第六話 邂逅
少し肌寒い夜、セレスティアとアルトリウスは並んで歩いていた。
セレスティアも決して身長が低いわけではない。
だが、それでもアルトリウスと並ぶとどうしても小柄に見えてしまう。
セレスティアはふと思い出した。
それは、エイトとダンジョンに入る前に聞いた受付嬢の言葉だった。
“赤い獅子が、Aランクに落ちてしまう可能性がある。”
その事実がセレスティアの胸に引っかかった。
セレス「......アルトリウスさん、赤い獅子の件で聞きたいことがあります。」
アルトリウスを見上げながらセレスティアはそう聞いた。
すると、アルトリウスは困ったような表情で言った。
アルト「いや.......エイトを追放して以降、モンスターを倒してるのが俺だけだってバレちまったんだよ。
ヘレナさんにな。」
セレス「.........やはり調べられましたか。」
セレスティアは少し納得した。
ヘレナは歳若くはあるが、実は5年以上冒険者ギルドで受付嬢をやっているベテランだ。
無論、支援魔術師に対する理解も十分にある。
支援魔術師がパーティでどれほど重要か理解していないわけがなかった。
それにもかかわらず“赤い獅子”はSランク任務を歴代最速で達成した。
怪しむには十分すぎる事実だった。
アルトリウスは頭を掻きながら続けた。
アルト「確かエイトを追放した直後だったか?
Sランク任務を終えて帰ってきて、報告をしてさ。
いつもはすぐ解放してくれるのに、何故か待たされたんだよ。」
セレス「なるほど。」
アルト「しばらくしたらヘレナさんが奥からやって来てな、
いきなり俺とケインの剣を取り上げたんだ。
俺とケインは抗議したけどさ、なんて言われたと思う?」
そんなアルトリウスの問いにセレスティアは当然のように答えた。
セレス「剣の鑑定が終わるまで待つよう言われたのでしょう?」
アルト「あぁ。その後は色々バレたよ。
ワイバーンの死体を解析したら、首を一撃で刎ねられたことが死因だって言われてな。
俺の剣についた血痕がワイバーンの血と一致して俺が倒したってバレたんだ。」
セレスティアは額を抑えながら言った。
セレス「もう......当然ですよ。
というか、死体を見られた時点でバレていたのでは?」
アルトリウスは大きくため息をついた。
アルト「一撃だったからなぁ.......
今回の件で俺以外のメンバーはSランク任務をこなすほどの技量がないと判断されて、ちょっとアイツらの冒険者ランクが危ないんだよ。
..........俺にも責任があるからな、なんとかする。」
セレスティアはため息をついた。
セレス「ハァ.......皮肉ですね。
大陸史上5人目のSSランク冒険者がいるパーティが崖っぷちとは.......」
Sランク以上の冒険者は、ランクが落ちたパーティからは抜けなければならない。
過去にある問題が起きたために追加された規則である。
アルトリウスは腕を組んだ。
そして豪快に笑った。
アルト「ガッハッハ、問題あるまい!!
ワイバーンなど俺の祖国では珍しくもなんともないからな!
今度連れて行って俺が責任持って鍛え直してやる!!」
セレス「絶対にやめてください!!」
セレスティアは怒った。
今日一番の大声だった。
そうこう言ってるうちに冒険者ギルドに着いた。
だが明かりがついておらず、中から人の気配がしなかった。
アルト「........閉まってた...みたいだな。」
セレス「.......そうですね。」
二人は互いに見つめ合う。
数秒二人の間に沈黙が流れた。
セレス「.........ふふっ」
アルト「ハハっ.......」
セレス・アルト「あははははははは!!」
二人は声を出して笑った。
セレス「もう.......二人して営業終了時間忘れていたなんて、新人冒険者じゃないんですから。」
アルト「いや!!俺は知らなかったぞ!!」
セレス「あなたはもう少し色々周りを気にしてください!」
セレスティアは空を見上げる。
セレス「........もう暗いですね。
どうしましょうか?」
アルト「そりゃ宿探すしかないだろ。
行くぞ。」
セレスティアは不安そうに言った。
セレス「相部屋はやめてくださいよ!?」
二人はその後、仲良く一緒の宿に泊まった。
だが、何も起きることはなく普通に朝を迎えた。
ーーーーーーーー
【エイト視点】
次の日、僕は再び冒険者ギルドに訪れていた。
掲示板に貼られている依頼書を見つめながら、僕はセレスティアさんのことを考えていた。
あれから、セレスティアさんはどうなったんだろう?
