第三十四話 地獄の始まり
時は戻りクラリス救出から30分程前.................
ヘレナ「はい、確かに昨日の12時3分56秒84層クリアを確認しました。」
Sランク昇格試験受注には条件がある。
84層をクリアしていることは当然。
そしてーーーーーーーー
アーサー(14歳)「こっちが魔神の首だ!!」
下位の魔神の首を持ってくること、あるいは実力試験で試験官を倒すことのどちらかである。
ヘレナ「確認致します。」
通例は試験官を倒すのが主流だったのだが、若かりし日のダリオスが「この方が手っ取り早いだろう!!」と言って、100柱の魔神とは別に魔界から魔神の首を持って帰ったことが始まりである。
“手っ取り早いだろう”じゃねぇんだよ!!
会計でキャッシュレスカード出すノリで魔神の首持って来んな!!
それ以降、Sランクになった人間は全員魔神の首を持って帰っている。
そうやってSランクになっていった冒険者達が何者かはお察しの通り。
歴代ユースティティア皇族の先祖達、そして今代の子孫ガウェイン・マルクス・カストル三兄弟である。
さすがマッスル皇帝国。
だが、歴代ユースティティア皇族の先祖達は既に現役引退して魔界で色んな魔神の国の王都を襲撃してキャッキャとはしゃいでいるので現在のSランク冒険者はたったの三人。
いやいや何が引退だよ、バリバリ現役じゃねぇか。
不老不死の一族は精神まで不老なのか?
それはそうと今ここに、今世代四人目のSランク冒険者が生まれようとしていた。
ーーーーーーいやツッコミどころ多すぎだろ!!
ヘレナ「はい、確かに本物ですね。
おめでとうございます、条件達成です。
第85層攻略、行ってらっしゃい。」
アーサー(14歳)「っしゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
兄者達と同じSランクになるぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ーーーーーーダンジョン内部にて
アーサー(14歳)「............?クラリス?なんでクラリスの気配が............
ーーーーーーー!!エクリプスの気配と重なってる..............こ、これは............ボス部屋にいるのか!?」
お前の体感センサー感度良すぎだろ。
だがグッジョブ!!
アーサー(14歳)「ーーーー《全域索敵》!!!」
アーサーは魔術を使用しながら走る。
その速さはまさに神速。
もはや体の軌跡を辿ることすら許されない。
アーサー(14歳)(マズイ..........両手両足の骨が折れてる!!このままじゃクラリスがッ.........!!)
ドガァァァァァァァンッ!!
急ぐあまり、アーサーは扉を破壊して中に入る。
そこにはーーーーーーーー全身に酷い怪我を負い、変わり果てた姿で倒れているクラリスの首にエクリプスの剣が迫る光景があった。
アーサー(14歳)「クラリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
アーサーはエクリプスの首を斬り落とし、体当たりしてエクリプスの体を剣諸共吹っ飛ばした。
エクリプスの生首を持ってクラリスに駆け寄り、体を抱き上げて魔術を行使する。
アーサー(14歳)「《瞬間移動》!!」
その後、アーサーは冒険者ギルドに移動した。
アーサーの腕に抱かれた少女に場は騒然とした。
顔は酷く腫れ上がって痣もあり、元の天使のような可愛らしさが消えており、髪は引きちぎられて長さがまだら。
全身にも酷い痣と打撲痕があった。
だが、彼女が身に纏っていた戦闘服の胸元にはーーーーーーーーレスタリア大公家の紋章があった。
ヘレナが珍しく慌てた様子でアーサーに駆け寄る。
ヘレナ「ア、アルトリウスさん.........その方はッ..........!!」
アーサー(14歳)「レスタリア大公家第三公女クラリス・ロイ・レスタリア様だ。」
ヘレナ「................ッ!!」
その名を聞いた瞬間、ヘレナは大きく目を見開いた。
その瞳には動揺が滲む。
アーサー(14歳)「ヘレナ..........今すぐ騎士団に連絡を入れてくれ。
レスタリア大公家の公女が何者かによって85層に置き去りにされた。
ーーーーーーーーーーーーー公女暗殺未遂事件だ!」
その後、プエルグラトゥス王国騎士団と宮廷魔術師団が出動し、列強諸国にあるレスタリア家の対抗勢力となる王侯貴族達を捜索する事態となった。
フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国軍も出動するほどの大事件である。
無論ロドリックとサミュエルもいる。
