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閑話 ”僕の英雄”

【エイト視点】



ーーーーそれは、8年前の秋のことだった。


僕は木の実を拾うために森に入っていた。


僕の村は北の国境にあり、魔物が凶暴だった。


だから、誰も森の奥に入ろうとはしないし、僕もいつもなら近寄らなかった。


だが、僕が森に着いた時、既に他の村の人たちによって木の実が狩り尽くされていた。


”今日は諦めよう”、そんな考えが頭をよぎる。


だが、すぐに首を横に振った。



母は体が弱く寝たきりで、妹はまだたったの2歳。


父は数年前に魔物に殺された。


だから、僕が頑張らなきゃ家族は路頭に迷ってしまう。


体が震える。


魔物の姿を想像しただけで、足が竦んで動けなくなってしまう。


だが、それでも僕は1歩踏み出した。







ーーーーーーだが、僕はこの時選択を間違えてしまった。


きっとこの時諦めて帰っていれば、何事もなく明日を迎えられただろう。





森の奥に行くと、色んな実が木になっていた。


だが、魔物はいない。


どうやら、魔物が出るのはまだ先のようだ。


僕はホッと息をつき、木の実を取っていった。


僕は夢中になってカゴいっぱいに木の実を集めた。




エイト(7歳)「すごい..........木の実がこんなにいっぱい........!!

これなら母さんも、ソフィアも喜ぶぞ.......!」




僕は目を輝かせる。


ーーーーーだが、その時。




黒い影が視線をよぎった。


振り返るとそこにいたのはーーーーーー首が三つある黒い犬。


ブラックケルベロスだった。




それが二匹、三匹と現れ.........数十匹の群れとなって僕の目の前に現れた。




その瞬間ーーーーーーー体からスゥっと温度が消えたような気がした。


心臓が早鐘を打つ。


額から滝のように汗が流れる。


まだ夏の暑さが残る季節であるにもかかわらず、まるで極寒の中にいるような錯覚を覚えた。


手足が震えている。


だが、逃げなければ。


ここで死ねば母や妹が飢え死にしてしまう。


僕は腕を力一杯振り、可能な限り足を動かした。


だが、すぐに息が上がってしまう。


極限状態だからか、足に上手く力が入らずスピードが出せない。


呼吸が段々苦しくなり、眩暈がする。


もうほとんど前が見えない。


だが、後ろから迫る足音が、


死の恐怖が、僕を奮い立たせた。





ーーーーーーしばらく走っていると、違和感を感じる。


息が楽になり、体が軽くなった。


体から溢れる透明なオーラが視界を歪ませる。


足が機敏になり、突風が顔に当たって僕は目を瞑った。


僕の耳から、ブラックケルベロスの足音がどんどん遠ざかっていく。



やった..........逃げ切れたんだ...........!!



これでもう大丈夫だ!!



僕は助かったんだ!!



待っててくれソフィア......母さん!!



もうすぐ......帰るから.........!





ーーーーーーそう思ったのも束の間。





突如、黒い影が僕の目の前に飛び出てきた。



ーーーーーそれは、先程と同じ魔物だった。



どうして...........やっと逃げ切れたと思ったのに.......


僕は、膝から崩れ落ちる。


涙で視界が大きく歪む。


何が........いけなかったんだ.......


僕はただ........家族のために....!!


こんなところで.........僕は死ぬのか...........!!




十数匹の魔物の爪が僕の頭上に迫る。




もう.........ダメだ........




ーーーーーーーーそう思った時だった。




アーサー(7歳)「セァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」




ーーーーーーーードドドドドドドドドッ!!!!




