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第九話 癒しの巫女

ーーーーー!?


どういうことだ........!?


まだ仲間がいたのか!?

僕は急いで距離を取り、剣を構えた。


2人組は片方がロングソード、もう片方がダガーを構えながら、互いに距離を取り僕の方にジリジリと近づいてきた。



ーーーーーーその瞬間。


2人組の姿が消えた。



アイリス「エ、エイトさん!!」



気づけば彼らの刃が僕の喉元と足に迫っていた。


上にも下にも逃げられない.......!!



僕は無属性魔術《瞬間移動(テレポーション)》を使い、何とか難を逃れた。



良かった.....助かったのか......


だが次の瞬間、右足首に突き刺すような痛みが走る。


.......ッ


避けきれなかった.....!


そう、僕が《瞬間移動(テレポーション)》を使うより早く、短剣使いのダガーが右足首に届いてしまっていたのだ。


エイト「ぐっ.....!」


これで僕はもう、右足を満足に使えない。

なのに襲撃者は2人とも無傷だ。



拘束(バインド)》で拘束し、攻撃さえ当てられればこのふたりは倒せるだろう。



だが.....今となってはもう襲撃者の仲間が何人いるのか分からない。


今この場には戦えるのは僕しかいない.....

外にまだ伏兵が潜んでるかもしれない以上、助けも呼べる状況じゃない。


魔力を温存しなければ、アイリスさんが無防備になってしまう........!


もう少し様子を見ようーーーーー




そう思った瞬間だった。


気づいたら長剣使いのロングソードが僕の目のすぐ横にまで迫っていた。


背中を逸らし、間一髪で避けた瞬間、背中にドンッと鈍い衝撃が走る。



エイト「グハッ.....!!」



アイリス「エイトさんっ.......!!」



窓が割れ、僕の体はテラスに放り出された。

そして長剣使いが高く跳躍し、僕を目掛けて剣を振り下ろす。

漆黒の腕から放たれる銀閃が僕の眼前に迫った。

僕は剣を頭上で斜めに構え、攻撃を受け流そうとする。

だが攻撃を受け流しきれず左肩をザックリ斬られてしまった。



もう両腕で剣が振れない............それならっ.......!!


僕は体を回転させ、テラスの柵を蹴る。


高く跳躍し、短剣使いの右腕を狙って刺突する。


思った通り予備動作の少ない刺突であれば片腕でも素早く正確に攻撃できるようで、

僕の剣は短剣使いの右腕に掠った。


だが.......攻撃は浅く、擦り傷すら与えられなかった。



ーーーーー


【アイリス視点】


私は........私は一体何をやっているの.......?


エイトさんは満身創痍だった。


左手で右肩を抑え、呻き声をあげている。


だが肩を抑える左手の指の隙間から、ポタポタと血が滴り落ちている。


助けたいのに.......怖くて足がすくんでしまう...........


エイトさんが傷つけられているのに、私は何もできない.......


体が震えて力が入らない........


