第二十一話 舞踏会編6
ーーーーシャンデリアが落下し、地面で割れる。
その衝撃で地面が割れる。
月夜の暗闇の中、相対する二人。
突然の招かれざる客の登場に、貴族達は阿鼻叫喚としながら逃げ去っていく。
その最中、深緋の双眸を持つ影が剣を納め、ゆっくり歩いて二階席へ戻った。
会場は騒然とし、恐怖と混沌が空気を満たした。
そう、魔神がやって来たのだ。
かつて勇者カイゼルですら傷一つつけられず圧倒されたーーーーーあの魔神が。
ロドリックとセレスティアが剣を抜き、魔神の前に立ちはだかる。
セレスティア「お父様.........奴らはきっと.........」
ロドリック「あぁ、アイリス嬢が狙いだろう。我らで時間を稼ぐぞ!!」
ロドリックの声が僅かに空気を揺らす。
エイトはアイリスの手を引いた。
エイト「アイリスさん!!逃げましょう!!」
ジャック「おっと、そうはいかないぜ。」
ーーーーヴンッ
突如、透明な防壁がアイリス達の前に立ちはだかった。
エイト「クッ.......!!」
アイリス「エ、エイトさん.........!」
アイリスの声は震えていた。
手は小刻みに震え、顔色は青白い。
大きい空色の瞳は涙で僅かに歪んでいる。
エイトはアイリスの手をグッと掴み、こう言った。
エイト「ーーーーー大丈夫です。アイリスさんは僕が守ります!」
アイリスは目を見開いた。
頬が薄桃色に染まり、安堵の表情を浮かべる。
アイリス「ーーーーありがとうございます........!
私も.......私もエイトさんを守りますからッ.......!」
誰もが騒ぎ立て、それぞれ動く中、
ーーーーー微動だにしない五つの影があった。
彼らは大階段の正面にある、仰々しい玉座に重々しく鎮座していた。
どこまでも昏く深い漆黒の髪が、闇夜に紛れる。
その瞳には、恐怖も、焦燥も、あるいは喜びも。
何一つ映らない。
それなのに、獣のように鋭い眼光を孕んでいる。
魔神が来たというのに、眉ひとつ動かさずそこに座っている。
安全な場所に逃げることもせず、しかし剣を抜いて戦う素振りも見せない。
ただ、魔神達を見定めるかのように、会場をじっと見つめるだけだった。
だと言うのにーーーーーーどちらが魔神か分からない。
そう思わせられるほどの威圧感を放っていた。
皇帝ダリオスのすぐ横に座るアーサーは、頬杖をついている。
魔神達を見る目には、恐怖どころか、鐚一文の関心すら映らない。
その瞳には一切の光はなく、藍色の瞳孔が漆黒に見えるほど昏い。
それは、殺意や悪意からではない。
ただ、純然たる無関心から来るものだった。
なんの感情も滲んでいないのに、魔神達は極寒の北風が背中を撫でるような空寒い感覚を覚える。
退屈そうであるにもかかわらず、その瞳には全てを凍てつかせるような冷徹さと、全てを切り裂く刃の如き鋭さが見えた。
ただ見つめられているだけで、神すらも滅ぼす災厄が目の前にいるかのような途方もない恐怖と絶望が魔神達を襲った。
両者、動かない。
ジャック「オ、オイ.......なぜ動かない!?
魔神......それもただの魔神ではないんだぞ!!」
ジャックが叫ぶ。
だが、誰も何も言わない。
ジャック「ま......まあいい.........ザルヴァード!!
奴らを玉座から引き摺り落とせ!!!」
ビュンッ!!!
黒い霧が広がり、空気を満たすーーーーーーーーその直前。
ゴォッ!!
突如、黒い霧が消え失せた。
刹那、太陽の如き眩い黄金の光が会場全体を包み込む。
もう夜だと言うのに、舞踏会会場だけが真昼のように明るい光で満たされていた。
それを纏うのは、皇太子アーサー唯一人。
アーサーは剣を抜くことすらなかった。
ただ、少しだけ臨戦態勢に入ろうとしただけだった。
ただそれだけで、魔神は跡形もなく消滅した。
ジャック「な.....なんだ.......何が起こった!?」
ジャックは叫ぶ。
アーサーは相変わらずつまらなそうに魔神を見るだけだった。
ジャック「コ、コイツらは“深紅の天秤”全メンバーの命と引き換えに召喚したーーーーーー上位魔神だぞ!?!?
今までこの世に顕現した魔神どもとは格が違う!!
その内一体は、魔力が豊富だった人間がコアになってる!!
勇者どころか..........お前達ユースティティア皇族ですら無傷では済まないぞ!!!」
その声には焦燥と、僅かな恐怖が滲む。
額には汗が滲み、大きく見開いためには先ほどの自信は欠片も見えない。
その様はまるで、大人に対して自分の力を大きく見せようとする童のようだった。
アーサーは何も言わない。
周囲は静寂に包まれ、ジャックの荒々しい息しか聞こえなくなった。
しばらくした後、アーサーは静かに口を開く。
その声は低く、鋭く、そして冷たく響く。
特別大きいというわけではないにも拘らず会場全体の空気を重々しく揺らした。
アーサー「当然のことよ。
我らは戦神へファイストスの系譜なり。
自力で人界に出ることすらできぬ脆弱な魔神如きが、我が神の威光に敵うはずも無し。」
..........................................ごめん。
本当に誰?
それはさておき、アーサーが纏っている黄金の光は“神力”である。
神しか扱うことが許されぬ力であり、その力の効果は神によって異なる。
だがしかし、戦神へファイストスは戦の神であった。
そのため、戦神へファイストスの神力はアーサー達に敵と戦う力をもたらし、格下の場合はこうやって神力を解放するだけで塵と化す。
....................そう。
上位魔神は、アーサーより格下なのである。
ジャック「ば、馬鹿な..........!
お、お前らが前に倒した魔神は、全て下位だったはずじゃ........!!」
ダリオス「おぉ、よく知っておるな。」
その声は、不自然なほど平然としていた。
まるで友人に話すかのように平然と、しかしなんの感情も込められていない声で続ける。
ダリオス「その前に、我が子アーサーが即死魔術を開発したのよ。
その実験のため、アーサーは魔界に赴いておったのじゃ。
確か、その時実験台になったのが上位魔神じゃったと思うぞ。」
ジャックの目から光が消える。
ジャック「そ、んな........馬鹿なッ.............!!」
引き攣れた声でジャックは呟いた。
その瞳は恐怖一色に染まる。
ダリオス「安心せよ。
此奴らに被害が出ぬ限り我らは手を出さん。
そもそもここはユースティティアの地ではない。
であれば、ロドリックらに任せるのが道理じゃろう。」
アーサー「別に魔神に頼るだけでなくお前自身の魔族としての力も使って良かったんだけどな。」
恐怖で頭がいっぱいで、ダリオスの言葉に耳を傾ける余裕が無かったのか。
「此奴らに被害が出ぬ限り」という言葉はジャックの頭を摺り抜けてしまった。
何を勘違いしたのか、ジャックの顔には生気が戻っていく。
ジャック「ハーハッハッハ!!!
ユースティティア皇族に見捨てられるとは不運だったなァ!!
ーーーーーーーーさぁ、地獄の始まりだッ!!!」
お前らのな。
うーん、やはり結果がなんとなく見えてしまう魔神戦........
まぁまぁ、エイト達の成長をお楽しみください!
次回!!「第二十二話 舞踏会編7」よろしくお願いします!!




