表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/60

第53話:修行&逃避行(5)

 朝食の席として瞬が寝ている小屋へヴァネッサは移動し、瞬と二人で朝御飯としては異様な量の食事に手をつけていた。

傍目から見れば二人では食べきれないであろう量だが、瞬は体が求めるのを答える様に次々と胃の中へと放り込んでいく。

気持ちの良い食べっぷりを見せる瞬の側で、ヴァネッサは食事に手をつけるでもなく、瞬の横顔を見ていた。

それに気づいた瞬は手を止めて彼女へと振り向く。


 『どうかしましたか、姫?』


 『あっ、いやっ、何でもない・・・』


 『?』


 『何でもないと言っている!・・・あ』


目が合った途端に顔を伏せたヴァネッサは何気なく取ったパンを口に放り込む。

すると、口の中の水分を絞り取ったパンのせいで、ヴァネッサはむせて咳き込んでしまった。

それを見た瞬はすぐさま彼女の背中をさすり、左手は水の入ったグラスを差し出す。

咳き込みながらもグラスの水を飲み込んだヴァネッサは、生き返ったかのように大きく息をついた。


 『ふぅ・・・』


 『大丈夫ですか?』


 『ああ、大丈夫・・・だ』


 『?』


しどろもどろで目を合わそうとしないヴァネッサに瞬はどう接すればいいのかが分かりはしない。

何か気に触る事でもしてしまったのだろうか?

自然と瞬も押し黙ってしまい、会話はそこで止まってしまった。

お互いが何も言わず、動きもしない気まずい雰囲気にヴァネッサは取り繕う様に別の話題を切りだした。


 『えっと・・・あ!そ、そういえば、あの悪魔』


 『え?』


 『じゃなかった、ロビン殿はどちらに?』


取り繕う様にヴァネッサは言ったものの、その前の呼び方はしっかりと瞬の頭に残った。

大分、つらい修業をしているみたいですね・・・。

瞬は思わず、限界を超える過酷な修行を続けるヴァネッサ、その隣で涼しげに、そして楽しげに見ているロビンの構図が浮かんでしまう。

そっと心の中で瞬は同情した。


 『ちょっと所用で出かけてます。ご飯を食べ終えた頃には戻ってくるそうです』


 『そうか、ちょうどいい。お前は彼と知り合いの様だが、彼は一体何者なんだ?私を軽く叩きのめす力や技を持つばかりか、お前と私の修行を掛け持ちでずっと見ているし、時には2、3時間にも及ぶ試合もする。体力の底がまるで見えん!それどころか知識も豊富で、食事もこの服も彼が用意したと言うではないか。一体、どうすればこんな山奥に・・・』


 『さ、さぁ。何分、僕も会ってからせいぜい3、4日程度ですからね。でも、本人は近隣諸国を回っている『旅人』と言ってましたから、旅をしている間に色々と出来るようになったんじゃないですか、多分』


 『・・・そうか。まるで魔法でも使っているかのように不思議な所が多いからな。瞬もそんなには知らないと言う事か』


 『そ、そうですね、あ、あはははっ』


笑ってごまかす瞬は内心では焦っていた。

ロビンから聞いた話では『旅人』という存在はそんなに知られてはいないそうだが、知っている者達は目の色を変えて力を求める。

現代では『W2』という統率された組織から追われたが、この時代では時の権力者達が我先にと国を上げて襲いかかるそうだ。

姫はそんな人ではないだろうけど。

ここでロビンの正体をヴァネッサに明かせば、彼女にそんな気はなくとも他人に伝わり、そこからロビンへと辿りつく事もあり得る。

それを避けるために彼女には正体を伏せている瞬。

ただ、本人にその気が無いのも問題なんですけどね・・・。

瞬は正体を隠そうとするのに対し、当人であるロビンは隠す気など微塵もなく、聞かれさえすればあっさりと隠す事もなく答えてしまうだろう。


 (それで敵が来たらどうするんですか?)


 (敵が来る?はっ、殲滅すればいいだけだろ)


にこやかに笑って言うロビンに、瞬は寒気を感じたのは覚えていた。

とりあえず、瞬も分からないという回答で納得してくれた様子のヴァネッサに、瞬の緊張で固まった顔が緩む。

自然と浮かんだ笑顔が視線を戻したヴァネッサの眼に止まり、彼女はどこかごまかすように話を続けた。


 『ま、魔法と言えば、瞬も闘技大会に出るが、魔法使用が有効なのは聞いているか?』


 『いえ、初めて聞きましたよ』


 『そ、そうか。闘技大会では魔法も技の1つと捉えられていて、魔法を使うのにも客席まで被害が及ばなければ制限もない。何せ、我がイーグランドは近隣諸国の中で魔法使いが一番多いからな。魔法を使っての戦いを得意にする者も多い』


