第二十六話 オフィーリアの初恋2
レオンハルト「な......オ、オフィーリアが........カストルの......」
オーレリアン「カストル”殿下”じゃ!!馬鹿たれ!!」
ーーーーーゴンッ!!
いい拳だ。
流石聖剣に選ばれし勇者の末裔。
威力のみならずスピードも凄まじい。
そしてレオンハルトの頭には大きなタンコブが出来た。
アーサー「あれは6年前だったか......。
大して交流のなかったオルセリア家が突然我が国を訪問したのよ。
その時、オフィーリア嬢が我が兄カストルを見て顔を赤らめておったのだ。
後から聞いてみれば、オフィーリア嬢がどうしても我が国を訪問したいとごねたらしいのだ。
我ら兄弟はみんなオフィーリア嬢の想いに気づいておるのだが、カストル兄上は恋愛に疎くてな........中々上手くいかないのだ。
だがカストル兄上には言うなよ?
こういうのは勝手に伝えるものではないからな。」
お前も人の事言えないぞ?
っていうか、そこは気づくんだなお前。
ーーーーーーーーー
オフィーリアがカストルに初めて出会ったのは10年前。
オフィーリアが6歳、カストルが8歳だった時である。
”スタンピード”が起こった。
魔素が暴走し、大幅に強くなったモンスターがダンジョンの外を襲撃するというものだった。
その日は様々な国の王族や貴族が集まる大きなパーティが開かれており、魔物の襲撃に恐怖したオフィーリアは身動きが取れなくなってしまった。
彼女の両親は彼女を助けようとするも、完全に混乱しきった貴族たちの波に呑み込まれ、離れ離れになってしまった。
目の前には、黒い化け物。
身長はセレスティアの2倍はある。
瞳は赤く、禍々しい瘴気を纏っている。
「グルルルル.....」と低い音が鳴り響き、針のように鋭く木刀のように太い牙の先端から粘性のあるヨダレが滴り落ちる。
それが数匹ーーーーいや、数十匹はいる。
オフィーリアは恐怖で動けなかった。
サファイアのように輝く藍色の瞳からは大粒の涙がボロボロ流れ、手足はガクガク震えている。
後ろに手を伸ばしながら、オフィーリアは震える声で助けを求めた。
オフィーリア(6歳)「い.....いや.......!!た、助けっ......助けてっ........!!」
だが、その声はあまりに弱々しく、あまりに小さかった。
オフィーリアの声は誰の耳に届くこともなく、会場に虚しく消えた。
遠ざかっていく人々の声が聞こえる。
もう、誰の姿も見えない。
あぁ......もうダメなんだ.....
助からないんだ.....
そう悟った瞬間ーーーーーーーーーオフィーリアの瞳から、光が消えた。
遠くから雄叫びが聞こえる。
それは地面を揺らすほどの足音と共にオフィーリアへと迫り来る。
魔物の牙がオフィーリアの背中に触れるーーーーーーーその瞬間。
カストル(8歳)「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
ーーーーーーーーーーガガガガガガガッ!!!
突如、激しい轟音と共に、魔物共の体が宙を浮くほど凄まじい旋風が巻き起こった。
目を開けると、魔物達は首から上が綺麗に無くなった状態で斃れていた。
呆然と顔を上げると、そこには1人の男が立っていた。
全てを闇に染め上げるような深く暗い濡れ羽色の髪は、全体的にベリーショートで、夏の快晴のような爽やかな印象を醸し出している(※諸説あり)。
だが、襟足は膝に届くほど長く、鴉の羽ように艶やかで、どこか天上人のような神聖さすら感じさせる(※乙女フィルターだねぇ)。
燃え盛る炎のように鮮烈な朱色の瞳は自信に満ち溢れ、太陽を思わせる眩い光を湛えている(※諸説あり)。
身長が高く筋骨隆々としていて、自分より10は歳が上に見えて頼もしい(※これはガチ)。
その瞳は私を見下ろしているようで、私を映してはいない。
その朱の双眸に映っていたのはーーーー眩い光を湛える深緋色の双眸だった。
振り返ると、そこには天使がいた(※まぁ...天使みたいな見た目ではある)。
朱色の瞳の男の子と同じ色の漆黒の髪は、まるで羽毛のように細く柔らかく、風に吹かれてふわふわと揺蕩う様はまさに天使の両翼の如く。
日に当たって頭頂部が丸く光り、まるで頭上に天使の輪っかがついているかのよう。
肌は雪のように白いが頬だけがじんわりと淡い薔薇色に染まっており、まるで透き通った水のように透明感があって絹のように滑らかである。
丸くぷっくりした頬は、動く度にまるでゼリーのようにぷるんと震える。
深緋色の瞳はまるで中で無数の星が瞬いているようにキラキラと輝き、涙が滲んでうるうると潤っている。
アーサー(4歳)「ずるいぞっ!!
おれも”もんすたー”たおしたかったのだっ!!
あにじゃばっかりずるいのだっ!!」
小鳥の囀りのように可愛らしい声で怒りながら小さい手足で一生懸命地団駄を踏むアーサーは、普通に見たら天使そのものだろう。
だがーーーーーオフィーリアは恋をすると盲目になるタイプだった。
オフィーリア(6歳)(な、何この子.....!?
いきなり割って入ってきて偉そうに!!〘 ※4歳児だぞ?〙
どうせこの人が助けに来てくれなかったら殺されてたくせに!!〘 ※一族最強の男〙
感謝すらせずいきなり文句を言うなんて失礼にも程があるわ!!)