突如、激しい轟音と共に地面が大きく揺れた。


同時に凄まじい旋風が巻き起こり、僕は吹き飛ばされて木にぶつかった。


背中の痛みに耐えながら、僕は地面に蹲った。





目を開けるとーーーーーーーそこには、この世のものとは思えないほど美しい天使がいた。



そこだけ光が消えたかのような深く暗い漆黒の髪は上質な絹糸のように滑らかで、羽毛のように柔らかく、そして細い。


風に揺れてふわっと広がるその様はまさに天使の両翼の如し。


雪のように白い肌とのコントラストが映え、彼の人間離れした美貌を引き立てている。


その肌は陶器のように滑らかで、光にあたると月光のように淡く光り、少し触れただけで容易く壊れてしまいそうなほどの儚さを感じさせる。


首は長く、真珠のように光る真っ白な肌にはっきり筋が浮かんでいる。


その様は幼い僕には刺激が強すぎるほど扇情的で、見てはいけないと思うのに思わず魅入ってしまう。


漆黒のまつ毛の間から覗く瞳は深く黒い深緋色だが、瞳孔だけが藍色という珍しい色合いだった。


見る者の目を焼いてしまうほど強烈で鮮烈な印象を与える瞳はよく磨かれた宝玉を思わせるほど透明感があり、夜空の星々を思わせるほど眩い光を湛えている。


見つめられているだけで心の奥底まで見透かされてしまうような、一抹の恐怖を覚える。


鼻は小さいが鼻筋がスッと通っており、その下には鮮やかな薔薇色の小さい唇がちょこんと置かれていた。


淡雪のように儚げで、しかしどこか妖艶で、神秘的で、どこか恐ろしい。


相反する印象が同時に押し寄せ、混在する。


まさに神話に登場する天使がそのまま地上に降臨したかのような絶世の美貌を持ち合わせる一方で、その佇まいは堂々としており、まるで伝説にある皇帝アレキサンダーのような神々しい覇気を纏っていた。




この美しすぎる光景を、きっと僕は一生忘れないだろう。



そう確信するほどに、彼はあまりにも美しすぎた。



刀身に鳥の羽を模した紋様が刻まれいる白銀の美しい剣の刃先から、赤黒い血が滴り落ちている。


ハッと気づき辺りを見回すと、魔物は全て首を刎ねられて死んでいた。


すごい..........あの一瞬で全て斬り落としたんだ............


首が三つも付いてたのに.......す、すごい......!!




そんなことを考えていると、薔薇色の滑らかな唇から、人魚の歌声のように美しく、だが氷のように冷たく凛とした声が紡がれた。



アーサー(7歳)「オイお前、我が国の人間じゃないな?

名を言え。

それで大体出身地が分かる。」




(※さすがアーサー。名前で出身地を割り出すなんて相変わらずイカれてる。)





目が合った瞬間、僕の心臓が跳ねる。


別に返答に迷っているわけではないのに、言葉が喉の奥に引っかかってうまく話せない。




エイト(7歳)「え、えっと.........ぼ、僕は........エ、エイ.........」





アーサー(7歳)「エイトだな。

その名前、その言語、その訛り。

プエルグラトゥス王国北部のエルム村か。

ここら辺は魔物が多い。

ついて来い、村まで送ってやる。」




(※だからなんで分かるんだよ。怖ぇよ。

訛りって......ほとんど喋ってないのに.......)




その後、僕は無事に村に着いた。


僕を助けてくれたその少年は「木の実だけでは栄養に偏りが出るだろう」と言い、魔物を数匹血抜きして村まで運んでくれた。


一見すると僕と同じくらいで体も華奢に見えるが、魔物を持つ腕には筋肉が浮かび上がって見えてとても逞しかった。


エルム村では長年魔物を狩ることができず、王都から肉を買うしかなかったため久しぶりの肉に村の人たちは大喜び。




その後はなぜか異国の屈強な狩人達が時々魔物の肉を持ってきてくれたり、村の男たちに戦い方を教えたりしている。


僕も混ざろうと思ったが..........どうやら僕には難しかったようだ。




だが、それ以降僕には夢ができた。


そう、冒険者になることだ。


いつかきっとあの人のように強くなって、村の人たちの助けになりたい。







ーーーーーーーーーあの日から、ずっと君は僕の英雄。


たとえ嫌われようと、酷い仕打ちをされようと、僕はきっと、君のことだけは嫌いにはなれない。


君の剣が、君の強さが僕の人生を変えてくれた。


僕を導いてくれた。


幼少の時に出会った天使のような君の姿は、今も僕の脳裏に焼きついている。





(※..................................ちょっとキモいのはできれば我慢していただければ幸いです。)







































































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