あんな夕方に女の子が一人で外に出るなんて、大丈夫だっただろうか?
昨日、結局セレスティアさんは日が落ちても帰ってこなかった。
あんな夜まで、セレスティアさんは大丈夫だったのだろうか?
セレスティアさんは顔色が悪かった。
ただでさえ白かった肌は青白く、目は虚ろで焦点が合っていなかった。
足はフラフラで今にも倒れそうだった。
呼び止めようとして触れた彼女の肩は氷のように冷たく、生気を感じられなかった。
追いかけようと思ったけど、彼女の顔を見た瞬間。
僕と彼女の間を見えない壁が阻んでいるような気がして......僕は一歩も動けなかった。
彼女に拒絶されるのが怖かった。
だけど.........本当は追いかけるべきだったのかもしれない。
そんなことを考えていると不意に、水のように透き通った声で呼びかけられた。
セレス「ーーーーエイトさん。」
エイト「セレスティアさん!!」
振り返るとセレスティアさんが立っていた。
よかった.......無事だったんだ。
エイト「セレスティアさん......もう大丈夫なんですか?」
僕は思わずそう尋ねた。
セレス「はい。
ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
おかげさまで、もうすっかり元気です!」
そう言って彼女は笑った。
花が綻ぶような彼女の笑顔に、僕は思わずドキッとする。
やっぱりセレスティアさんは綺麗だ。
銀色の髪が光を受けて眩いほどの光を放っている。
黄金の瞳は宝石のようにキラキラ輝いていて、まるで太陽そのものを象っているようだった。
戦場で剣を振るう時はまるで戦女神のように凛としていてかっこいいのに、普段は清楚で可愛らしい。
僕はあまり世の中を知らないが、おそらくセレスティアさんほどの美人はそう多くはいないのではないだろうか。
セレス「エイトさんは......今日は掲示板の依頼ですね?」
エイト「は、はい。
ダンジョン攻略もいいけど、やっぱり困ってる人がいるのに放っておくわけにはいきませんから。」
そう、冒険者の本来の仕事は冒険者ギルドに入ってくる依頼をこなすことである。
冒険者の依頼は主に建築や土木工事などの手伝い、排水溝や道の掃除などの雑用や薬草採取など戦闘を伴わない依頼と、モンスター討伐や護衛などの戦闘メインの依頼がある。
セレス「ふふ、エイトさんらしいですね。
宜しかったら私もご一緒していいですか?」
願ってもない話だ。
むしろこちらからお願いするべき立場だろう。
セレスティアさんとまだ一緒にいれる.....!
僕は迷わず頷いた。
エイト「は、はい!よろしくお願いします!」
今回は護衛依頼を受けることにした。
護衛対象の名前はアイリス・フォン・シルヴェール公爵令嬢。
プエルグラトゥス王国の五大公爵家のひとつであり、代々宰相を排出している名家でもあるシルヴェール公爵家のご令嬢だ。
僕達は依頼書を提出し、シルヴェール公爵家の屋敷に向かった。
さて、自分で依頼を受けたわけだが、僕は今とても緊張していた。
どうしよう!!
き、貴族に会うなんて初めてだ.....
装備とかボロボロだけど大丈夫かな!?
こんな普段着の上に黒いローブ一枚被っただけの装備で貴族に会っていいものなの!?
手土産とか何も持ってないけど大丈夫かな!?
そんなことを考えていると、上品な笑い声が聞こえてきた。
セレス「ふふっ、そんなに緊張しなくていいんですよ?」
どうやら顔に出ていたみたいだ。
恥ずかしい......
セレスティアさんにはあまりカッコ悪いところを見られたくないんだけどなぁ......
そうこうしているうちに屋敷に到着した。
荷馬車から降りるとたくさんの人がズラッと並んでいて、その中央に身なりの整ったお爺さんが立っていた。
髪はきちっと纏められ、黒いタキシードを身に纏っている。
服にはシワひとつなく、清潔感があった。
その佇まいには一切無駄がない。
お爺さんは洗練された動きで僕たちにお辞儀した。
ギデオン「遠路遥々ようこそお越しくださいました。
エイト様、セレスティア様。
私、シルヴェール家の執事長ギデオンと申します。
何かございましたら遠慮なくお申し付けください。」
エイト「え、えっ........?と、とりあえず頭を上げてください!!
ぼ、僕平民ですから!!」
セレス「........エイトさん、これはただの挨拶です。」
セレスティアさんは少し呆れた様子でそう言った。
え、そうだったの......?
