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第51話:修行&逃避行(3)

 アーリア湖を囲う森の最深部、そこは獣道すら見当たらない人が住むべき所としては全く適さない場所だった。

水源が近くにあるためか、地面の所々が沼地の様に沈み、同じ所に長く立っていれば体は地面へと埋まっていく。

更に、深い森によって視界は悪く、日の光もあまり差し込まない。

今は快晴の朝だというにも関わらず、どこを見ても朝とは思えないほどに薄暗い。

天然のトラップに視界の悪さも相まって、動物達も迂闊には近寄ろうとはせず、せいぜい鳥が木の枝に止まる程度だ。

そんな場所に不釣り合いな一軒の小屋が建っていた。

とは言っても、沈む地面の上に立っている訳ではない。

何本もの木の枝に板を渡して土台とし、その上に建てられた小屋は小さいながらもドアや窓まで完備している。

子供の作る秘密基地程度の物ではなく、大工が建てた小屋と思える出来だ。

その小屋のドアが開かれ、中から現れたのは背伸びをする瞬だった。


 「んーーっ!よく寝た・・・かな?」


 「起きたか」


隣から急に声が掛けられた。

突然の声に反応した瞬だが、振り向きながらすぐに驚きは呆れに変わる。


 「おはようございます。・・・あの、いきなり現れると怖いんですけど」


瞬の見る先に立っていたのは、何時もと変わらぬ様子のロビンだった。

瞬の反応などどうでもいいかのように彼は小屋の中へ入る。

小屋の中はベッドとテーブルだけしかなく、他には家具らしい物もない。

他にある物と言えば、せいぜい瞬の着ていた服やヴァネッサから貰ったサーベル、ロビンから貰った日本刀がある程度だ。

ロビンは手をテーブルの上にかざすと、次の瞬間にはテーブルからはみ出さんばかりの出来立ての料理が並んでいた。


 「朝飯だ。それを食ったらやるぞ」


 「アレをまたするんですか・・・」


瞬は昨日のアンガスと別れてからの訓練を思い出していた。

イリアに1ヶ月間鍛えられたのを戦闘、技術面というならば、ロビンとやっているのはそれの向上に加えて精神面の訓練といった内容だった。

常人なら確実に死んでいるはずの手合わせに始まり、意識を集中させるためにとロビンの放った無数の矢を手で掴み取ったり、構えを取ったまま何時斬りかかってくるか分からない状況の中で二、三時間程対峙したり。

