女が助けを求めて来たのでは確かに突っぱねにくい。しかし、その子が本気で命の危険を感じていてそれを保護するとなったら、その子の命をガチで狙っているローゼンリール夫人が怒り狂うだろう。そしたら、どんな報復をされるかわかったものではない。下手をしたらかつてのエルネストロート公爵領のように内戦になるかもしれないのだ。


「家臣達の間でも、全く意見がそろわないそうです。なので、フロル様に決めて頂こうという結論になったそうです。」

「・・・・。」


私だって、どうしていいかわかんないよ!

という叫びをフロルは飲み込んだ。


グリューネバルト領は遠い。

だから考える時間はたっぷりあるが、情報が少なすぎる。考えても妙案が浮かびそうになかったので、一旦フロルは思考をシャットダウンした。フロルとまだ意識の戻らないヴェルを乗せ、ガタゴトガタゴト馬車は進んで行った。



外の景色も変わり映えがなく、馬車の中でフロルは暇だった。


なので、以前から一度聞いてみたかった事をクリスティーネに聞いてみた。


「クリスさんとルーカスさんはどういう経緯で結婚したんですか?」

なんか、男装したクリスとの間に『何かあった』みたいな事を以前ウィンクラー夫人が言っていたのだ。(※二章の『新緑騎士団へ』での話です)


「私の故郷は貧乏でしたので、私はグリューネバルト領に出稼ぎに来たのです。その時ルーカスと同じ職場だったのでそこで知り合いました。」

「職場ってどこですか?」

「騎士団です。」

「え?」

「私、男装して騎士団にもぐりこんだんです。」

そう言って、えへっとクリスティーネは笑った。


「何で騎士団に?何か事情があったんですか?」

「それは話すと長くなるのですが。」

「時間はたっぷりあるので聞きたいです。」

「わかりました。」

そう言ってクリスティーネは昔話を語り始めた。


始まりは、ルーカスの父親とクリスティーネの父親の口喧嘩だった。クリスティーネの父親はグリューネバルト家の七大老家の出身で同じく七大老家の御曹司であるルーカスの父親と幼馴染だった。それが、ある年の新年会の帰り道。ルーカスの父親が息子自慢をして来てクリスティーネの弟を馬鹿にした。酒を飲んでいたせいもあるが『花を摘むのが趣味のナヨナヨした・・・』と女性には聞かせられない卑猥な表現で馬鹿にして来て、若い騎士団員達はその発言を一緒になって笑ったという。


クリスティーネの父親はかんかんに怒って、家に帰って来るなりクリスティーネの弟のディーデリヒにルーカスと決闘するよう命じた。

話を聞いたクリスティーネもはらわたが煮えくりかえるほど怒ったがディーデリヒの反応は薄いものだった。


「僕の仕事がバラの花を摘む事なのも、趣味が香油作りなのも本当の事です。言いたい人には言わせておけば良いではありませんか。別に僕の耳に直接聞こえてくるわけでなし、何を言われても僕は気にしませんよ。人がする噂話に全て反応していても時間を無駄にするだけです。」


そんな優しくて賢い弟を馬鹿にされた事がクリスティーネにはどうしても許せなかった。

なので、クリスティーネが男装し弟の名を騙って決闘に向かったのである。


「女性だとバレなかったんですか?」

「バレませんでしたね。弟はバラの精霊のように美しいと噂の美少年でしたから、むしろ『全然大した事ないじゃねーか』と言われました。」


ここまで話を聞いて、フロルのアイゼナッハ一族に対する好感度はストップ安となった。今、御者台に座っているルーカスの背中に蹴りを入れてやりたいくらいだ。


「それで、決闘はどっちが勝ったのですか?」

「決闘は中止になりました。」

「あ、伯爵様が止めたとか?」

「いえ、決闘会場に毒蛇が乱入して来たからです。」


よくわからないが、まあどっちかが死んだという事にならなかったのは良かったと思う。


「その時初めて会った父方の祖母がいろいろ苦労している事を知って、何か力になれないかと思ってグリューネバルト領に残ったんです。祖母には実家の家計が苦しいから働きたいと言って。まあ、実際家計は苦しかったですし。故郷の島にいつも商品を運んで来てくれる商人のエアハルトの家族がいろいろサポートしてくれたので女だという事もバレずにすみました。そのエアハルトの従妹がアリーセだったんです。

私とアリーセは親友になりました。」


アリーセは、ルーカスの兄イザークの妻の名である。


「クリスさん、男装してたんでしょう。アリーセさんと恋人同士とか誤解されたんじゃないですか?」


フロルもいつも世話を焼いてくれたリーリアと恋人同士と周囲に誤解されていた。なので軽い気持ちで言ったのだが。


「それが問題の根だったんです。」

とクリスは苦々しい表情で言った。


「ようするに『誰が』ディーデリヒの噂をグリューネバルト領にばら撒いたかって事です。ディーデリヒは故郷の島から出た事がなくてグリューネバルトの人間は誰も顔も人間性も知らなかったのに。つまりですね。エアハルトが至る所で噂していたんですよ。むしろ好意的にね。それで、エアハルトはうっかり言っちゃたそうです。アリーセにはディーデリヒ様のような優しく美しい方と結婚して欲しいって。

アリーセに求婚していたイザークさんや、イザークさんの家族としては面白くないですよね。それが高じて酒の席で父親同士の大喧嘩になったんです。」


それは、全面的にエアハルトという商人が悪い、とフロルは思う。アイゼナッハ家の株が少し上昇した。


「それで、どうしてルーカスさんとクリスさんが結婚という事になったんですか?」


「そこは私もよくわからないのですが、私が二年騎士団で働いた後故郷へ帰ったらルーカスが会いに来てくれたんです。それでプロポーズされました。」

「女性だって事がバレてたんですか?」

「エアハルトとアリーセがしゃべったそうです。」

「口の軽い商人さんですね。」

「いえ、私が故郷に戻った後ルーカスが男色裁判にかけられたそうで、私が女だという事を告白しないと下手したらルーカスが死刑になっていたのかもしれないそうです。」

「だっ!・・・何でそんな裁判にかけられたんですか⁉︎」

「さあ。私にもさっぱりわかりません。私達、手をつないだ事もなかったのに。」

心底不思議そうにクリスティーネは首をかしげた。


「もう一度聞きますが、何で結婚するという事になったのですか?」

「ルーカスがプロポーズしてくれまして、私は結婚は一番最初にプロポーズしてくれた人とすると決めてました。なので結婚しました。」

「何で結婚なんて大事な事を早い者勝ちで決めたんですか⁉︎」

「え?結婚こそ究極に早いものが勝つイベントでしょう?」


まあ、言われてみればそうだ。既婚者に対して「私の方があの人の事を深く愛している」とか「出会うのが遅かっただけ」と言っても何にもならないのだ。出会うのが遅かったというのは、こと結婚においては致命的なのである。


けど、話を聞いてもさっぱりわけがわからなかったし胸キュンもしなかった。


ルーカスやエアハルトという商人の話も聞いてみないと、何があったのか全然わかんないな?とフロルが思っていると


「・・う、うぅん。」

と言ってヴェルギールが目を覚ました。


「ヴェル様ー!」

安心してフロルは泣き出してしまった。

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