クラリスは一度アーサー達を受け入れているシルヴェール家.........つまりイザークの実家で療養した後、怪我を完治させるため、そしてプエルグラトゥス王国内部に潜む刺客から身を守るため、クラリスの生家であるレスタリア大公家に帰還した。
そこで............レオンハルト達の陰湿な虐め、そして婚約者オズワルドの裏切りがレスタリア大公家及びユースティティア皇家に知れ渡った。
アルフォンス「なんということを.........まさか自分の婚約者を殺そうとするなどッ............!」
エリアナ(64歳)「怖かったでしょう!!ごめんなさい、助けてあげられなくてッ...........!!」
そう言ってクラリスを抱きしめる若々しい美少女はエリアナ・ロイ・レスタリア。
レスタリア大公家第二公女であり、クラリスの姉である。
外見の年齢は18歳なのでややこしい。
後で鑑定したところ、確かにクラリスの怪我はリチャード・エペ・ヴァレンティアに負わされたものであることが確定され、記憶検査でレオンハルト・オズワルド・イザークの三人からも人格否定に等しい暴言を浴びせられていたことが確認された。
それがちょうどクラリスが精神的に安定した、今からたった数日前のことである。
この事実はプエルグラトゥス王国に滞在していた皇子達には知られぬまま裁判まで来た。
だがーーーーーーーーーーーー裁判当日、レオンハルトの判決を待ってる間に裁判官から押収したアリアの日記と黒歴史本にて、オズワルドがクラリス暗殺計画を立てていたこと、そしてレオンハルト達がクラリスを虐めていたことがアーサーにバレてしまい、今に至る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
現在。法廷にて。
弁護人席の傍らに立っていた1人の女性が大きく溜息を吐いた。
太陽を思わせる黄金の髪はロール状に巻かれ、華やかで美しい。
眩い光を放つ長いまつ毛の下から覗く瞳は炎のように鮮烈な赤。
まるで国を統べる女王のように凛々しく佇み、軽蔑の眼差しでオズワルドを睨む彼女はレティシア・ヴァン・ギルガメス。
ギルガメス大帝国の第三皇女である。
見ての通り、とても気が強い女の子である。
それだけではなく剣術にも秀でており、華奢であるにも関わらず男ですら勝てないほど強い。
リチャードの剣すら正面から弾くその膂力、セレスティアにも迫る圧倒的なスピード、騎士顔負けの技術力、全て流石軍事大国の姫様としか言えない。
昔からことある事に突っかかってくる元婚約者リチャードをボコボコに返り討ちにしてきた。
ギルガメス大帝国の皇女という立場と精神力・戦闘力両面での強さからレオンハルト達もレティシアには手が出せなかった。
レティシア「浅ましいこと。
クラリス様が反撃できないのをいいことに散々いじめ抜いた挙句ダンジョンに置き去りにして殺そうとするという狼藉を働いておいて、謝罪の一言もなく一方的に婚約破棄を押し付けるなんて。
よくもまぁ、公爵家の次男ごときが偉大なるフォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の皇族の血筋にそんなことができたものだわ。
性格は最悪、肉体も軟弱で剣を握っても子供にすら負ける。
魔術の腕も素人よりは良い程度で宮廷魔術師になるのも夢のまた夢。
得意の火属性魔術すら中級までしか使えない癖に嫌に自意識過剰で少し視線をやっただけで自分に気があると思い上がる愚かさ。
あなたはいつもクラリス様を虐める時、”誰も彼も自分の中身を見てくれない。みんな自分の身分と顔しか見てくれない”って言うけれどねぇ、
あなたみたいに外面ばっかりで中身空っぽな、身分と顔しか取り柄のない惨めな男のどこを見てどう好きになれと言うの?
まさかあなた、自分の中身は素晴らしいとでも思っていたの?
勘違いも甚だしいわ、厚顔無恥にも程がある。」
うわぁ...............高火力.................
これはキツイ.....................オズワルド泣いちゃうって...............
リリアナ「そもそもの話、何故クラリス様があなたを好いている前提なのかしら?
彼女が在学中ずっと肌身離さずつけていた、そしてあなた達がバキバキに壊した髪飾りはクラリス様の祖国のアーサー皇太子殿下からの贈り物。
彼女が毎日毎日熱心に書いていた、そしてあなたが破り捨てた手紙はあなた宛ではなくシルヴェール公爵家に滞在していらっしゃるアーサー皇太子殿下に宛てたもの。
他愛のない雑談をしている時口にする言葉はどれもアーサー皇太子殿下を案じるもの。
どこからどう見てもアーサー皇太子殿下への想いを秘めていらっしゃるクラリス様がどうしてアリア嬢に嫉妬したと思ったの?」
おいおい、アーサー関連のもの壊すのはマズイだろ..........
でもそれ以上にリリアナさーん?
