第三十一話 愛の敗北
フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国。
神の末裔たる民が住まう神聖なる聖地(※一応)。
5万年を超える歴史を持ち、
ローゼンブルグ王国をも凌ぐ経済力、
天下無敵のギルガメス大帝国さえも恐れ慄くほどの軍事力、
世界随一とも言われる技術力を誇る。
皇帝国を支配するユースティティア皇族は戦神ヘファイストス直系の子孫であり、他の王族・皇族とは一線を画す高貴な血筋を持つ。
鉱山や農業ができる土地、気候、とにかく資源に恵まれたフォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国。
だがーーーーーかの帝国に攻め込んだ国家は、いずれも文明ごと滅びを迎えた。
たった一夜にして、民も遺産も城も兵士も..........全てが燃やし尽くされた。
200年前まで平和とは言い難い戦乱の時代を生きたにも関わらず国は衰えず、兵士は減らず、疲弊もせず。
皇帝国の皇都は常に平和で活気に満ち溢れていた。
様々な果物、肉、野菜、武器商店、防具商店、服屋などなどの店舗には崩落の跡がなく真新しく、地面に瓦礫はひとつもなく、レンガの間からチラッと草花が覗いている。
街は死体ではなく色とりどりの華やかな服を着た民で溢れかえり、爆撃の音や悲鳴など想像すらできないほど人々の笑顔と話し声で埋め尽くされている。
とても戦時下とは思えない、平和で活気に満ち溢れた街並み。
他の貴族領も平時と何も変わりがない。
すると兵士が帰ってくる。
その足取りは機敏で自信に満ち溢れており、その顔に疲弊の色は微塵も見えない。
復興などする必要すらなく、また次に戦争を吹っかけられるまで家でダラダラ平和な日常を送る。
そう、どこまでも平和。
不気味なほど平和すぎた。
故に恐れられる。
故に誰も彼もがユースティティア皇族に跪く。
だが帝国は侵略行為をしない故に憎まれることは無かった。
幼児ですら魔神を屠る異常な戦闘能力を持つ民族。
更に言えば今代の皇太子は予言に記された救世主”神々の愛子”という非常に神聖な存在であると同時に、当代の皇帝ダリオスや他の兄皇子の寵愛を受けて育っている。
そう、故にアーサーは異常に恐れられている。
誰も怒らせたくない。
誰ももう戦争なんてしたくない。
だが。
フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の皇太子アーサーに。
よりにもよって。
皇帝一家が目に入れても痛くないほど可愛がっているあのアーサーに。
”豚”などと言って口汚く罵った阿呆がここにいた。
ダリオスのこめかみには血管が浮いている。
目には魔神すら震え上がるほどの殺気が宿っている。
他の皇子達も表情が険しい。
左隣に座っていたギルガメス皇族一行は10メートルほど距離を取り、ビクビク震えながら縮こまっている。
ユースティティア皇族の席の右隣にあるレスタリア大公家の席も怒気で満ちている。
世界の終わりがやってきたかのような悍ましい程の恐怖に周囲は押しつぶされ、重々しい沈黙が訪れた。
誰も、何も口にしない。
最初に口を開いたのはーーーーーーーーーーークラリスの父、アルフォンス・ロイ・レスタリア大公だった。
レオンハルトを指差し、怒りに満ちた声で怒鳴る。
アルフォンス「控えよ!!!
国力も歴史の長さも我が国の足元にも及ばん小国の王太子風情が何を言うかと思えば..............
神々に愛されし神聖なる御子を”豚”呼ばわりとは何事か!!!
我が帝国の偉大なる皇太子アーサー殿下を侮辱したその罪!!!
万死に値する!!!」
言い終わると、オーレリアンが慌てた様子で出てきて、レスタリア大公とユースティティア皇族の前で土下座した。
頭を何度も下げ続け、瞳に涙を浮かべながら必死に謝り倒す。
オーレリアン「本当に!!本当に申し訳ございません!!