肉体的な疲れは回復が早いため少ないものの、精神的な疲労はそう簡単には治らない。

夜中まで続いた訓練により、瞬は作ってもらった小屋のベッドにたどり着くなり倒れこむように寝てしまっていた。

ちなみに部屋に置かれている日本刀は訓練中に幾度となく折れ、その度に作ってもらった訳だが既に何十本目か分かりはしない。

あれが二週間も続くのか・・・。

考えただけでも顔が真っ青になっていく瞬。

自然と食欲もなくなっていくが、食べない事には体が持たないから食べない訳にはいかない。

諦めた様にパンを取ろうとした瞬だが、その手は途中で止まった。


 「あの、姫は?」


 「ん?ああ、嬢ちゃんならまだ寝てるんじゃないか?疲れただろうしな」


 「・・・姫の様子はどうでした?」


瞬が聞いた様子というのは瞬に対する反応や不審な動きをしなかったかという事を指していた。

何せ、瞬に毒を飲ませた割には彼を見つけた時の反応は勝手にいなくなった事を本当に怒っている様で、どこにも殺し損ねた事を悔いていたり、驚いた様な反応はなかった。

むしろ、瞬が無事でよかったと思える様な心配をしていたように瞬にもロビンにも見えていた。

彼女が自分を本当に殺そうとしたのか、その姿を見たはずの瞬だったが彼女のそんな様子に内心では大きく揺れていた。

瞬の心を揺さぶるほどの彼女の行動が演技だと言うのなら、瞬は良いとしても長年生きたロビンを騙すとなれば、演劇の女優など比ではないほどの天才役者と言えるだろう。

おかしな所はなかったのかと確かめる意味でロビンへと問いかけた瞬だが、ロビンもその事を察して返す。


 「別におかしなこともない。お前の事を心配したりしながら、俺の訓練メニューを黙々とこなしていた」


 「・・・そう、ですか」


 「集中していたと言うよりは意識が飛びかけて朦朧としていたようだったけどな、ククッ」


何食わぬ顔で言うロビンだが、瞬はその顔に嫌な予感がした。

次第に頭の中で妄想が膨らみ、自身のやっていた訓練がふと思い浮かんだ。


 「・・・まさか、姫に僕と同じだけの事を!?」


 「馬鹿、そんな訳あるか。お前と同じだけの訓練を行えば死ぬだろ。さすがにその加減は俺でもする」


 「で、ですよね。そんな同じだなんて」


 「ただ、終わった時には虚ろな目でブツブツ言いながらふらついていたがな」


 「姫ーーっ!!」


瞬はすぐさま小屋から出ると板の上を歩き、別の場所に建てられた瞬のために建てられた小屋と全く同じ外観の小屋へ向かう。

小屋に駆け寄った瞬は勢いそのままにドアをノックした。


 『姫?起きてますか?姫?』


 『・・・う、瞬か?』


寝起きであるためか彼女の声はとても小さかった。

ただ、声が聞けた事で安心した瞬は安堵の息を漏らす。


 『大丈夫ですか?朝ご飯食べませんか?』


 『そうしたいのは山々なんだが・・・』


 『え?』


 『か、体が動かん』


その言葉に瞬は慌てて中に入る。

すると、瞬の小屋と全く同じ室内のベッドに倒れこむように横たわるヴァネッサの姿があった。

個別の訓練を行うために昨日の昼頃分かれてから瞬は彼女を全く見ていなかったが、最後に見た時と同じ服装のままで、所々に泥で汚れた跡がある。

瞬と同じように着いたと同時にそのまま眠りこんでしまったのだろう。

彼女は起きようとしているようだが、表情は変わっても体の方は意に反して動こうとはしないようだ。


 『瞬、すまんが体を起してくれないか?』


 『姫に触れるだなんてそんな』


 『いいからやってくれ。うつぶせのままではさすがに・・・、な』


息苦しげに言う彼女に瞬も毒の事など忘れて歩み寄る。


 『そうですか、分かりました。では、失礼して』


瞬はヴァネッサを起こして体の下に腕を差し込むと、動けない彼女を持ち上げた。

いきなり抱き抱えられて気恥ずかしさからか珍しく頬を赤く染めた彼女だったが、余りにも軽々と持ち上げた瞬にすぐに驚きで顔が固まる。


 『重くないのか?それなりに鍛えているつもりなのだが?』


 『いえ、全然。姫は軽いですよ』


微笑んで返答した瞬にやはり恥ずかしいのか、目を背けるヴァネッサ。

その間に瞬はゆっくりとベッドの上にヴァネッサを横たわらせ、布団をかけた。


 『・・・すまないな』


 『いいですよ、これくらい。そんな事などお気になさらず、早く体を治しましょう?』


 『そうか・・・。瞬、ありが』


 「やれやれ、何をしてるかと思えば」