それは多分クラリスにもダメージ入るよー?
当のアーサーは...............
アーサー「えへへ、そんなに慕われてるなんて兄冥利に尽きるなぁ~」
そんなことを呟いていた。
照れくさそうだがコレジャナイ感がすごい。
............................うん、分かってたよ。
君はそういう奴だよな。
もうオズワルドの裁判は結果分かってるのでスキップして結果だけ言うと、オズワルドは死刑になった。
クラリスが皇太子アーサーから直々に賜った髪飾りを断りもなく取り上げて破壊・廃棄を行った、アーサーへの不敬、ユースティティア皇族の血筋たるレスタリア大公家の令嬢であるクラリスを貶める噂を流して名誉を傷付け、挙句の果てには殺害しようとした悪鬼の所業、そして計画そのものの悪質さなど諸々の観点から、情状酌量の余地なしと判断された。
クロムウェル公爵家からも除名され、死刑執行の日まで貴族を名乗ることすら許されない。
アリア自身もクラリス殺害計画に加担し、更にギルガメス大帝国の皇女であるレティシアなどにも名誉を傷つけるような噂を流すなどの危害を加えていたこと、そして平民となりレオンハルトたちとの接触が禁じられて以降も王宮に不法侵入していたことが明らかになり、今度こそ不法侵入罪と国家転覆罪で一族郎党死罪となった。
リチャードはクラリスに暴行を加えてはいたものの、鑑定の結果精神に異常を来していたことが明らかになり命だけは助かった。
だが、公爵家の子息の分際でギルガメス大帝国の皇女に自ら婚約破棄を突きつけた罪は重かったため、そして皇帝ダリオス・皇太子アーサー両名からの申し出もあり、フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の皇帝国軍の魔界遠征第1部隊にてしごかれることになった。
とりあえず命は助かったことに、そしてヴァレンティア家からの除名を免れたことでリチャードはホッと息を吐いた。
ちなみに魔界遠征第1部隊とは、魔界遠征騎士団のうちひとつの部隊。
騎士団を名乗っているが身につけているのは見た目は派手そうだがものすごく動きにくそうな普通の鎧ではなく、アーサーたちの礼服のように一件すると軽装でオシャレな戦闘服だが機能性抜群で耐久性も機動性も圧倒的なチート戦闘服を身につけている。
そんな彼らの仕事は魔界に住まう魔神の駆除である。
もう一度言おう、彼らの仕事は魔神の”駆除”である。
というのも、200年前サルムンド王国を滅亡に導いた魔神が出現した原因は、魔族がいきなりいなくなり、魔神が魔界に降りたことで魔界のエネルギーが急速に変化することでパンクし、人間界と魔界を隔てる壁の一部が大きく破裂し瓦解したからである。
その後ユースティティア皇族、つまり可愛い子孫たちのおねだりにやられて降臨した戦神ヘファイストスによって人間界と魔界は再び分かたれた。
しかし魔神が持つエネルギーは凄まじく、魔王が現れる周期より短い周期で魔界が限界を迎えて崩壊してしまい、魔神が大量に人間界に流出してしまう。
そのため半年に2回ほど魔界に派遣されて魔神を駆除する、騎士団という名目の何かが生まれた。
全ての部隊は前に出て魔神を蹂躙する前衛部隊、
後衛を守る中衛部隊、
物資の援助や兵士の怪我の治療、魔神から採れる魔石を採取する後衛部隊の三種類に分類され、
前衛→中衛→後衛の順番に並べると左から訓練がキツい順になる。
後衛部隊に肉体鍛錬や武術の稽古がないと言えば嘘になるが、それでもホワイトな方(通常の国王直属精鋭部隊の訓練並み)である。
そして第一部隊はバリバリ前衛である。
筋トレ・走り込みを含む基礎体力トレーニングが人外専用メニューなのは当たり前、
武術の鍛錬ではどんな怪我を負おうとすぐに医療魔術で治されて休憩すら許されない。
時々史上最強の皇太子アーサーくんがやって来た時は普段の10倍.......いやもっとキツい。
正直言ってフォルティトゥード民族以外の通常の人間にとっては、反社会組織に捕まって完璧に精神が狂うほどの拷問を受けた方が圧倒的に優しいと思うほどの地獄を見ることになる。
そう、これからリチャードには死刑よりも辛く苦しい地獄のような日々が待っているのである。
達者でな、リチャード。
お前のことは一生忘れないよ、多分。
作者です!!
さぁ次回はリチャード回!!
他国の軍に送られたリチャードが目にしたのは一体!?
次回!!「第三十五話 ようこそ地獄へ」よろしくお願いします!!




