第三十二話 レスタリア家の真珠
その少女は天使と見紛う美しい少女だった。
銀色に近いプラチナブロンドの髪はまるで絹糸のように滑らかで美しく、ガラスのように透明なラベンダーの瞳は、涙で歪んでいるものの強い信念が垣間見える。
肌は雪のように白く、そしてマシュマロのように柔らかく、透明なゼリーのように水々しい。
可憐さと儚さを同時に感じさせる声は、涙で震えているものの、凛として真っ直ぐ通る。
その表情には強い決意が見える。
彼女はクラリス・ロイ・レスタリア。
オズワルドの婚約者であり、その血筋故に他国ではユースティティア皇族の次に丁重に扱われる存在である。
その美貌からついた異名はレスタリア大公家の白き真珠。
クラリス「レ、レスタリア大公家第三公女として命じます.....!
そ、その人の手........は、離してあげてください..........!!
し、死罪も取り消して.........じょ、除名も取り消してあげてください.........!
お、王位継承権剥奪だけでも十分罰になるでしょう........!」
衛兵は戸惑った。
オーレリアンを見る。
辺りは気まずい沈黙に包まれた。
周囲は何も言わない。
クラリスに口出しできるのはユースティティア皇族かアルフォンス大公のみ。
オーレリアンですらクラリスには逆らえない。
しかし皇太子であるアーサーが「プエルグラトゥス王国の法で裁け」と言い放ち、皇帝ダリオスもそれに同意した以上、ユースティティア皇族の意思たるレオンハルトへの判決を今更蔑ろにすることもできない。
困惑と、動揺が広がる。
その時ーーーーーーー
アーサー「ーーーーーーーーーー皇太子として命ずる。
罪人レオンハルトをプエルグラトゥス王国の法の下厳正且つ公正に裁き、正当且つ合理的な判断の上で処罰せよ。
如何なる者の陳情も受け付けるな。」
冷たく、そして鋭い声が空気を切り裂くように響き渡る。
その瞬間、レオンハルトの処遇は決まった。
衛兵は再度レオンハルトを拘束し、無理矢理部屋の外へ連れて行く。
レオンハルトが法廷から出た瞬間、周囲は困惑から解放されてほっと息をついた。
アーサー(みんな安心してる!!良かった!!)
そう、この男、善意からの行動である。
クラリスの発言で場が困惑してると気づいたアーサーは自らの権力を使って場を整理しようとした。
最初から言ってよね.........。
しかしーーーーーー
クラリス「ま、待ってください........!!」
アーサーが振り返る。
そこには、弁護人席から二階の傍聴人席まで上がってきたクラリスがいた。
アーサーに見られた瞬間、肩がビクッと跳ねる。
体も声もガタガタ震えている。
それでも、涙で歪む瞳はアーサーをキッと睨み、両手はぎゅっと握りしめた。
その姿はおそらく、アーサーから見れば怖がりながらも家族を守ろうと必死に威嚇している可愛らしいハムスターに見えたことだろう。
涙で震えているが、凛として真っ直ぐな声でクラリスは言う。
クラリス「め、命令を......取り消してくださいっ.............!
こ、こんなの..........あんまりですっ..............!!
だ、誰にだって..........間違いの一つや二つはありますっ...........!
た、確かにあの人は酷いこと言ってました.........!!
で、でもっ.........わ、悪口の一つくらいで命すら奪うなんてっ......
そ、そんなの.........命への冒涜ですっ.............!!」
アーサーはゆっくり立ち上がった。
その表情には感情が見えず、瞳には一切温度がない。
クラリス「............ヒッ.......!!」
クラリスは咄嗟に後退りした。
カタカタ震え、大粒の涙をポロポロと流す。
その表情には強い恐怖が滲んでいた。
自分へと迫る足音を聞きながら、クラリスはギュッと瞳を閉じた。
そして弱々しい声で続ける。
クラリス「な.........何をされようと.......何を言われようと..........わ、私は屈しませんっ...........!
だ、誰がなんと言おうと........こ、こんなに容易く人を殺すなんて.........ま、間違ってますっ...............!!
あ、あの人は.........反省してましたっ............!
そ、それで十分のはずですっ..................!!
ユ、ユースティティア皇族は........か、神の血を引く由緒正しき高貴な一族ですっ...........!
そ、それならっ..........尚更.......よ、弱きを救い........ま、守り、導くべきです.................!!