温和な空気をぶち壊すようにいつの間にか入口にロビンが立っていた。

口では文句を言っているようだが、顔はニヤついたまま二人を交互に見ていた。

若いカップルを楽しげに見るオヤジの様な目つきでだ。


 「いや、昨日の練習で体が動かないそうなんです」


 「ほ~、動かないか。まぁ、動かないだけなら優秀な方だろうな」


 「優秀じゃない人はどうなるんですか?」


 「・・・聞きたいか?」


 「・・・いえ、結構です」


 「ッチ、つまらん奴め。それよりもだ、寝ていられても邪魔なだけだ」


ロビンは背中側に手を回すと小さい小瓶を生成した。

瓶の中は得体の知れない赤い色の液体で満たされ、瞬が手渡されると怪訝な顔で覗き込む。


 「これは?」


 「飲ませろ。怪我や傷は無理だが、体力を戻す効果のある魔法薬だ」


 「へ~、そんな物もあるんですか」


興味深げに眺めながら瞬は寝たままのヴァネッサへと蓋を抜いた薬瓶を近づける。

意外にもヴァネッサは何も聞かず、傾けられた瓶に口をつけて液体を口に含んだ。

と同時にすぐさま噴き出した。

腕もまともに動かせず、頭を上下させて咳き込む彼女の前で瞬は液体を頭から被る。

それを見て盛大に笑うロビン。

頭や顔から零れ落ちる液体を見ながら瞬は言葉も出ず、苦笑いのまま固まるほかない。


 『に、苦い!何だこれは!?・・・ああ!すまない、瞬!』


 『気にしないでください・・・』


 『ククッ!中々良い噴きっぷりだった。そいつはな、とある密林の奥地に住む部族が作った回復薬だ。飲めば体力が戻ってお前も動けるだろうが、体験した通りとても苦い』


 『こんな物で動けるようになるのか?』


 『まぁな。信じる、信じないはお前次第だが?』


そう言ってロビンはもう一本差し出す。

受け取った瞬は先ほどと同じようにヴァネッサへと向け、彼女は困ったような素振りを見せるものの意を決して一息に飲みこんだ。

あまりの苦さに身悶えする彼女だったが、次第に動かないはずの体が動き始め、最後には立ちあがって苦みに悶える。


 『く~~~っ!信じられないくらい苦い!・・・っが、効果は本物だな』


 『動ける様になったなら朝飯だ。食ったら訓練、いいな?』


言い放ったロビンはその場からいなくなるが、体が本当に動かなくなるほどの地獄を思い出してヴァネッサは固まる。


 『20年城で生きてきたが、死んだ方がマシだと思えるのはこれが初めてだ・・・』


 『が、頑張りましょう。闘技大会までなんですから』


 『フ、フフフッ、あと13日か・・・』


どことなく影のあるヴァネッサを瞬は励ましながら誘導し、食事の用意されている小屋へ移る。

後の事を考えると何時食べられるか分かったものではないと二人は手当たり次第に食べ続けた。

ヴァネッサに至っては城でいつも行っている優雅な作法など抜きに、目についた物にフォークを突き刺すと豪快に口の中へと放り込む。

10分程度で全て食べ終えた二人だが、一息つく間もなく微笑む鬼が入口に立っていた。


 『さて、やるぞ』


笑ってはいるが、二人からすれば笑えない顔だった。

この日も地獄を見る様な目にあったのは言うまでもなく、夜中まで続いた訓練の結果、最後にまともに動いていたのはロビンだけだったという。





 雲が空を覆い尽くし、月明かりが零れもしない深夜。

元々、暗い森の中は夜という事で更にその暗さを増し、灯りでもなければ夜目に慣れていない者は1歩も歩く事は出来ないだろう。

それほど濃密な暗闇が支配する中、音もなく歩き回る人影があった。

時に立ち止まり、辺りの様子を窺ってから陥没する場所を的確に避けて進む程、慎重な足取りだった。


 『・・・どこにいる?』


足を止めた人影は誰かを探しているようだが、暗闇の中だというのに視界を更に狭くするフードを深く被っていた。

何かを探し回る姿はまるで漂う亡霊と言ってもおかしくない程で、仮に何も知らない者が見れば怪物だの、死神だのと騒ぎ立てるのは間違いない。

当然ながら、人の住める環境ではないここにそんな者はいないのだが。

人目も何もない場所ではあるが、進む者、隠者は邪魔でしかないローブを脱ごうともせず、ひたすら前へ進む。

瞬と医者と思っているロビンを探して。

エドガーの命令を受けて翌日にアーリア湖へとついた隠者だったが、いまだに広大な森の中から瞬の姿を見つける事は出来ていない。

魔力探知も併用して探し回っているものの、いまだに誰も発見する事は出来ていなかった。

