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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第六章 ローゼンリール邸放火事件

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火事

「誰かー、誰かー!誰かーー‼︎」


無駄だと思いつつもフロルは叫んでみた。


犯人は執事に決まっている。人間ならば、うっかり火事を起こしてしまう事はあるかもしれないが、客に出す茶に毒を入れるという行為は『うっかり』などという言葉ではすまない。

応接室が二階にあるというのも、考えてみればおかしな話だった。逃げられないよう二階にわざわざ案内したのだ。

この屋敷に他の使用人の気配は無かったし、もし他に使用人がいたとしてもそれは執事の仲間だろう。


フロルは窓を開けた。バルコニーはあるが、そこから下を見て高さにくらっとした。飛び降りるとか絶対無理!下が芝生とかだったらまだしも、石畳だし。

それにそもそもフロルの腕力では、意識を失っているっぽいヴェルを動かせない。


一人で逃げるという選択肢はないし、あったとしても逃げる方法がない!


詰んだ。オワた。


煙が目にしみて涙がぽろぽろと溢れて来た。焼死なんて餓死に並ぶ死にたくない死に方のツートップだ。

何でこんな事に。

そう思うと悲しくて怖くて苦しくて涙が止まらなかった。


「誰か・・誰か、助けて・・誰かーーー!」

フロルは声を張りあげた。


隣の家は100メートルくらい先にある。どんなに大声を出しても聞こえるはずがないだろう。だけど、煙が上がっている事は遠くの人にも見えるはずだ。誰かが、様子を確認しに来てくれないだろうか?


僅かな期待を込めてフロルは叫び続けた。


その時である!


馬のいななきが聞こえた。

それと同時に一台の馬車がこちらに向かって一直線に走って来た。当然、御者台には人が乗っている。


「・・・うそぉ!」


一瞬、幻覚かと思ってフロルは目をこすった。


「フロル様ー!」

「フロレンティーナ様ーー!」


ルーカスとクリスティーネの二人が、馬車の御者台に乗って駆けつけて来てくれたのである。




二人は、フロルの真下の位置に馬を停めると、馬車の屋根の上によじ登った。そして。


「はあっ!」

と叫びバルコニーの手すりに手をかけた。不安定な馬車の上だというのに1メートル近く跳んだだろう。そしてそのまま懸垂の要領で二階に這い上がって来てくれたのだ。

ルーカスだけではなく、クリスティーネまでである。


「良かった。フロル様ー!」

と言われてフロルはクリスに思いっきり抱きしめられた。ぐえー、という言葉をフロルは飲み込んだ。背骨が折れそうだ。違う理由でトドメを刺されそうだった。


「クローゼ殿はどうしたのですか⁉︎まさか、フロル様を置いて一人で逃げたのですか?」

「ち、違うよ。毒を盛られて・・中に。」


ルーカスが中へ入って行く。一瞬息を飲んだ後、ヴェルの脈をとって生死を確認した。それから、手をつけていなかったフロルのティーカップの匂いを嗅ぐ。


「毒ではなく、強力な麻痺薬です。典型的なデートレイプドラッグですよ。」

とルーカスは言った。


何故、そんな物を知っている・・・?

と思ったが問い詰めるべき時は今ではない。


「フロル様。クローゼ殿はルークに任せて先に逃げましょう。」

とクリスに言われ、問答無用でフロルはお姫様抱っこされた。


「え?ええっ⁉︎」

と言っている間に、クリスが躊躇なくバルコニーから飛び降りる。


「はんぎゃーっ!」

と若い娘には似合わない絶叫をあげてしまったが、落ちていく時間は僅かだった。馬車の上に落下したからだ。更にクリスはそこから地面に飛び降りた。抱きしめられたフロルは再び「んぎゃー!」と悲鳴をあげた。


震えながらフロルが二階を見上げるとルーカスがヴェルを肩の上に乗せ、いわゆる商人たちの間で『お米様抱っこ』と呼ばれる抱き上げ方をしていた。


男二人分の体重で馬車の上にどすん!と飛び降りたら、たぶん馬車の屋根が壊れるだろう。クリスティーネが御者台を経由してまた馬車の屋根の上に登り、両手を伸ばした。ルーカスがヴェルの体を慎重に降ろしクリスが下からガッチリと支える。

火の勢いは、すぐそこまで迫っていた。ルーカスはクリスティーネにヴェルを託し、馬車に繋いだ馬の鞍の上にひらりと飛び降りた。。それから地面に降り、クリスからヴェルの体を受け取る。最後にクリスティーネが馬車の上から飛び降りた。


すごいな!

フロルは震えながら感心していた。

ルーカスはともかく、クリスティーネのこの身体能力の高さと腕力。騎士団の男性達並みである。動きやすいようにかクリスティーネも男装をしていて、正直恋に落ちそうなほどクリスティーネはかっこよかった。


「逃げましょう!」

とクリスは叫んだ。フロルとヴェルを馬車の中に入れ、クリスティーネとルーカスは御者台に座る。すぐ側の木に繋いでいたフロルとヴェルの馬も繋いでいたロープを解いてやると訓練された良い子たちなので、馬車の後をついてきた。


そして、そのまま馬車を走らせ。


ここまで来れば大丈夫。という所まで来て馬車は止まった。


「フロル様、何があったんですか⁉︎」


馬車に乗り込んで来たクリスティーネにそう聞かれる。

だけどまず何より先に。


「ありがとー。二人は私達の命の恩人だよーー!うわあぁぁぁんっ!」

とフロルは号泣しながら感謝の言葉を述べた。


「怖かったですね。もう、大丈夫ですよ。」

と言いつつクリスティーネがハンカチで涙と煤を拭いてくれた。


「だ、だけど何で二人がここに?」

「フロレンティーナ様を追いかけて来たのです。」

とルーカスが言った。


「領地で大問題が発生しまして、フロレンティーナ様に急遽領地に戻って頂かねばならなくなったのです。それで、リーリアさんに呼びに行ってもらったら、貴女はクローゼ殿と一緒に外出中だとツヴァイク殿に聞かされたそうでして。それで、慌てて迎えに参った次第でございます。」

「『白葡萄荘』とやらを探していたら、火事の煙が見えて様子を見に来たらフロル様が大声で叫んでおられて、肝を冷やしました。良かった。ご無事で本当に良かった。」

「うぅっ。本当にありがとう。ありがとう。」


フロルはまたお礼を言い、それから

「ところで領地で何があったの?」

と質問した。

「グリューネバルト領に貴人きじんが亡命して来たのです。」

「亡命?誰が?」


「ローゼンリール侯爵令嬢です。」

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