(※そもそもアーサーはカストルと同時に移動してきたのでカストルに庇われたわけではない。)
盲目だねぇ。
だが、無論カストルがアーサーに怒る様子はない。
カストルがアーサーに近づいて、すっごくだらしない顔でアーサーの頭を撫でた。
カストル(8歳)「済まんなぁアーサー。
次は絶対アーサーに戦わせてやるからな~?」
そう言いながらカストルはアーサーの頭を撫でる。
鼻の下が伸びてるね~。
そう、カストルは兄馬鹿である。
アーサー(4歳)「ぜったいだぞっ!!
またぬけがけしたらゆるさないんだからなっ!!」
そう言ってアーサーは頬を膨らませてカストルを見上げる。
その瞳はカストルを睨みつけてはいるものの、この頃は幼かった故に威圧感は全くない。
この頃のアーサーは天使のように可愛らしかった。
だがオフィーリアはそれ以上に、カストルに惹かれていた。
死の間際に現れて、自分を救ってくれた英雄。
だが、たとえ幼子に滅茶苦茶な文句を言われようと、まるで実の兄のように(※実の兄です)幼子を優しくあやす心の広さ。
あの慈愛に満ちた瞳(※ただの兄馬鹿の目)が、
髪をふわっと撫でる優しい手つき(※実際は割と乱暴にぐしゃぐしゃ撫でてる手つき)が、
自分に向けられたら。
それを想像し、オフィーリアは胸がキュッと締め付けられる感覚を覚えた。
...........血の繋がった兄弟だよ?
生まれた時から戦闘民族だとわかる見た目の男児しか産まれぬユースティティア皇族に初めて突然変異が生まれたからね。
普通に甘やかされてんだよね、アーサーって。
(※オフィーリア視点では)物語に出てくる勇者カイゼルのようにカッコいいカストルに、オフィーリアは見惚れてしまった。
しばらくカストルの横顔に魅入っていると、ふと視線を感じた。
オフィーリアが視線を向けると、アーサーがキラキラ輝く瞳でオフィーリアの顔をじっと見つめていた。
カストル(8歳)「どうした?アーサーよ。あの女子の顔に何かついておるのか?」
カストルが不思議そうに首を傾げると、アーサーがカストルを振り返る。
そして、にまにました顔をした。
アーサー(4歳)「あにじゃ、”もてもて”なのだっ!
うらやましいのだっ!」
可愛いなオイ。
カストルはオフィーリアを見て、何か納得したようにクスッと笑った。
カストル(8歳)「あぁ.....なるほど。
違うぞ、アーサーよ。
普通の人間はな、あれほど大きい獣に襲われれば凄まじい恐怖を覚えるものなのだ。
いきなり魔物が死んだ故、状況を理解できず呆けておるのだろう。」
惜しいんだよなぁ!!
その8歳児とは思えない頭脳を他に活かせ!!
それを聞き、アーサーは不満そうにぷくっと頬を膨らませる。
またカストルをメロメロにするような表情を......
アーサー(4歳)「あにじゃのわからずやっ!!」
ぷいっと顔を背ける。
だが、淡いローズピンクの頬がまるで桃のように丸くふっくらとしているので、カストルはアーサーの頬をつつきながらこれまた酷くだらしない顔でデレデレしていた。
戦闘民族の面影すら見えない。
オフィーリア視点ではこれが聖母マリアの如き慈愛に満ちた英雄の顔に見えてんだよなぁ.......
恋って恐ろしい。
そうこうしていると、カストルがオフィーリアに歩み寄り、手を差し伸べる。
8歳児とは思えぬ逞しい右腕にはアーサーが抱かれていた。
カストル(8歳)「騒がしくてすまんな、立てるか?」
オフィーリアはポカンと見上げたあと、おずおずとカストルの手を握る。
オフィーリア(6歳)「え......あの.........あ、ありがとうございます........!」
カストル(8歳)「俺はカストル。
こっちは弟のアーサーだ。
お前は?」
オフィーリアが口を挟む前にアーサーが口を開く。
アーサー(4歳)「かみのつや、はだのじょうたいからして、
おそらく”きぞく”のなかでもえらそうなやつのむすめっぽいのだ!!
こきゅうおんのたかさ、てあしのきょどうをみるに、ねんれいは6さい。
”しるゔぇーる”の”あいりす”か、
”おるせりあ”の”おふぃーりあ”の
どちらかだな!」
4歳児とは思えぬ洞察力と推理力。
やっぱりコイツはおかしい。
カストル(8歳)「シルヴェール公爵家のアイリス嬢は瞳が空色.........だがこの娘は暗い藍色だ。
となると、オルセリア公爵家のオフィーリア嬢だな!!
すごいなアーサー!
お手柄だ!!」
お前もおかしい。
ドヤ顔なアーサーを撫でる時の顔は相変わらず酷い。
アーサー(4歳)「あたりまえだっ!!
おれはもう”おにいちゃん”なんだからなっ!!
もうすぐ5さいになるおとなの”だんせい”なのだっ!」
良かった、ドヤ顔は4歳児クオリティだった。
色々酷いが、これがオフィーリアとカストルの出会いだった。
作者です!
色々酷い(笑)2人の出会い!
オフィーリア過去編はまだまだ続く!
次回!!「第二十七話 オフィーリアの初恋3」よろしくお願いします!!