あまりにも広大すぎる森で人探しなど限界があるにもかかわらず、今回の仕事は人海戦術を行う事も出来ないため、一人でやるしかない。

仕事とは、瞬とロビンに気づかれないように近づき、暗殺する事なのだから。

それでも愚痴一つ洩らす事なく、隠者は機械の様に淡々と探し回り、朝からずっと歩き回った努力はようやく実を結んだ。


 『・・・!』


何度も行った魔力探知にようやく引っ掛かりがあったのだ。

俊敏ながらも足場を選んで先に進み、程なくしてたどり着いた場所には一軒の小屋が建っていた。

建てる場所としては不釣り合いな所だが、他に人がいそうな場所など隠者の目には映らない。

小屋へと忍び寄った隠者はそっとドアを開け、様子を窺いながら中へと入った。

中には簡素なベッドが2つ並び、布団が両方とも盛り上がっている。

東洋人と医者か。

仕事の相手であると確信した隠者は、懐から二本のナイフを取り出すと二人目がけて振り下ろした。


 『ぐっ!?』


すると、振り下ろしたはずの右腕が布団の下から飛び出した腕に掴まれて止まり、ナイフの刃は突き刺さるまでには至らずに止められてしまった。

咄嗟に右腕を引こうとした隠者だが、腕は拷問器具で固定された様にまるで動きはしない。

更に止められる事なく突き刺した左腕のナイフからは人を刺した時の感触はなく、何が起こっているのか隠者には瞬時に理解する事が出来なかった。


 『やれやれ、こんな簡単な罠に引っ掛かるかね?まぁいい、釣れた魚は大きいか?』


隠者の右腕を掴まえたまま、布団が盛り上がりめくれていくとロビンが顔を出した。

簡単に捕まえた事を落胆した様な様子だったが、見覚えのある恰好に更に呆れた顔をする。


 『なんだ、またお前か』


 『お前はっ!?・・・お前が医者なのか?』


 『医者・・・?あ~、あの髭親父から聞いたのか。まぁ、そう言ってたんならそうだろ』


ロビンの言葉が切れる前に隠者は左腕のナイフを抜き、ロビンの首筋を狙って振るう。

完全に不意を突いた一撃がロビンの首に迫る。


 『話は最後まで聞くもんだ』


 『っ!!』


ところが、ナイフは首に触れる直前で急に止まり、隠者が何度押し込んでも動きはしない。

ナイフの先をロビンが人差指と親指でつまみ、『旅人』の筋力を以てして刃を止めていた。

信じられないほどの力に隠者は力では勝てない事を悟り、ナイフから手を放すと腰から取り出した細長い瓶をロビンへと投げつけた。

ロビンの腕に当たって割れた瓶から透明な液体が飛び散り、ロビンの皮膚や服に付着した途端、その場所を溶かして煙を上げる。

これで離れる。

あらかじめ仕込んでいた酸によって出来るであろう隙を狙い、隠者は動く構えを取る。

ところが酸は確かに皮膚を溶かし、激痛を与えているにもかかわらず、ロビンはまるで手をゆるめはしない。

それどころか表面の皮膚が溶けていくのを楽しげに見ていた。


 『酸か。久しぶりに食らったが、痛いもんだ』


 『・・・人間かっ!?』


 『さぁな。まっ、やられたからにはお返しだ』


掴んでいたナイフを放り捨てたロビンは、隠者のフードに隠れた顔を殴りつけた。

鈍い音を上げてめり込んだ拳の力は隠者の体ごと吹き飛ばし、回転しながら隠者の体は小屋の壁へと叩きつけられた。


 『ガッ・・・!?』


隠者の意識が朦朧とする中、ロビンはベッドから立ち上がると隠者の首を掴んで体を強引に持ち上げる。

締まる首に必死に手を外そうとする隠者だったが、ロビンの手は指一本すら取れはしない。

もがき苦しむ隠者は腰に手を回し、新しいナイフを取り出すとロビンの腕へ斬りつけにかかる。

ナイフが皮膚に触れる寸前、ロビンは軽々と隠者を振りまわすと再度壁へと投げつけた。

叩きつけられた隠者の力に耐える事の出来なくなった壁は大穴を空け、隠者の体は外へと放り出された。

地面を転がり、首締から解放されて咳き込みながら体勢を整える隠者の前へ、ロビンはわざわざ小屋のドアからゆっくりと出てくる。

体中を硬直させる隠者だったが、ロビンは飽きてしまったのか隠者への追撃をする気はないらしく、退屈そうに小屋の壁にもたれかかった。


 『やれやれ、お前程度じゃ俺も楽しめん。もっとまともな奴はいないのか?』


 『!・・・』


止まらない荒い呼吸のまま、隠者は余裕を見せるロビンに苛立ちを覚えながらも逃げるべきだと考えていた。

エドガーの命令に逆らう事になるが、このままここで果てるよりはまだましだからだ。

更にロビンはやる気をなくしている様で『旅人』のくせに大欠伸までかいている始末。