うぅ........またカッコ悪いところを見せてしまった。
セレス「冒険者ギルドの剣士セレスティアと支援魔術師エイトさんです。
よろしくお願いします。」
ギデオン「では、旦那様のところにご案内いたします。」
僕たちは屋敷の中に入った。
入った瞬間大きな、黄金に輝くシャンデリアが目に入った。
よく見るとダイヤモンドの装飾が散りばめられている。
壊したら.......多分僕の10年分の給料がゴッソリ持っていかれるだろう。
床には赤い絹でできたカーペットが敷かれていた。
ギデオンさんが奥に行く。
廊下もものすごく立派で、派手な装飾は少なかったが時々置いてある骨董品も絵画も、きっと僕が一生かかっても手が出せないほど立派なものだった。
落ち着き払ってるセレスティアの横で、僕は終始辺りをキョロキョロしてはビビっていた。
そしてしばらく歩き続けていると、不意にギデオンさんが立ち止まった
どうやら部屋に到着したようだ。
ギデオンさんが扉を開けると、そこには精悍な顔つきの男性が座っていた。
眩いほどの黄金の髪に淡いスカイブルーの瞳を持つ男性だった。
だが、その目には不思議な威圧感があり、思わず僕は少し緊張してしまった。
おそらくこの人がシルヴェール家の当主なのだろう。
心臓が早鐘を打つ。
手足が小刻みに震えだした。
僕は今、エクリプスと対峙した時と同じくらい緊張している。
だがそんな僕をよそに、男性は笑顔で僕たちに話しかけてきた。
エルリ「初めまして。私はこの国の宰相にしてシルヴェール公爵家の当主、エルリック・フォン・シルヴェールだ。
よくぞ来てくれた、エイト君、セレスティア嬢。」
え、えっと........挨拶を返せばいいんだよね?
エイト「え、えっと.......冒険者ギルドのーーーー」
エルリ「早速本題に入ろうか。」
............違ったみたいだ。
落ち込む僕をよそにエルリックさんは続ける。
エルリ「さて、今回君たちに頼みたいのは我が娘アイリスの護衛だ。」
エルリックさんの話はこうだった。
今から三週間前、シルヴェール家に脅迫状が届いたらしい。
簡略化すると”1ヶ月後に開かれる舞踏会にてシルヴェール家の娘アイリスの命をいただく“との内容だ。
つまり今から一週間後に開かれる舞踏会でアイリスさんは殺されるのだと言う。
僕たちの仕事は一週間後に開かれる舞踏会が終わるまでアイリスさんを守り切ることである。
ギデオン「お嬢様が到着されたようです。」
エルリ「よし。君たちに我が娘を紹介する。
ーーーアイリス、入れ。」
エルリックさんがそう言うと、静かに扉が開いた。
そこには白と水色を基調としたドレスを身に纏う、可愛らしい女性が立っていた。
ウェーブがかかったピンクブロンドの髪が動くたびにゆらゆら揺れる。
丸みのある卵形の顔に大きく丸いスカイブルーの瞳が付いており、庇護欲をそそる。
肌は白いが頬は薄いベビーピンクで、小さいローズピンクの唇と小さな鼻が彼女の小動物のような可愛らしさを引き立てている。
だが..........アイリスさんは一向に話さなかった。
落ち着きのない様子で辺りをキョロキョロしていた。
そんなアイリスさんを見かねたエルリックさんが口を開いた。
エルリ「アイリス、ご挨拶しなさい。」
アイリス「ひゃ、ひゃい!あ、あの、私、、、シルフォード家のーーーーきゃあ!!」
..........え?
シルフォードじゃなくてシルヴェール、だよね?
そう思った直後、突然なんの前触れもなくアイリスさんは転んだ。
それはもう顔から思いっきり、盛大に転んだ。
涙を瞳に滲ませ、赤くなった額を押さえていた。
セレスティアさんが彼女に近づき、手を差し伸べる。
セレス「大丈夫ですか?」
アイリス「あ、ありがとうございま.......ひっ!」
彼女はセレスティアさんの剣を見て声を上げた。
セレス「.......?アイリス様?」
エルリ「申し訳ない、娘は昔から刃物の類が苦手でね。
許してやってほしい。」
.........大丈夫だろうか、この人。
エルリックさんの背後から震えながら僕たちを見る彼女に少し親近感を感じつつも、僕は少し不安になった。
作者です!
完璧にセレスティアに惚れてるエイト。
そこに現れたアイリス。
二人の運命は如何に!?
次回「第七話 アイリス」もよろしくお願いします!!




