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第四話 断罪騎士エクリプス

85層の攻略を着々と進めた僕たちは、ついに85層を守護するフロアボスの部屋の前にたどり着いた。


扉の前に立った瞬間、突然空気が変わった。


息が浅くなる。


体の震えが止まらない。


ーーー“逃げろ”


僕の生存本能がそう叫ぶ。


まだ扉を開けてすらいないというのに、もう死が目の前に迫っているようだった。


横にいるセレスティアさんはもう戦闘態勢に入っていた。

だが柄を握る手は小刻みに震え、歯と歯ぶつかってカチカチ音を立てている。


でも、剣から手を離そうとはしなかった。


彼女を励まそう、そう思い近づいたが、その必要は無かった。



彼女は大きく息を吐き、僕の目をまっすぐ見た。


その瞳には、もう迷いは見えなかった。



セレス「........行きましょう。」



エイト「は、はい!」



僕たちはボス部屋の扉を開けた。



そこには漆黒の鎧を全身に纏った騎士が部屋の奥の玉座に鎮座していた。



その堂々たる佇まいは騎士というよりは王のようだった。




セレスティアさんが剣を抜く。



ーーーーーーーーー



【第三者視点】


戦闘が始まった。



最初は速度勝負。



セレスティアはエクリプスを目掛けて突進した。

エクリプスの間合いに入る前に方向転換して右斜め前方向に跳躍。

エクリプスの背後を取り、着地した後地面を蹴って連撃を繰り出した。


普通の人間なら避けるどころか攻撃を視認することすら困難なほどの攻撃スピードだった。


だがセレスティアの剣先が届く寸前。


エクリプスはセレスティアの前から姿を消した。



次の瞬間にはもう蹴りが迫っていた。


セレスティアは咄嗟に受け流そうとするもエクリプスの蹴りを相殺できず落下した。


だがセレスティアは地面に打ち付けられる直前に体を回転させ、地面を強く蹴る。


そのままエクリプスと熾烈な攻防戦を繰り広げながら、セレスティアは思った。



セレス(見える.......!!

以前はあれほど理解不能だったエクリプスの動きがかろうじて見える!

やっぱりエイトさんの支援魔術はすごい......!

でも....それでもやっぱりエクリプスは強い......!!)



セレスティアは一度エクリプスと距離を取った。


だがその瞬間距離を詰められ、セレスティアがエクリプスを視認した時既にエクリプスの剣がセレスティアの首に迫っていた。


咄嗟に後退するも、セレスティアが反応するよりも早くエクリプスの剣が届いてしまった。


セレスティアはエクリプスの攻撃を避けきれず、首に切り傷ができてしまった。


首から出る血を手で押さえながら、セレスティアはエクリプスと距離を取る。


エクリプスはセレスティアを追うことなくその場に佇んでいた。


首から滴る血を見た瞬間、エイトは考えるより先に魔術を発動する。


だが、現時点でのエイトの魔力量で現状以上の支援魔術の多用は自殺行為に等しかった。


セレスティアはエクリプスとの距離を保ちながら移動し、エクリプスの隙を窺おうとする。


だがエクリプスには一分の隙も無かった。


剣も構えずただ立っているだけであるにも関わらず。


エクリプスから自然と発せられる圧に、セレスティアは思った。


今踏み込めば斬られる。


剣士として培った経験が、セレスティアを立ち止まらせた。



ーーーだが。


セレス(ここで逃げたら.......私は一生変われない.....!

()()()に追いつくため、私はーーーー


ここで止まってはいられない!!)



セレスティアは跳躍し、壁を足場に高速移動を繰り返した。



エクリプスの隙を作るためだ。


そうして壁と壁を移動している間も、エクリプスはずっとセレスティアの動きを追い続けていた。


だが、、、セレスティアがエクリプスの左片方背後に回る瞬間、エクリプスは振り返ることなく立っていた。


セレス(ーーー取った!!)


そのままセレスティアは壁を蹴ってエクリプスに向かって連撃を繰り出した。


エクリプスは振り向かなかった。


セレスティアの連撃を防ぐことも受け流すこともせず、ただ一歩横に動いただけでセレスティアの連撃を全て避けたのだ。


そのままエクリプスは刺突攻撃を繰り出す。


直剣とは思えないスピードの突きをギリギリで避ける。


だがその瞬間ガラ空きになった胴体を左拳で殴られた。


エクリプスには、最初から見えていた。


その上でセレスティアの攻撃を誘った。


ただ、セレスティアを効率よく仕留めるために。


セレスティアは吹っ飛ばされ壁に激突した。


背中と左脇腹に、稲妻が走ったような痛みが走る。


ふと違和感を感じセレスティアはエイトを見た。


顔は真っ青になり、目は虚ろで焦点が合っていない。


足はガクガクと震え、もう立っているのもやっとの状態だった。


セレスティアは叫んだ。



セレス「エイトさん!!

