06.認識、理解、魔法。
「それじゃあ2人とも、片方のおててをつないで、余った方をお母さんの手に乗せて頂戴。」
「うん!」
ルミエの小さな手が僕の指と絡む。なんと愛おしく愛らしい。これ程の至上の幸福が有るだろうか?いや無い(反語)。
母の手に余った左手を重ねる。
「そしたらぎゅーっと握って頂戴。ゆっくり行くわよ。」
凄い。3人の体の裡を巡る魔力。初めは配管に詰まった泥のようだったそれが、ゆっくりと加速する。
母さんからルミネへ。
ルミネから自分へ。
自分から母さんへ。
母さんの穏やかな、凪のような静かな魔力。
ルミネの賑やかな、溌剌とした向日葵みたいな魔力。
熱い。
自身の冷えきったたどたどしい魔力とは違う。この暖かいものは……?
「……おかしい。どうしてこんなに暖かいの?」
いや違う!ルミエの物だ!
「母さんこの魔力ルミエのだよ!」
ルミエの顔がどんどんと赤くなってゆく。
体が火照って仕方がないらしい。
重なっている 右手の先が火傷するように熱い。
「2人とも、絶対に両手を離さないでね。私と相性悪いけれど、詠唱は覚えてる。行けるわ私。」
奮い立たせるように呟いた母さんの顔は、いつもの優しい顔をしつつ、厳しい眼差しだった。
「天にまします我らが主よ。我が権能を持ってこの者に祝福を与えん。全ての邪なる者より、毒あるもの、害あるものを絶たん。わが手に託されたる人々の幸のために身を捧げん。真なる再生。」
うっ。気持ち悪い。雨が降ってる時の船酔いみたいな感覚だ。揺れる船体、低気圧、高湿度、そのなにもかもが吐き気を誘ってきた時を少し超えたくらいの気持ち悪さを想像できる人はして欲しい。これは本当にやばい。
「柔らかい……?まるで背中を抱かれてるみたいな」
母さんの魔法でゴッソリと欠乏した体内の魔力が、母さんと自分それぞれに、ルミナの身体から分け与えられる様子が視える。
「一先ずは大丈夫そうね。ごめんねルー、とっても悪い気分になったでしょう。今何が起きたか説明するわね。」
つまり、ルミネはやばい。
咄嗟の判断で母さんがほぼ最上位の神聖魔法を使ったが、母さん単体どころか、教皇、聖女クラスでも恐らく足りない程の神聖かつ莫大な魔力をルミネは有している。
……と言うか常人が使ったら発動すらせず恐らく身体が弾け飛ぶ魔法をノータイムで必要だと判断したオフクロ、もしかして凄い人かヤバい人?
今の魔法でルミネの魔力の6割、母さんの9割、自分の9割9分9厘の魔力が吹っ飛んだが、余った魔力を2人に補填をしても、ルミネの魔力は余っている。
恐らく地上で最も多い魔力量かつ、最も巧みな神聖魔法の使い手であろう。
つまり、色んな意味でやばい。
1年前。既に勇者と聖女は発見されている。
神託により、今代の特異点は決まっており、尚且つ教会が管理している状態にある。その状態で、聖女、教皇より遥かに力を持つ幼女が見つかるのは本当にやばい。
元の体のルーカスの持っていた情報だけでここまで不味そうな予感がするが、母さんはどうするのだろう。
「いい、ルーカス。絶対にルミネの魔力のこと言っちゃ駄目よ。お父さんには私から言っておくから、この先一生言わない方がこのこのためになると思うの。」
「アイマム!絶対に言わない!」
「恐らくだけどこの家の結界の規模では防ぎきれてない程の魔法が発動したから、お母さんはもう1回この家の結界を貼り直して来るわ。その間、貴方はこの子から魔力を受け取っておいて。貴方、多分人の魔力量が見えてるでしょう?ルミネの魔力が1割くらいになるまで受け取っておいてくれる?」
「僕の体じゃ多分残りの3割も抱えきれなさそうなんだけど。」
「因みにだけどルーカスの魔力量も同年代からしたら割と馬鹿みたいな量をしているし、ルーカス、貴方の目に枝が刺さった日から、目を開けてる時はずっと魔力を消費しっぱなしだから多分大丈夫よ。」
「えっそうなの!?この目魔力使ってたんだ!?」
「本当にどこでそんな魔眼を拾ってきたのかしら……しかも片方は恐らく……いえ、確実に浄眼ね。私の持ってる左眼よりもどっちも遥かに強力。恐らく手に入れたのは目に枝が刺さった日。いえ、左眼は先天性……?なんで気が付かなかったのかしら?」
「母さん?今までそんな険しい顔見た事ないくらいすごい顔してるよ?」
「あら、ごめんなさい!私魔法とかに結構目がないタイプなの。昔は相当酷かったけど、これでもだいぶマシになったつもりだったんだけどなぁ……とりあえずお母さんはおうちの修理をするから、この子を見ていて……ってルミネは寝ちゃったみたいね。」
ルミネの顔を見ながらゆっくりと扉から出る母さんの顔を見て、僕は母さんを誇らしく思った。
ソードワールドの神聖魔法表から引っ張ろうかと思ったけど、あんまりやりすぎると怒られそうだからやめておこう。