 『そんなに魔法使いがいたんですか、それも知らなかったです』


 『我が国は領土は小さいものの、魔法使いと魔法技術は他を圧倒している。それがなければ今頃は他の国に吸収されていただろう』


 『なるほど。ところで、姫は魔法が使えるんですか?』


そこで会話は止まった。

というよりもヴァネッサの動きが止まり、強制的に会話が打ち切られた。

何か聞いてはいけない事でも聞いたかと思った瞬だが、聞くに聞けない雰囲気に押され、首を垂れるヴァネッサの反応を待った。

しばらくして口を開いたヴァネッサはさっきまでとは別人のように重い口取りで話しだした。


 『・・・いや、残念だが使えない。今まで使える様になるための修行などはやっているが、他の者は魔法を習得するのに私だけは何時まで経っても出ない。もしかすると、魔法の才能が無いのかもしれん』


苦笑交じりに言うヴァネッサだが、見て分かるほど明らかに気が沈んでいた。

それだけ魔法が習得できないと言うのは彼女にとってのコンプレックスなのだろう。

先ほどとは打って変わったような彼女に瞬は慌ててフォローに入らざるを得なかった。


 『続けていればいつか使えますよ!諦めずにやり続ける事が大事です!ね?もしかしたら、それだけ凄い魔法なのかもしれませんし』


 『・・・そうだな、何時かその時が来るまで楽しみにしていよう。瞬、お前は魔法を知らなかったようだが、魔法を習得する気はあるか?よ、よければでいいが、その、私と一緒に修行してみないか?』


 『姫と魔法修行・・・ですか』


 『そうだ。色々な工程があるが、私とお前が初めて会ったあの湖も身を清める魔法修行の一環だったんだぞ?』


 『湖・・・』


瞬は思い出していた。

絶望的な状況で出会った幻ではない本物の姫に会った時の事を。

そして何も身につけていない、いわゆる全裸の状態だった彼女の姿に目を奪われた事も。

頭に目の前にいるヴァネッサの裸の姿が浮かび、瞬が勝手に感じる恥ずかしさと気まずさから顔を赤くして伏せた。


 『どうかしたのか?』


 『いえ、その・・・すいません』


 『何がだ?』


 『とにかくごめんなさい』


ひたすら謝る瞬にヴァネッサが問い詰めようとした時だった。


 『ガキ共~、楽しい楽しい修行の時間だぞ♪』


何時もの気が引き締まらない間延びした声と共にロビンが現れた。

表面的には気分がよさげな表情だが、二人からすれば逆に気分が悪くなる表情だった。


 『嬢ちゃんはとりあえずいつものコースを走って、お前は俺に付いてこい。はい、開始~』


どうにも気が抜ける号令だが、ヴァネッサは慣れた様に外へと走り出した。

彼女がいなくなるとロビンは歩き出し、その後に瞬も続いた。

湿地帯の地面へと降り立ったロビンは慣れた様に歩き、瞬も足場を選んで後に続く。


 「昨日の人は?」


 「何も喋らん。誰を狙ってきたのかも知らんが、おそらくお前だろう。城でお前に毒を飲ませたのも奴で間違いない。何せ、毒の魔法持ちであの容姿だしな」


 「そうですか。それにしてもあれだけ姫に似ているなんて」


 「まぁ、俺の眼からすれば違う所は多々あるが、あそこまで似ているのは双子並だ。奴にドレスを着せて城下町を歩かせたら、誰も嬢ちゃんだと疑わんだろうさ。そこまで似ている理由もお前を狙う理由も奴から聞きだすしかないが、あれはそう簡単には吐かないだろうな」


 「なぜです?」


 「訓練された暗殺者ってのは情報を漏らさないよう訓練を受けているし、最悪の場合、自殺する」


その言葉に慌てた瞬はすぐに駆けだそうとしたが、妙に落ち着いた様子のロビンに足を止めて問い詰める。


 「放っておいて大丈夫なんですか!?」


 「いい、いい。身動きできないよう縛り上げてある。それに放っておいた方が餌になる・・・クックックッ」


 「餌?」


 「そのうち分かる。とにかく、お前は自分の修行に集中しろ。今日は・・・そうだな、いっそ、お前の魔法を目覚めさせるのも面白そうだ」


 「え、できるんですか!?」


思わず驚きで瞬の目が見開く。

魔法は一人一個。

その大半は人と同じような魔法だったり、多少の違いがあっても系統は同じのものばかりだ。

ただ、中にはその魔法を有する者にしか使えない独自の魔法も希少ながら存在する。

この事をイリアに聞いてから瞬も自分が持つ魔法への興味は尽きた事が無かった。

一体、自分にはどんな魔法が眠っているのか、と。

そんな事が出来るのであれば、姫の方も後でお願いしよう!