もうやめてください!!

これ以上はあなたが危険です!!」


だがエイトは譲らなかった。



エイト「大、丈夫.....ですっ......!!

まだ.....やれます........!」



セレスティアは深呼吸をした。


そして笑顔を作りエイトに告げた。


セレス「大丈夫です。

あなたがいてくれたから私はここまで戦えた。

だから.....後は任せてください。」


エイト「でもっ.......」


セレスティアはエイトを見た。


その瞳には強い意志が感じられた。


セレスティア「大丈夫です。

私は、死んだりしませんから。

たとえ剣は届かなくとも........


ーーー絶対に生き延びて、また挑むまでです。」



その言葉を聞いた直後、エイトは気絶するように倒れ込んだ。



とは言え、戦況は厳しいままだった。


セレスティアが得意とするスピードですら上回り、


距離を取っても潰されて、


挙げ句の果てにはスピードで翻弄して、一瞬の隙をついて攻撃しても全て避けられた。


セレスティアはもう、勝機を見失った。


“もう、勝てないかもしれない。”


一瞬、そんな考えがセレスティアの脳裏によぎった。


それはエクリプスと対戦する度に味わっていた絶望だった。


だが、心が折れかけたセレスティアの脳内にある言葉が響いた。


それはかつてエクリプスにどうしても勝てず落ち込んだ時に送られた、

セレスティアにとっては因縁の宿敵とも言える人間からの言葉だった。


???『なるほど、エクリプスか!!

アイツはお前と同じスピード型だから、お前が得意とする“速度で翻弄して一撃を入れる戦闘スタイル”は奴相手には分が悪い!

最も有効な攻撃が入るのは、エクリプスが攻撃を放つ瞬間だ!

攻撃を繰り出す瞬間は誰しも防御が疎かになる。

そこを狙えば、お前でも勝てると思うぞ!』


数ヶ月前、彼は快活に笑いながら私にそう言っていた。


5年前、自分を完膚なきまでに叩きのめした相手の言葉。


再会しても尚、常に自分の上を行き続ける存在。


でも、


何気ない彼の言葉が、


絶望に沈んだセレスティアの目に再び希望の光を宿した。


セレスティア(ーーーーそうだ。


私は、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。


あんな攻撃......5年前に受けたあの人の攻撃に比べたら圧倒的に遅い.......!


エクリプスすら倒せないようであれば私は、一生あの頃の自分のままだ!!)


セレスティアは立ち上がった。


だがその瞬間、エクリプスは初めて剣を構えた。


その瞬間、部屋中を満たしていた魔素がエクリプスのもとに吸い寄せられ、黒い瘴気となってエクリプスの周囲に纏わり付いた。


第二ラウンドの始まりである。



ーーーーーーーー


セレスティアは剣を構えた。


そのまま動かず、エクリプスをじっと見つめた。


エクリプスの攻撃を誘うためだ。


だが、それがわかっていたのかエクリプスは一向に動こうとしなかった。


エクリプスとセレスティアの間に沈黙が訪れる。


エクリプスの構えは、あまりに自然だった。


まるで、ただ道を歩いているかのような、滑らかで自然な構え。


体に一切無駄な力が入っていない。


だが、それ故に隙がなかった。


“一歩踏み込めば斬られる”、相手にそう思わせる圧があった。


剣士としての感覚が鋭い者ほど、この圧を強く感じてしまう。


気づけば、セレスティアも呑まれかけていた。


剣を持つ腕には力が入り、呼吸も浅くなる。


耐えかねたセレスティアは地面を強く蹴った。


だが次の瞬間ーーー


エクリプスの周囲に纏わり付いていた黒い瘴気がいきなり増幅し、部屋中に広がった。


不意にセレスティアは目を瞑る。


セレスティアが目を開ける頃には、数十体ものエクリプスの幻影がセレスティアの周囲を取り囲んでいた。


そして背後からエクリプスの剣が迫る。


もうエイトの支援魔術はない。


スピードもパワーも......反応速度も強化されてはいない。


セレスティアには避けようがない神速の一撃ーーーのはずだった。




セレス「ーーーーここです!!」




セレスティアは背後からのエクリプスの剣を避け、振り向きざまエクリプスに一閃を放った。


その攻撃はエクリプスの仮面に掠り、そしてヒビを入れた。


セレス(エクリプスは常に私の隙をつく。

そして私が踏み込んだ時、エクリプスは必ず死角から攻撃してくる!

エイトさんのおかげで.......やっとエクリプスの攻撃が読めるようになった!)