ぼ、暴言だけでっ............暴言だけで死刑にするなんてっ...........!
そ、それでは権力にものを言わせて民に無理を強いる、邪悪で下劣な悪徳貴族とそう変わらないのではありませんか..................?」
そう言ってクラリスが顔を上げると、アーサーがすぐそこにいた。
アーサーの手が、クラリスの頭上に伸びる。
クラリスの瞳は恐怖で染まり切った。
目を瞑り、クラリスは頭を手で抑え、俯きながら引き攣った声で悲痛に泣き叫んだ。
クラリス「い、嫌ッ...........お許しください.........ア、アーサーお兄様ッ........!!」
ーーーーーーーーーーーぽん。
クラリスの頭に、アーサーの手が乗った。
そのままアーサーは優しくクラリスの頭を撫でる。
アーサー「クラリスよ、そう怯えるでない。
我は其方のことを妹のように可愛いと思っておる。」
その声は優しかった。
春の日差しのように暖かく、そして波ひとつない水面のように穏やかな声だった。
クラリスは顔を上げる。
そこには絶世の美貌があった。
そこだけ光が消えたかのような深く暗い漆黒の髪は上質な絹糸のように滑らかで、陽に当たって艶やかに輝く。
無造作にハネているのに何故か綺麗に纏まっている。
雪のように白い肌とのコントラストが映え、彼の人間離れした美貌を引き立てている。
その肌は陶器のように滑らかで、光にあたると月光のように淡く光り、少し触れただけで容易く壊れてしまいそうなほどの儚さを感じさせる。
首は長く、真珠のように光る真っ白な胸元に、逞しい胸筋の一部がチラッと見えている。
ずっと箱入りで育っていたクラリスには刺激が強すぎるほど扇情的で、見る者を惹きつける魔性の魅力を感じさせる。
漆黒のまつ毛の間から覗く瞳は深く黒い深緋色だが、瞳孔だけが藍色という珍しい色合いだった。
見る者の目を焼いてしまうほど強烈で鮮烈な印象を与える瞳はよく磨かれた宝玉を思わせるほど透明感があり、夜空の星々を思わせるほど眩い光を湛えている。
見つめられているだけで心の奥底まで見透かされてしまうような一抹の恐怖を覚えるが、同時に草花が生い茂り鳥の囀りが響くのどかな森林のように穏やかだった。
鼻は小さいが鼻筋がスッと通っており、その下には薄すぎず厚すぎない鮮やかな薔薇色の小さい唇があった。
そんなまるで神話の女神アストライアを彷彿とさせる絶世の美貌を持った青年が、クラリスに向けて柔らかく微笑んでいた。
まるで、我が子を慈しむかのように。
クラリス「えっ.........あの..............」
アーサーと目が合った瞬間、雪のように白かったクラリスの顔がカァっと赤くなる。
そしてサッと目を逸らした。
アーサー「クラリスよ。
其方が心優しいことは理解しておるが、あまり皆を困らせるでない。
レオンハルトは正当な法の下、公正に裁かれたのだ。
確かに死罪になったのは我への発言が原因であろうが、それもこの国の法。
それを個人の感情で捻じ曲げるのは不粋であるぞ?」
ルシウス「兄上...........クラリス嬢は気絶しましたよ。」
ルシウスが呆れたように言った。
そう、メロすぎるアーサーに耐えきれなくなった純真無垢なクラリスは、アーサーの腕の中で気絶.............................ってオイ!!!!
何どさくさに紛れて抱きしめてんだ!!!
びっくりだよ!!!
ルシウス「.................................兄上?何故クラリス嬢を抱きしめているのです?」
信じられないものを見るような目でルシウスは問う。
アーサー「え........だって急に倒れ始めたから............頭ぶつけたら痛いと思って..........」
天然か!!!
お前そういうところだぞ!!
距離感を考えろ距離感を!!!!
..........................あ、クラリス起きた。
アーサーの顔を見上げる。
アーサーくんニッコリだねぇ..........
あーーークラリスは顔が真っ赤になって.............口をハクハクさせている。
涙目でプルプル震える様は確かに愛らしい。
だがしかしそこで撫でるなお前!!!
癒されるのはわかるけど撫でるな!!!!
クラリスが色んな意味で死ぬから手を止めろォォォォォォォォ!!!!
作者です!!
さー突然始まったラブコメ!!
裁判の行方はどうなる!?
次回!!「第三十三話 勘違い」よろしくお願いします!!




