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第三十六話 アイリスの決意

さて......................三馬鹿死刑執行の翌日



シルヴェール家にて




エイト「.....................遂に...........お別れですね..........」




そう。


エイトとセレスティアのホームステイは今の今まで引き延ばされていた。


というのもシルヴェール家の人間が婚約騒動を起こしたせいでてんやわんやしており、エイト達を見送るどころではなかったのである。




アイリス「エイトさん............」




アイリスがエイトに近づく。


淡いスカイブルーの瞳は涙で歪んでおり、寂しそうにエイトを見つめる。


エイトの灰色がかった青の瞳に、アイリスの瞳が映り込む。





エイト「必ず.........必ずまた会いに来ます。


だから.........待っててくれますか?












ーーーーーーーーーーーーーーアーサーさん!!!!」




エイトはアーサーの手を握ってそう言った。


キラキラと輝く青い瞳に、困惑を滲ませる深緋色の双眸が映り込む。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいやそっち!?!?!?



アイリスはどうした!??



今の流れはアイリスだよなぁ!!!



どうしてそうなった!?!?!?





アーサーも流石に困惑している.................そりゃそうだ。




誰も今このタイミングでアーサーに行くと思わないだろう。






アーサー「え.........................い、いや........俺とは冒険者ギルドで会えるよな.........?


................いや、それ以前にここにいた時もほとんど絡みは無かった気がするんだが....................」





エイト「えへへ、実はトイレの時もお風呂の時も食事の時もずーーーーーっと一緒でしたよ!!


王宮にも法廷にも入りましたね!


ほら、僕って支援魔術だけは得意だから!!」





ストーカーと不法侵入じゃねぇか!!!


アーサーは..............................





アーサー「.........................................................そ、そうか.............」




ドン引きしていた。


そりゃそうだ!!



アイリス襲撃事件の後、アーサーが別館にいることを知ったエイトはアーサーの使用済みのものをあれこれ集めたり、無属性魔術の一種でアーサーの隠し撮りを集めまくり、幸せそうに眺めたりするのは日常茶飯事。


本邸に来てアーサーが風呂に入った直後、その残り湯を回収したりしてる。





そして、コイツがアーサーをストーキングしていたのは今に始まったことではない。






ーーーーーーーーーーーーーー“赤い獅子”時代から続く慣習である。





そう、エイトって結構ヤバい奴なんだよね。





そしてこれがアーサーがエイトを追放した理由の一端だったりする。


そりゃ追放されるよ.....................................





今“セレスティアどうした?”って思った人もいるだろうから説明すると、アーサーへの感情は恋愛感情じゃない独占欲を含まない純粋で重すぎる愛、セレスティアへの感情は憧憬と恋慕が混じった感じの感情。


つまりエイトの中でアーサーとセレスティアは別カテゴリなのである。





エイトはアイリスを振り返った。




エイト「あ、アイリスさんもお元気で!!


今度はお土産も持ってきますね!」




二行!?!?!?


その表情は満面の笑みだった。


侘しさなど微塵も見えない。


まるで遠方で出会った友人と再会を誓うかのような、爽やかな笑み。


....................................やっぱコイツ..............こういうところアーサーに似たな.....................




そのエイトの目を見てアイリスは強い不安を覚えた。


アイリス(................................あれ.............もしかして脈がない......................?


..............そんな..........ここまで頑張ったのに................


今日お別れしてしまったらもういつ会えるか分からないわ.............アーサー殿下もセレスティア様も冒険者で、エイトさんとの接点も付き合いの長さも私では足元にも及ばない...........


もう........................ダメなの.......................?)





アイリスの頬を一筋の涙が伝う。


それは星のように輝きながら地面に落ちた。


アイリスの脳裏をよぎったのはーーーーーーーかつてラフレシアから浴びせられた言葉。




ラフレシア『ーーーーーーーーー本当に惨めね。


初対面の相手に萎縮して、社交辞令を言うことはおろか愛想笑いを浮かべることすらできない。


ずっと震えて縮こまって、なんてことない物音にすら怖気付いて日常生活もままならない。


なんであんたみたいな愚鈍で間抜けな臆病者がシルヴェール家を名乗るの?


烏滸がましいとは思わない?』




幼少期から、アイリスはずっと家族に引け目を感じていた。



「両手で剣を握れないなら心で剣を握れ」



シルヴェール家初代当主が遺したこの遺言はシルヴェール家の家訓になった。


シルヴェール家の人間は魔術の適正も武術の適正も代々平凡であり、これと言った特技がない故に他家に舐められやすかった。


だからこそどんな状況でも毅然と対応し、信念を貫き通す精神力を磨いてきた。


だからこそ鑑定スキルの発達でシルヴェール家の血を引く人間は知能指数が平均より高いことが判明した時も、アイリス誕生後の外交での功績が讃えられシルヴェール家が公爵家になった時も、シルヴェール家そのものを揶揄する声は聞こえなかった。




だがしかし......................................アイリスが社交デビューして以降は悪評が目立つようになった。




魔術も武術も使えない、コミュニケーションができないから普通の職に就くことも貴族として独立することもできない、勉学もままならず貴族としての意識も低い。




そんなアイリスは貴族たちから散々陰口を叩かれ、同年代の子供達からも虐められていた。




自分のせいで家族まで揶揄されてしまう、そのことがずっとアイリスの心に引っかかっていた。





ーーーーーーーーーーーーーだからこそラフレシアの言葉は呪いのようにアイリスの脳に強く、そして深く刻み込まれている。





アイリス(.................ダメだわ.............一歩進むことができない。


ちょっと進めばエイトさんと話せる距離まで行けるのに...............今だけは.............あまりにもエイトさんが遠く見えてしまう...........