すっかりその気になってしまい、自分がこれから使える魔法に思いを馳せる瞬だが、ロビンは呆れたように答えた。


 「悪いが、魔法を目覚めさせる方法などない!」


 「えぇっ!?」


 「魔法を使うためにはそれなりの努力はいる。何より、そんな方法があるなら魔法使い達はもっとそこらじゅうにいるだろうが」


 「御尤もです・・・」


目に見えて落胆した瞬に対し、ロビンは続けた。


 「俺がお前に出来るのは魔法を使うためのコツを教える事だけだ」


 「コツ・・・ですか」


足を止めたロビンは瞬へと得意気な顔で振り返る。


 「既にお前は『旅人』の力を持った事もあるし、一部の力はまだお前の中に溶け込んでいる。魔法が体の一部になっているお前なら感じないか?体に血とは別の液体が流れているような感覚を。まずは目を閉じてそれを感じ取ってみろ」


言われて瞬は目を閉じて体の中へと意識を向ける。

体の中にひしめく筋肉が姿勢を維持するのに動き、体の中を血が駆け巡る。

普段は意識すらした事が無い体の内部を認識し、体の個所別に感覚を確かめていく。

これは・・・。

立ったままで深く意識を沈めていくと、確かに血とは別の違う何かが流れているのを瞬は感じ取るが、その何かがハッキリと分からぬままに目を開ける。


 「どうだ?掴んだか?」


 「いえ。確かに何かが流れているのは分かるんですけど、流れを捉えようとすると弾かれる、とでも言えば良いのか、とにかく掴めないんです」


 「ふん、まだまだ集中が足りないようだな。今はまだ何かが流れているのが分かったならそれでいい。修行の出来でその流れに沿う事が出来るかもな。じゃ、今から手合わせだ」


 「・・・はぃ」


魔法が使えると聞いたまではテンションが最高潮まで高かった瞬も、いつもの地獄に戻ると急激に下がる。

これからまた訓練の一日が始まるかと考えると自然と溜息をつきながら日本刀を構える瞬。

その向かいには2本の短刀を持ったロビンが立ち、刃先を瞬へと向けて構えを取る。

途端に、圧倒的な威圧感が瞬へと放たれ、辺りに殺気にも似た威圧的な感覚が広がっていく。

木々で休んでいた鳥達が逃げ出す中、笑みを浮かべるロビン。


 「いくぞ」


 「いつでも」


瞬も負けじと笑って答えて見せると小さく鼻で笑ったロビンだが、瞬が意識を緩めた次の瞬間には瞬の目の前に立っていた。


 「くっ!」


 「遅い」


余りにも単純に距離を詰められた瞬は迫る2本の軌道を読み、日本刀を振り上げて受け切った。

瞬が反応できる限界の素早さにとても反撃に出る隙はない。

更には止めてもロビンの攻撃はそこで終わらず、流れる様な体さばきで止めた所からの連撃が瞬を襲う。

一撃でも処理を間違えれば致命傷へと繋がる攻撃の嵐の中、瞬は逃げだしたくなる気持ちを無理やり落ちつけて冷静に受け続ける。

そして、長年着た服の糸が綻ぶ様に、瞬は連撃の中に反撃できる隙を見出した。


 「ここだ!」


反撃に転じ、ロビンへと日本刀を振った瞬だが、思いの外、手には斬った感覚が伝わってこなかった。

見れば、いるはずの場所にはロビンの姿はなく、数歩も後ろへと下がって悠々とかわしていた。

その顔に焦りの色はない。


 「正解だ。今の斬り返しなら大概は仕留めていただろうな」


 「はぁ、はぁっ・・・、かわされた人に言われるのも」


 「馬鹿め、俺を斬るなら後300年は経験が足りん。ほら、次だ。嬢ちゃんも控えてるんだからサクサクいくぞ」


瞬の緊張が解れないうちに再びロビンは襲いかかる。

二人はこんな命のやり取りに近い事をここ数日続けていた。

ロビンはある程度手加減してはいるものの、常人からすればすぐに致命傷を受ける一撃を放ち、実際に何度か瞬も斬られていた。

強化された体にロビンの攻撃は命を脅かすまではいかないが、傍から見ればただの自殺行為に近い。

ただ、その中で瞬は感じ、学び取っていた。

ロビンの呼吸や動きを肌で感じ、攻撃と攻撃の合間に発生する僅かな間を見つけ、そして反撃する。

無謀な手合わせに見える中でも瞬の中には着実に知識と経験が積もっていた。

それはいずれイリアの教えと合わさって瞬という元『旅人』の巨大な土台となり、類まれなる強さの元となる。

将来の片鱗は今の手合わせの中にも既に垣間見えていた。


 「ほらほら、どうした!」


 「ぐっ!き、きつい!」


最もその事に本人は気づいてすらいないようだが。

気づく暇すらないと言うのが正しいかもしれないが、いずれにせよ瞬が気づくのはまだ大分先の事の様だ。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

出来れば文法や書き方、ストーリー展開で意見を頂けるとありがたいです。

お気に入り登録いただけるともっとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