私は、ずっとそうだった。




シルヴェール家は代々「高潔」と「信念」を掲げる家だった。

文官を輩出する家門であり、武官を輩出する家門と比べてしまうとどうしても力で劣る。

だからこそ他家に見下されないよう、心を強く持ち確固たる信念を抱き、如何なる時も決して臆するなというのがシルヴェール家の信条だった。

父も母も、そして私の兄や姉たちも、皆勇敢で強い人たちだった。

“正しいことは正しい”、“間違ってることは間違ってる”と、どんな場でも言える人たちだった。

どんなに周囲に非難されようと、自分が正しいと思う限りは絶対に自分の意見を曲げない強さがあった。



そんな中で........私は異端だった。



虫はお化けはもちろんのこと、小さな物音すら怖かった。

社交界に参加しても誰にも話しかけることができない。

争いや物騒なものが苦手で、同年代の男の子たちが勇者ごっこしているのを見ただけで泣いてしまうほどだった。

気が弱く、オドオドしていた私はやがていじめられるようになってしまった。

お茶会やパーティに行くたびに酷い暴言を言われた。


言い返そうとしても.....怖くて声が出なかった。

そして涙を我慢することもできず、その場で泣き出してしまった。


髪を引っ張られても、突き飛ばされても.........私は“やめて”の一言すら言えなかった。

頭を抑えて俯き、ただひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と言い続けるだけだった。

謝りながら身を縮め、震える私は.......きっと、見るに耐えないほど醜かっただろう。


それでも家族は優しかった。

母はよく、私の頭を撫でて、微笑んでくれた。

父は私を抱いていろんなところに連れて行ってくれた。

兄や姉たちも私のことを可愛がってくれて、私がいじめられる度にいつも助けに入ってくれた。


嬉しかった。


幸せだった。


でも、同時にすごく申し訳なくて.......どうしようもなく辛かった。

“自分が誰かに助けてもらわないと何もできない存在だ”と突きつけられたようで、とても悲しかった。

毎晩泣いた。


そんな私の唯一の心の支えは庭に咲き誇る花たちだった。


一見か弱く見えるかもしれない。

でも、花たちはどんな時も屈することはなかった。

雨に打たれても、風に吹かれても、花たちは折れず凛とした姿で佇んでいる。

手で折ってしまえば容易く折れてしまうほど弱い存在。

でもどんな困難にも立ち向かい、どんなに追い詰められても諦めず、最後まで生き抜くその姿を見ていると、私も胸の奥が熱くなるような気がした。


“頑張ろう”って思えた。


少しでもいいから立ち向かおうと思えた。


でも.......実際は上手くいかなくて............






そんな時だった。


エイトさんが現れたのは。


ーーーーーきっと、何もかもが初めてだった。


「友達になりたい」という自分の想いが受け止められたのも。


他人に対し、あれほど心を開いたのも。


自分の悩みを、あんなふうに話せたのも。


ーーーーこんな情け無い自分のことを、「好きだ」と言ってくれたのも。


エイトさんは私のとって、生まれて初めてできたお友達。


だから、私はエイトさんを助けたい。


エイトさんが私を守ってくれたように、今度は私がエイトさんを守りたい........!!


だから.........動いて.....


立って.........私の足。


お願い。お花さん。


今、この時だけでいい。


一瞬だけでいいの。


私に.........力を貸して.........?


このままじゃーーーーーーエイトさんが殺されてしまう!



ーーーーーーーー



【エイト視点】


マズイ..........思ったより出血がひどい..........!


左肩を切られた直後、止血もせずに無理に動いたからだ........


どうする.......もう僕は戦えない...........


だけど........僕が倒れたらアイリスさんが.......!


あの時魔力を出し惜しみせず、《拘束(バインド)》で動きを抑えられていれば.......!



そんなことを考えてる間も、二人組は容赦なく攻撃してくる。

僕はもう、彼らの攻撃を防ぐだけで精一杯だった。


クソッ........!!


魔術さえ使えれば...........!!


無詠唱魔術にはある程度集中力が必要だ.......これほどの痛みではもう.......


でも......詠唱すれば必ず隙ができてしまう.......


だが、段々攻撃を捌くことすら危うくなる。


視界は歪み、手足が震え出した。


もう.......体に力が入らない.........!!



アイリス「.........めて」




アイリスさんが何か呟いた。


彼女を見ると、涙を流し、何度も立ちあがろうとしていた。


手足が震え、思うように力が入らず、何度も何度も座り込んでしまった。


でもーーーーー彼女は諦めなかった。




だが、彼女は遂に立ち上がることはなかった。


もう体に力が入らなくなってしまったのだ。



彼女は両手で顔を覆いながら、大粒の涙をポロポロ流した。


アイリス「嫌.......嫌よ..........

こんなの......こんなの見たくないっ.........!



もう......いやああああああああああああああ!!!」



ーーーーーその瞬間、アイリスさんは真っ白な光に包まれた。


その光は部屋中を満たし、僕は咄嗟に目を瞑った。




そして目を開けた時、最初に目に入ったのはアイリスさんだった。


彼女は淡く輝く白い光を纏いながら戸惑っていた。



アイリス「え.......何これ.......なんで..........」


その姿はまるで、伝承にあるーーーーーーー




短剣使い「........遂に覚醒したか。”癒しの巫女“が。」



“癒しの巫女”。


聞いたことがある........