やっぱりダメなのかな............こんな臆病な私じゃ..................。


本当は............セレスティア様のように堂々とした女性になりたかった。


怖いモンスター相手にも臆さず、毅然と立ち向かえるような勇敢さが欲しかった。




..................................................................ダメね..............私ッ..............



エイトさんと出会って.......変われたと思っていたのにッ.........................



イザークお兄様が亡くなってから............ずっと........弱音ばっかり....................)





イザークとアイリスは親しかった。


ずっと同年代の貴族の子息令嬢たちに虐められていた彼女を庇い、毅然とした態度でいじめっ子達を追い返していた。





アイリスは俯いた。


空色の瞳から涙が川のように絶えず流れ落ち、地面には一部だけ雨が降ったような跡ができた。



アイリス(お兄様..............裁判の時から死刑が執行されるその時まで...............一度も私を見てくださらなかった...............


..........................オフィーリア様を公衆の面前で辱め、リリアナ公女殿下に婚約破棄を突きつけるなんて....................貴族の常識をあまり知らない私にでも酷い暴挙だって分かる..................



あれほど聡明だったお兄様がどうして................どうして、そんなことを...........................)





その時脳裏に蘇ったのは昔の記憶。


かつて兄イザークが、学園に行く直前アイリスに言った言葉





イザーク(12歳)『アイリスよ、お前は心優しく清らかだ。


だからそんなに自分を卑下するな。


弱さは誰にだってある。


怖い時はみんな怖い。


もし助けが欲しいなら俺や他の兄姉を頼れ。



ーーーーーーーーーーーーーーどんな時も、シルヴェールの者はお前と共にある。』




その言葉はアイリスの心の支えだった。


イザークの愛情に応えるためにも、アイリスは少しでも強くなろうと励んだ。


どんなに辛くても、心が折れそうになっても、イザークの言葉がアイリスを支えてくれた。





だがーーーーーーーー





ミカエル『罪人レオンハルト、オズワルド、リチャード、そしてーーーーーーーーーイザーク。


以上三名はクラリス公女殿下を迫害し、暴行を加え、殿下の名誉を傷つけ、






ーーーーーーーーーークラリス公女をダンジョン85層のボス部屋に置き去りにして殺害しようとした。


更にはアーサー皇太子殿下へ、聞くに耐えない暴言を繰り返した。




クラリス公女への殺人未遂、暴行罪、名誉毀損罪、アーサー殿下への不敬及び国家転覆罪.....................よってレオンハルト、オズワルド、イザークは貴族身分剥奪の後死刑!!



リチャードは精神に異常が見つかったため情状酌量の余地ありと見做し、フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国帝国軍魔界遠征騎士団第一部隊へ強制徴兵とする!!!』






イザークの言葉を思い出すたびに、裁判長の冷たい声が反芻する。





アイリス(嫌.................こんなの思い出したくないッ.....................!!


あんなに優しかったお兄様がクラリス殿下を虐めていたなんて.............そんなの嘘.........!


嫌よ................信じたくない..................お兄様が変わり果ててしまったことも.......亡くなってしまったことも...............何もかも忘れてしまいたい............!!)




アイリスの思考が悲哀と絶望に染まる。


頭が重くなり、視界がグラグラ揺れる錯覚に陥る。


“もう、自分はずっとダメなままなのかもしれない。”



心が折れかけたその時ーーーーーー




エイト『別にいいんじゃないですか?


誰にだって得意不得意はありますよ。

どんなに弱くても、どんなに情けなくても、間違いなくそれはアイリスさんの一部なんだと思います。




ーーーーーーーー僕はアイリスさんの優しいところ、好きですよ。』





エイトの言葉が、アイリスの心に穏やかに染み渡る。


先程までの悲しみが嘘のように晴れていく。


アイリスは、自分の心が温かくなっていくのを感じた。




アイリスは大きく深呼吸する。


一歩前に出て、エイトの目をまっすぐ見た。


その目には、もう迷いがなかった。




そしてーーーーーーーーーーー衝撃的な発言をした。




アイリス「エイトさん..................私、冒険者になります!!!」





セレスティア・アーサー「え!?!?」




あら息ピッタリ。

いやお前らが驚くんかーい!


どうも作者です!!




冒険者になると言い出したアイリス!!


その真意は一体.........?



次回!!「第三十七話 アイリスとセレスティア」よろしくお願いします!

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