痴漢の代償(2)
ドシーン、良一と久子がリビングで話をしていると大きな音が聞こえてきた。二階で何かが倒れたような音だった。二人は急いで二階に駆け上がった。みゆきも部屋から出てきていた。
「何だ、今の音は?」良一がみゆきに聞いた。
「お兄ちゃんの部屋から聞こえた気がするけど」
急いで健太の部屋を開けると、部屋の真ん中に健太が倒れていた。健太の首にはロープが巻いてあった。おそらく、健太は首を吊ったのだろう。ロープが耐えきれなかったのか、結び方が悪かったのか、とにかくロープが外れて落ちたようだった。久子は泣きながら必死に健太の名前を呼んだが反応は無かった。良一は急いで119番通報をした。
二十分後、住宅街をサイレンが鳴り響いた。健太は救急車にタンカで乗せられ、久子が付き添った。良一はみゆきを車に乗せて救急車の後を追った。
緊急治療室で健太が治療を受けている間、良一、久子、みゆきの三人は治療室横のベンチで待たされた。
「自殺するくらいならなんで痴漢なんかしたの?」みゆきが泣きながら良一に聞いた。
確かにそうだ、何かおかしい。そう言えば、健太は警察でもしきりに覚えていないと繰り返し訴えていたらしい。良一は健太が本当に痴漢をやったとは思えなくなっていた。
三十分後、治療室から医者が出てきた。「命に別状はありません。ただ、今は鎮静剤で落ち着いてはいますが、精神状態がかなり不安定です。無理をすると、うつ状態が強まるおそれがあります。しばらく入院をさせて様子を見たらいかがですか」医者は入院を勧めてくれた。良一はしばらく健太を入院させる事にした。
健太は個室に移され、良一、久子、みゆきの三人はベッドの脇の椅子に座って健太の様子を見ていた。時刻は夜中の十二時を回っていた。
「ねえ、お父さん、引っ越そう。このままじゃ私達全員ダメになっちゃうよ」久子は良一に訴えた。
「でもまだ住宅ローンが三十年も残ってるんだぞ」
「いいじゃない、お金の事なんか。どうにでもなるわよ、そんな事よりこの子たちの命の方が大事でしょう。このままじゃ二人とも不登校になって、いつまた自殺騒ぎを起こすか分からないよ」久子は真剣だった。
良一は眠っている健太の顔をじっと見つめた。
「お前の言いたい事は分かったよ。みゆき、お前はどう思う?」
「私もどこか遠くへ引っ越したい、どうせ、このままじゃ学校なんか行けないもん」みゆきは泣いていた。
「そうか、分かった。ただ、少しだけ考える時間をくれ」良一は二人に向かって答えた。良一はもう一度、健太の寝顔をじっと見つめた。
つづく