これなら逃げられる。

いまだ欠伸が止まらないロビンの前から去ろうと隠者が身を翻した時だった。


 『止まって下さい』


 『ッ!?』


1歩も動けないうちに隠者は足を止める事となった。

目の前にはいつの間にか現れた瞬が立っており、手には鞘から抜かれた日本刀を持っていたからだ。


 『後はお前が何とかしろ。そもそもお前の問題だ』


 『その・・・、もう少し緊迫感とか』


 『それは俺に聞いてるんだよな?』


 『・・・いいです、言ってみただけです。ンンッ!えっと、気を取り直して・・・貴方は何故、僕を殺そうとするんですか?』


 『・・・』


問いかける瞬に対し、ナイフの先を向けて隠者は沈黙を保つ。

ただの傍観者と化したロビンを完全に無視し、殺意を対象の一人である瞬へと向けていた。

ここで瞬を殺す事が出来れば命令の1つが達成できる。

それだけを考えた隠者は逃げる考えを撤回し、いつもの仕事の様に瞬を殺す事のみへと意識を傾ける。

一方、返答が無い事に瞬は戸惑い、もう一度問いかけようと刀の切っ先が少しだけ下げた。

その隙とも呼べぬ程の気の緩みに隠者は腰から酸の入った瓶を取り出すと同時に投げつけ、暗闇ながらも気づいた瞬は咄嗟に避けた。

ロープを纏っているとは思えぬほどの素早い動きで瞬の避けた先に回り込んだ隠者はナイフを突き刺しにかかる。

回避運動に入ったままの瞬にはなす術もなく突き刺さるのを隠者は経験則から予測していた。

だが、隠者の考えとは裏腹に、次の瞬間に手に伝わったのは肉を抉った感触ではなかった。

むしろ、強靭な力で手首を締め付けられる痛みだった。

ナイフを手放したくなるような痛みの中、隠者は痛みの原因が瞬に締め付けられた事である事に気づく。

咄嗟に左手で手を取り除こうとする隠者だったが、それよりも早く瞬の手刀が右手へと振り下ろされ、鈍い痛みにたまらずナイフを握る手が緩む。

すかさず瞬はナイフを蹴り飛ばし、ナイフは木へと深く突き刺さる。

更に瞬の攻撃は続き、掴んだ腕を捻りあげて力任せに隠者を地面へと押し倒し、体の上から抑え込んだ。


 『ふぅ、これで終わりです。降参しませんか?』


勢いをつけて何度も体を動かしにかかる隠者をガッチリと瞬は止める。


 『・・・ッ!』


ビクともしない程、驚異的な力を持つ瞬に隠者は小さく歯軋りする。

フードの中は外からよく見えないものの、隠者は少なくとも何らかの表情をしているのだろう。

決して、喜びなどといったプラスの感情ではないだろうが。


 「手際の良い事だ」


 「師匠に色々と教えてもらった事があるんです。時間が無かったんで短期集中でしたけど・・・」


遠い目をしながら過去の出来事に浸る瞬。

力の有る無しに関わらず、今と同じ地獄の様な日々。

隠者を拘束しながらも瞬の表情は徐々に固まっていく。


 「・・・・・・・・・」


 「あん?どうした?・・・何で疲れた顔をしてる?」


 「・・・少し、前の出来事と今の事が変に重なったものですから」


 「?」


 「いえ、気にしないでください。本当に」


 「まぁいいが、そいつはどうするんだ?」


下でまだ逃げだそうとする隠者だが、何度試しても瞬の抑え込みは外れない。

既に手持ちの装備は全て尽き、己の力のみで外すしかない状態だが、ただの人に強化された瞬の力を押し返すことなどできはしない。


 「とりあえず、顔を見ましょうか」


瞬が手を伸ばし、隠者のフードへと手をかける。


 『!!』


会話の内容は分かっていなかった隠者だが、フードを取られないよう手で引っ張ったもののそれも無駄な抵抗だった。

フードは一瞬で引っ張り取られ、更に珍しく気を利かせたロビンがカンテラで明るく照らす。

火の光の元に晒し出された隠者の顔に二人は息を呑んだ。


 『ひ、姫?』


そう、照らし出された隠者の顔、それはヴァネッサの顔そのものだった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

出来れば文法や書き方、ストーリー展開で意見を頂けるとありがたいです。

お気に入り登録いただけるともっとありがたいです。


 ようやく50話突破しましたが、頭の中のエンディングまでまだまだかかります。このペースで行くとやっぱり100話近くまで行ってしまいそうですが、終わるのはいつになることやら。

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