『勇者カイゼルの建国物語』の、最後のページに綴られた予言文。


万物を癒す力を身に宿し、魔王が復活した時に現れるという救世主。


アイリスさんが........”癒しの巫女“.......?


とても信じられない.......だけど..........




エイト「..........!!傷が......治ってる........!」




そう、傷が癒えていたのだ。

意識が朦朧とするほど強い痛みに襲われていた僕の左肩からは、いつのまにか全く痛みを感じられなかった。

顔や身体中に刻まれた切り傷も、全て消えていた。


ーーーーーこれで。


エイト「.........ありがとうございます、アイリスさん。



これで.......まだ戦える!」



アイリス「エイト........さんっ........!」



立ち上がる僕を見て、彼女は嬉しそうに微笑みながら涙を流した。


その姿を見て、僕もつい笑みが溢れそうになるが必死に抑えた。






ーーーーそう、喜んでいる暇などないのだ。

傷が癒えたのは、僕だけじゃない。



僕は剣を構えた。


二人組はユラっと曲線を描くように滑らかに動き、一瞬で僕の間合いに入った。



二人の攻撃を《瞬間移動(テレポーション)》躱す。



そしてーーーーー


エイト「《昏睡(スリープ)》!!」


魔術を発動した瞬間、二人組は意識を失った。



ようやく........ようやく倒せた.......


アイリスさんの力がなければ......二人とも殺されていた。




僕はアイリスさんに歩み寄った。


エイト「ありがとうございます......アイリスさん。

あなたがいなければ、僕はきっと殺されていた。



........ダメですね、僕。

アイリスさんを守るって決めたのに.....結局、一人じゃ何もできなくて.......」



アイリスさんは静かに首を横に振った。


アイリス「ーーーーいいえ。そんなことはありません。

私だって同じです。

怖くて......何もできなくて........

今も、まだちょっと手が震えてます。



ーーーエイトさんのおかげです。

きっと、私の中にある”エイトさんを助けたい“という想いが、私に力をくれたんだと思います。


あなたが隣にいてくれるから、私は強くなれたんです。」



彼女はそう言って笑った。


僕の手を包み込む彼女の手は小さくて、柔らかくて.......とても暖かかった。





ーーーーだが。


???「ーーーーーおしゃべりは終わったか?」



僕はアイリスさんから手を離し、振り返った。



そこにはーーーー先程倒した黒ずくめの男たちと同じような格好をした奴らがいた。


だが、その数は多すぎて、もはや数えることすらできなかった。



...........そんな.......まだこんなに........



だが、絶望している場合じゃない。


たとえ勝てなくても...アイリスさんだけは絶対に守る........!


僕は剣を構えた。



だがーーーー次の瞬間、視界が揺らいだ。


足に力が入らず、膝から崩れ落ちる。


息が......苦しい.......


視界が朦朧とする......


頭が重い.......


僕は悟った。


”癒しの巫女“の力はきっと、傷や病を治すだけで戦闘時に受けたダメージや疲労まで癒えるわけではないのだ。


二人を倒した時は興奮していたから動けただけで.........僕はもう、とっくに限界だったのだ。


クソッ........ここまで来て.........!!




もうダメだ.......






ーーーーーーそう思った瞬間。


真っ直ぐに突き進む白銀の流星と、曲線を描いて揺らめく黄金の閃光が現れた。


※エイト視点で「”左肩“をザックリ斬られてしまった。」って書いてるところが、アイリス視点になって「左手で”右肩“を抑え、(以下略)」になっているのは単純に視点が変わった影響で左右が逆になってるだけなので気にしないでください。




作者です!!



さぁ〜、限界を迎えて倒れるエイト!!


覚醒するけど戦闘はできないアイリス!!

そんな二人の元に増援が!!



次回「第十話 剣鬼と剣姫」よろしくお願いします!

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