国王の花園(2)
フロルは悲鳴をあげそうになった。現れたのはナインハルト・ツヴァイクだったのだ。
「ツヴァイク。伯爵夫人を連れて来た。」
ナインハルトは胸に手を当て礼をした。フロルは慌てて手に持っていた扇子を広げ顔の下半分を隠した。
やばいやばいやばいやばいっ!
フロルはナインハルトと面識があるのだ。めっちゃ近くで話をした事があるのだ。近くに寄って来られると絶対に正体がバレる!
「伯爵夫人。この者はわしの護衛官だ。新緑騎士団員のツヴァイクの父親でもある。この者がどうしてもそなたに礼が言いたいと言ってな。それでそなたをここに招待したのだ。わしは向こうへ行っておるゆえ二人で話すがよい。」
そう言って王様は他の護衛官達と一緒に向こうへ言ってしまった。お願い、置いて行かないで。王様、カムバック!
と叫びたいけれど叫べなかった。
声を出したら、正体がバレるから。
「グリューネバルト伯爵夫人。」
「・・・・。」
「このような場にお呼び出しして申し訳ありません。身分差を考えると大広間でお声をかけるわけにはまいらず、わたくしが陛下にわがままをお願いしたのです。伯爵夫人。わたくしの息子と妻の命を救ってくださりありがとうございました。どうしても直接お礼を言いたかったのです。」
「・・・いえ。」
消え入りそうな声でフロルは返事した。
「妻という言葉を不思議に思われるかもしれません。護衛官は仕える主の為に死ぬ事も仕事です。よって結婚する事を許されていません。ですがわたくしの心の中では間違いなくかの女医は妻なのです。」
「・・・・。」
へー。と思った。
護衛官って結婚できないのか。知らなかった。が、声を出してコメントするわけにはいかない。
「・・・・。」
「・・・・。」
ナインハルトは黙り込んだ。フロルも喋れない。ひたすら沈黙が続く。広間に帰りたい。夜風が寒い。
いったいどうなってんだ?
もう礼は言ったんだから十分でしょう。何で黙っているの。お願い、帰らせて。
「お気持ちは承った。なのでもう帰ろうぞ。」
フロルはふだん使わない言葉遣いで囁いた。
「伯爵夫人。どうか、いましばし。」
何でだよ!まだ何か言いたい事があるの⁉︎
そう思って言葉を待ったがナインハルトは黙っている。
「・・・・。」
「・・・・。」
いったい何なの、この無駄な時間は⁉︎
フロルはくしゃみをこらえながら首をひねった。
同時刻、大広間。
ウィンクラー夫婦はフロルの事を心配していた。
音楽がまた流れ出したのに貴族達はざわざわざわざわしている。
「陛下の庭園にお招きになるだなんて。それってそういう事よね。」
「陛下は人妻がお好きですものねえ。」
「しかも若いし。」
「でも、そうなったらローゼンリール夫人はどうなるのでしょう?」
「それは・・まあ、ねえ。」
声はローゼンリール夫人にも聞こえているだろう。ローゼンリール夫人が発言者を睨みつける。扇子を持つ手がさっき以上に震えていた。
違う意味でウィンクラー夫人も焦っていた。
どうか。どうか、フロル様ご無事で!
結局30分くらいしてフロルは王様と戻って来た。
「大丈夫ですか、フロル様⁉︎」
とウィンクラー夫人はフロルに駆け寄り声をひそめて言った。
「・・寒かった。」
「お顔の色が真っ青ですわ。今日はもう帰りましょう。」
とウィンクラー夫人が言う。
そうしてフロルの王宮訪問は終了した。
「陛下とずっと何をしておられたのですか⁉︎」
と馬車の中でウィンクラー夫人に聞かれたので、フロルは正直に話した。
陛下と一緒にいたのは五分足らずだ。残りの時間はずっとナインハルトといたのだという事を。
ただし、ナインハルトとかつて会った事があるという事は秘密にしておいた。ツヴァイク家を女装(?)して訪ねた事はウィンクラー夫婦には報告していないのである。
「・・ツヴァイク卿にやられましたね。」
苦々しい顔をしてウィンクラー夫人がそう言った。
「どういう意味?」
「フロル様がいない間、皆こういう噂をしていたのですよ。」
とフロルがいなくなった後の様子をウィンクラー夫人は話した。
「国王陛下がお気に入りの女性を連れ込む花園に、フロル様と二人で向かうようツヴァイク卿が陛下を言葉巧みに唆したのです。そして、長々とフロル様をその場に引き留めたのですわ。」
「何の為にそんな事をしたの?」
「陛下とローゼンリール夫人の間に亀裂を入れる為ですよ。嫉妬に狂ったローゼンリール夫人が何かとんまな真似をする事を期待しているのだと思います。実際ローゼンリール夫人は嫉妬で荒れ狂っていましたもの。」
おいおいおい!
とフロルは思った。礼を言いたいというのは口実かい!
フロルはちょっとキレた。
腹が立ったので、グリューネバルト邸に戻って来た後心配して屋敷で待っていてくれたリーリアに愚痴った。
リーリアはガチギレした。
「そんな事して、ローゼンリールって女が暗殺者とか送って来たらどうすんのよ!」
「いや、そこまで怒らなくても。」
「怒るわよ。明日にはきっとあんたが王様のお手つきになったとか、新しい愛人になるとか、そういう噂が王都中を駆け巡っているわよ。」
「あー、それは嫌だな。騎士団のみんなにそういう誤解はされたくないなあ。」
「そんな誤解をしないよう、マクス達に私から話しとくわよ。というか、息子のあいつも一枚かんでるんじゃないでしょうね。もしそうだったらあいつ泣くまでシメる!」
翌朝。リーリアは朝食をかき込んだ後、グリューネバルト邸を飛び出して行った。フロルはいつも通りの男装をして慌ててリーリアの後を追った。
「やあ、リーリアさん。おはよう。」
「マクシミリアン!あんたねえ‼︎」
リーリアはマクスのシャツをつかんで喉元を締め上げた。
「何をしているんだ、君は!」
ユーリとアレクが慌てて止めに入る。だけど、リーリアが興奮している理由を知ると二人とも目をつりあげた。
「それは本当か⁉︎」
「知っていたのか、マクス!」
二人が泣くまでマクシミリアンをシメそうな勢いだ。
「知るわけないだろう。それが本当なら僕だって父上の事が許せない。父上に会って来る!」
「王宮へ行くの?」
「昨夜、夜警をしていたというなら翌日は休みだ。だから家に戻って来るはずだ。」
「なら、私も行く。一緒に話を聞く!」
とリーリアが言った。
二人で朝からマクシミリアンの家に行ったら、家族にお付き合いしているんじゃないかと誤解されるんじゃないかなー。とフロルは心配になった。
えって?フロルは行かないのか?って。行くわけない。昨日会ったばかりなのにまたナインハルトと顔を合わせたりなんかしたら正体がバレる。
だから、ここから先は戻って来たリーリアから聞いた話だ。
暗い話も多かった第五章も残り1話です
読んでくださる皆様、本当にありがとうございます(*^^*)
皆様が押してくださるブクマや評価、リアクションにとても励まされています
まだ押した事がないという方
是非ともポチッと押して、作者の背中を押してやってください
どうかよろしくお願いします