全ては私の監督不行届が招いた結果でございます!!!
アーサー殿下に対する度重なる無礼!!
このオーレリアン、謝っても謝り切れぬ思いでございます!!!
む、むむむ息子は勉学の成績もギリギリで少々夢見がちでして...........皇太子殿下がどういう存在かよく分かっていないのです!!!
本当に!!!
教育が行き届いておらず申し訳ない限りです!!
心より!!!
心よりお詫び申し上げます!!!」
だが、レオンハルトは拗ねた様子で立ち尽くしている。
オーレリアン「レオンハルト!!!お前も頭を下げろ!!!」
そう叫ぶオーレリアンの瞳は血走っており、声には焦燥が滲んでいた。
レオンハルト「お、俺.....悪くないし............わ、悪いのは......ア、アーサーってやつだし............」
だがしかしその声は震えており、瞳には涙が滲んでいる。
(※..........ちなみにアルフォンスはアーサーほど怖くはない。)
両足はまるで雷の如き凄まじいスピードで震えている。
アルフォンス「貴様ッ.......この期に及んでッ...............!!」
怒りに震える声で呟きながら、アルフォンスは腰に下げてる剣に手を置いた。
だがーーーーーーーーーーー氷のように冷たく凛とした声が、法廷に響き渡った。
アーサー「良い、アルフォンス。
我は気にしておらぬ。」
その声は静かだった。
まるでのどかな森林の木漏れ日の如く穏やかで、しかし雪が降り積もる最北の雪山の如く冷たく、そして死神を前にしたかの如く恐ろしい。
アーサー「あのような者の言葉で揺らぐほど我らユースティティア皇族は軽くはない。
故に、我ら皇帝国が諸君らディレクトゥス王家を罪に問うつもりはない。
その者の処遇はプエルグラトゥス王国の法で定めるがよい。
なぁ、父上。」
ダリオスはしばらくレオンハルトを見つめた。
その後、ゆっくりと目を伏せた。
ダリオス「ふむ...........まぁ良いだろう。
王国側に任せる。」
その直後、レオンハルトの判決が下された。
レオンハルトは王位継承権剥奪及びディレクトゥス王族から除名、そして......
ーーーーーーーーー死罪となった。
オーレリアン「罪人を連れて行けェェェェェ!!!」
オーレリアンが叫んだ瞬間、衛兵達がレオンハルトに駆け寄り、連行しようとする。
レオンハルト「な、何をする!!!放せ!!お、俺を誰だと思っている!!!」
レオンハルトは必死に抵抗した。
足や手を力一杯振り、声のかぎり叫んだ。
だが、騎士の力は強く、レオンハルトの力では振り解けない。
レオンハルトは涙ながらにアーサーに縋る。
レオンハルト「ゆ、許してくれ........!!
いや、お許しください!!!アーサー殿下!!!
す、少しばかり頭に血が昇っていたのです!!
本当にそう思っていたわけではないのです!!」
だがしかし、アーサーは何も言わず、ただただ冷ややかな目でレオンハルトを見下ろす。
その表情は一切感情を含んでいなかった。
レオンハルトは今度は オーレリアンに許しを乞うた。
レオンハルト「ち、父上っ............!!」
オーレリアンは目を逸らし、鋭く、だが震える声で衛兵に告げる。
オーレリアン「.................連れて行けッ...........!!」
レオンハルトの瞳から、光が消えた。
ただただ泣き叫びながらアーサーとオーレリアンに許しを乞うた。
だがしかしレオンハルトは扉の近くまで引き摺られ、もう部屋から放り出される、その瞬間。
クラリス「や、やめてあげてくださいっ.........!」
ーーーーーーーーーーーーー弱々しく、だが芯の通った声がした。
作者です!!
これでシリアスは終わり、ちょっと次はラブコメ感出します!
次回!!「第三十二話 レスタリア家の真珠」よろしくお願いします!!




