ヴェルギールの家族(3)
ヴェルの発言にフロルは、ひっ!となったが、ユーリもアレクもマクスでさえ動じてはいない。
こんな事が普通の世界で彼らは生きているのだ。だからこそ、王太子付きの護衛官であるヴェルの父親は王太子の側を離れられないのだろう。
「まあでも、フロルの兄弟探しについて俺が何にもしてないってわけではないぞ。今日アデルリーナ様を訪ねていたのは、俺が捨てられた当時の事をアデルリーナ様に聞く為だ。俺がこの家の門の前に捨てられる前からこの屋敷に住んでいる親父の恋人はアディ様だけだからな。」
「・・・・。」
「あれ?この話、おまえにしてなかったっけ?」
フロルの気まずそうな表情を見て、ヴェルがびっくりしたような顔をした。
「・・・いえ、あの以前アレク様からお聞きしました。」
「あ、そう。まあともかく。アディ様の話によると、俺は一人でバスケットに詰められて捨てられていたらしい。双子の姉妹がいるかどうかはわからないそうだ。」
「お母様の手がかりは何も無かったんですか?」
「無かったらしい。量産品のバスケットに特徴のない服、普通の紙に書かれたメモ書きしかなかったそうだ。手紙の筆跡も親父やアディ様が全く知らないものだったらしい。」
・・それって、本当にヴェル様はクローゼ氏の子供なの?
という言葉をフロルは飲み込んだ。頭の回転が早いヴェルがその可能性を考えないはずはない。だからこそ、言ってはならない言葉だった。
「・・アデルリーナ様が一番昔からここに住んでいらっしゃるんですか?」
フロルは話題を変えた。
「ああ。アディ様は祖父の後妻の連れ子でな。親父とは義理の兄妹だったんだ。だけどアディ様が14歳の時アディ様の母上が亡くなった。じーさまは更に後妻をもらって、後妻はじーさまとは血が繋がらないアディ様の事を追い出そうとしたらしい。それで親父がアディ様を連れて家を出たんだ。それ以来ずっと一緒にこの屋敷で二人は暮らしている。」
うわー、義理の兄妹とか後妻によるイジメとか、よくある大衆小説みたい。
というかアデルリーナ様は、その後一人また一人と愛人を連れて来る恋人の事をどう思っているんだろう?
心中を察するのは正直怖い。
話をしているうちにフロル達は西館に到着した。
西館に着くとすぐに応接間に通されてお茶が出された。正直本館でもお茶は出たので喉は全く乾いていなかったがありがたく頂戴した。
そして、西館の女主人であるハンネローレ様とヴェルの二人の弟が挨拶に来てくれた。下の弟は6歳だが上の弟はヴェルと同じ年だ。ヴェルと弟はは二ヶ月しか年齢が違わないという。
「ようこそおいでくださいました。嬉しいですわ。」
とハンネローレ様は笑顔でフロル達を迎えてくださった。
別にハンネローレ様は不美人ではなかった。マシュマロのような顔に小さな目と口をしていて鼻も低いが上品で優しそうな人だった。
美人過ぎる人よりもこういう包容力のありそうなタイプの方が好きだ。という男性は一定数いるはずだ。
同い年の弟のシュテファンは、亜麻色の髪に青灰色の瞳、6歳のクヌートは栗色の髪に黒い瞳をしている。ヴェルと三人で並んでいても三人とも顔が似ていない。街をこの三人で歩いていて兄弟だと気づく人はいないだろう。
「ささやかなものですが夕食をご用意させて頂きます。どうか、ゆっくりされていってくださいね。」
とハンネローレが言ったのでフロル達は素直にその言葉に甘える事にした。
本当は一刻も早くヴェルが拾われた時の話が聞きたかったが、シュテファンはともかくクヌートの前で聞く事ではないと思ったからだ。
そのまま、まったりとお茶を飲んでいると突撃して来た来客があった。北館に住んでいる妹のビアンカが焼き立てのパイを持ってやって来たのだ。
「お母様がね。お客様が来ているって聞いてパイを持って行きなさいって言われたの。お母様が焼いたのよ。」
と言って差し出して来たのは美味しそうなホールのカスタードパイだ。
「まあ、おいしそう。イーディケ様にありがとうと伝えて頂戴ね。」
とハンネローレが笑顔で言う。
「はい。ねえ、ヴェルお兄様。エミリアーナと一緒に乗馬をしたって聞いたわ。ビアンカもお兄様と一緒に馬に乗りたい!グリューネバルト伯爵夫人から頂いたっていう馬が見てみたいわ。お願い、ビアンカも乗せて。」
「ああ、いいよ。」
とヴェルが言うと「やったー!」と言ってビアンカは飛び跳ねた。
ビアンカは笑顔でフロル達にも挨拶した。
正直に言う。顔の造作はエミリアーナの方が勝っている。だけどこの子の方が愛嬌があって可愛かった。
というか、同い年だし。ビアンカはエミリアーナに対抗心があるのだろう。もう一人の妹だけが遊んでもらえた事にわかりやすく嫉妬している。
それと同時に、ヴェルは妹二人にとても愛されているのだなあ。という事がわかった。
「ビアンカさんも一緒に夕食を食べましょう。」
とハンネローレが誘うと、ものすごくビアンカは喜んでいた。
夕食の席は温かかった。フロルは遠い昔。はしかで死んでしまった両親と一緒に暮らしていた頃を懐かしく思い出した。
夕食が終わるとちびっ子達二人は自分の部屋に戻って行った。
残ったメンバーは居間に移動し、ハンネローレはお茶とお酒を出してくれた。一番年上の兄という人は外出していたので、新緑騎士団の五人とヴェルの兄のルドルフ、弟のシュテファン、ハンネローレの姪のカティーナというメンバーだ。
「母上はさあ。俺がこの家に来る前から親父と付き合っていたんだよね。」
とヴェルが養母に尋ねた。
「ええ、そうだけど。」
「じゃあさ、俺を産んだ母親の事って何か知らない?」
ヴェルがそう言うと、ハンネローレとルドルフとシュテファンがはっきりと動揺した。
「え?・・えっ⁉︎突然どうして?」
「何か知っているの?」
「・・・・。」
「お客人の前で聞く事じゃないだろ。」
とルドルフが言う。
「別に俺は捨て子だった事も、親父に拾われた事も何とも思っちゃあいないよ。誰の前でも恥ずかしいとか気まずいとは思わない。それよりルディも何か知っているのか?だったら教えてくれ!」
「知るわけないだろう。おまえが生まれた時俺2歳だぜ。その頃はまだお袋が結婚する前で実の母親と住んでいたんだし。」
どうやら、このルドルフという男性は幼い頃は母親と暮らしていて、その母親が父親以外の男性と結婚をして父親の家庭に引き取られたらしい。
「・・私もその時期はあなたのお父様と交流がなかったから。」
「母上、どんな些細な事でもいいんです。噂みたいな話でも。」
ハンネローレはルドルフとシュテファンをちらちらっと見た。そして小さくため息をついた。
「二年前に、あなたがグリューネバルト伯爵に助けられた『あの事件』があったでしょう。あのすぐ後、あなたの実の母親と名乗る方からこの家に手紙が来たの。あなたに会いたいって。」