そう。


セレスティアはエクリプスの攻撃を読んだ。


それはエイトがセレスティアにかけた支援魔術《未来視補助(プレディクション)》のおかげだった。


未来視補助(プレディクション)》とは、実際に未来が見えるわけではない。

脳と眼球の処理速度を極限まで上げることで相手の攻撃が予測しやすくなるのだ。

だが予測と攻撃までのタイムラグが少ないスピード型相手には分が悪い。


だが、その支援魔術はセレスティアに、エクリプスの攻撃パターンを分析する猶予を与えた。


エクリプスは分身を消した。


セレスティアは勝機と思い、踏み込む。


エクリプスはセレスティアの懐に入り、斬撃を放った。


足を狙ったその攻撃を避けるため、セレスティアは跳躍した。


だがセレスティアが空中で体を回転させて反撃に出ようとした瞬間、視界の隅に黒い影が映った。


ーーーーエクリプスだった。


地上にいるはずのエクリプスは何故か壁を足場に剣を構えていた。


そう、エクリプスはセレスティアの一撃が仮面に当たって直後、他の分身体を隠れ蓑にもう一体分身を作ってセレスティアの死角に回った。


他の分身を消すことでセレスティアは分身体を本物と誤認し、そしてまんまと空中に誘い込まれたのだ。


絶体絶命。


確実に迫り来る“死”に、セレスティアは強い恐怖と焦燥で、目の前が真っ白になるような錯覚を覚えた。


だが、セレスティアはここで負けるわけにはいかない。


ここで死んでしまったら、エイトの援護が全て無駄になってしまう。


セレス(私は......負けられない!


エイトさんの思いも.....


そして、ここまで積み上げてきた努力も、


絶対に、無駄にはしません!!)


セレスティアは魔力を解放した。


その聖属性魔術特有の白銀色の魔力は槍のように収束し、セレスティアの剣を覆った。




セレス(この一撃に全てを込める。


私の魔力も、私の誇りも........ここで全てぶつけて見せる!


そしてあの騎士をーーーー倒す!!)



セレス「ーーーー聖槍一閃(ホーリー・ランス)!!」



そう叫んだ瞬間、セレスティアは全てを飲み込むかのような竜巻と共にエクリプスに接近した。


この聖属性魔術と細剣術を融合させた戦い方こそ、“白銀の剣姫”の真骨頂。


セレスティアの魔力によって加速された剣は、白銀の閃光となってエクリプスの喉元に迫っていた。


だがエクリプスはセレスティアの突きをギリギリ受け流した。


だが受け流し切ることができず、エクリプスの肩当てが砕けた。


エクリプスもセレスティアも地面に着地した。


セレスティアは剣を構え直し、エクリプスを警戒した。


エクリプスは剣も構えずただじっとセレスティアを見ている。



両者の間に再び沈黙が訪れた。



次はどう来るか、


そう神経を張り巡らせているとエクリプスはワナワナと肩を震わせた。



エクリプス「............フッ」



セレス「......?」



エクリプス「ハハっ.........」


少しずつ笑い声が漏れる。

耐えきれなくなったエクリプスはついに豪快に笑った。



エクリプス「ハハハハハ!!」



セレスティアは何が起こったのか分からず、怪訝な表情を浮かべながら剣先はエクリプスの喉元に向けたままだった。


不意に黒い仮面の向こうから男の声が聞こえてきた。


初めて聞くエクリプスの声だった。


エクリ「見事なり。

この我に一度のみならず二度までも剣を当てるとは。

貴殿のような剣士は久方ぶりだ。」



セレス「.......?」



セレスティアはわけが分からなかった。


“どういう状況なんだ、これは。”


そう思わずにはいられなかった。


するとエクリプスが再び喋る。



エクリプス「おめでとう、貴殿はこの第85層の番人“断罪騎士エクリプス”に認められた。

強き者である貴殿に我が守りし秘宝を授けよう。」



セレスティアは理解した。


戦いは終わったのだ。


剣を鞘に納めた瞬間どっと疲労が押し寄せ、セレスティアはその場に座り込んだ。


その直後、エクリプスは一本の細剣を取り出した。


刀身は白銀色で、中央に走る黄金の筋が眩いほどの光を放つ。


刀身の根元には翼の形状の鍔がつけられている。


その姿は六翼の天使が剣へと姿を変えたような美しい剣だった。


エクリプス「名は、神翼細剣セラフィエル

かつて滅びた国の王族に代々受け継がれし聖なる(つるぎ)だ。

ありがたく受け取るがいい。」



セレスティアは剣を受け取り、エイトを担いでダンジョンを後にした。


そうして、セレスティアとエイトは85層を完全攻略した。



追記:作者でーす!


すみません、第四話の後書き書くの忘れてました( ; ; )


今回もお付き合いくださりありがとうございます!!



次回はなんとセレスティアの因縁の相手が初登場!!


その正体は意外なあの人!!



次回「第五話 ???」お楽しみください(^ ^)


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