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閑話 マッスル皇帝国への恐怖の歴史

フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国。


それは、世界最強の軍事大国である。


魔素が非常に濃い地帯にある故に、採れる魔物の素材は非常に上質だった。


農業にも向いた土地柄で、近くの鉱山からはオリハルコンや白金などの非常に希少な金属やダイヤモンドやルビーなどの宝石がザクザク掘れた。


更に鍛治職人や魔導研究者、科学者などの優秀な技術者が豊富であるが故に、世界随一の技術力を誇る。


故に、フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国は他国から侵略されることが非常に多かった。


しかし、皇帝国に軍事侵攻した全ての国家は、例外なく文明ごと滅亡を迎えた。


皇帝国軍は被害者ゼロ、更に敵軍は帝国領に踏み込めず全て殺された。


そう、いくら攻め込もうと、帝国には傷一つつかず、相手の国だけが滅亡の末路を辿った。


長年、その強さの理由は謎のまま時は流れ、魔王アポカリプスの時代に突入することになる。






そして当時勇者であった英雄カイゼルの証言によって、帝国の強さの秘密が明るみになった。


サルムンド王国の存亡存続と引き換えに得たその秘密はーーーーーあまりにも理不尽すぎるものだった。


そう、それは勇者カイゼルが聖剣を失った時のこと。


サルムンド王国を滅亡に誘った魔神と戦うも、聖剣が壊れ、絶望に打ちひしがれた。





ーーーーその瞬間。


勇者の目に、一瞬だけ黒い稲妻が走り抜ける。



ーーーーーーッダァァァァァン!!!


魔神は弾き飛ばされ、壁に強く激突した。



勇者カイゼルの前に、一人の青年の姿が映る。


髪型は、前後左右短く切り揃えられているが襟足だけが長い。


髪色はユースティティア皇族しか持たぬ、全てを飲み込む闇の如き漆黒で、低くまとめられた襟足は絹のように滑らかで風に揺れてゆらゆら揺れる。


太陽の如き眩い光を湛える黄金の瞳は、目に焼きつくような鮮烈な光を湛えるが、瞳の奥には氷河のような冷たさと森の奥にいるかのような静けさが同居している。


その瞳は自信に満ちており、魔神を前にしようと欠片も恐怖の色を宿さない。


肌は日焼けして浅黒く、鼻筋がスッと通った精悍な顔立ちをしている。


ただそこに立っているだけで、絶対的な守護者が来たかのような安心感と底知れない脅威を相手にしているかのような恐怖が、同時にカイゼルを襲う。


彼の名はアレキサンダー・フォルティトゥード・ユースティティア。


フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国第462代皇帝である。


皇帝は笑っていた。


子供のように、無邪気な笑顔で。


とても魔神を相手にしているとは思えないほどに。



魔神が立つ。


そして皇帝が消えた。


次の瞬間ーーーー




ドガガガガガガガガガガガガガッ!!!


凄まじい轟音と共に、黒い閃光が幾重にも重なって魔人の周囲に現れる。


直後、玉座の間全体を支配するほどの巨大な竜巻によって魔人の体が包まれる。


カイゼルは思わず目を瞑った。


カイゼルが目を開けると、魔人の体に無数の切創(せっそう)が浮かび上がっていた。


聖剣を持ってしても傷一つつけられなかった、あの魔人の体に。



魔神は怒り狂い、稲妻の如き速さで皇帝に突進した。


その刹那ーーーーー




ーーーーゴトッ


魔人の顔が、いきなり首から落ちた。


カイゼルはしばらく呆然とした。


皇帝が魔神の首を斬り落とした、そう気づくまで数十秒かかった。


カイゼルは目を見開いた。


動きを理解することすら許されぬほどの、その一瞬。


音も風もなく皇帝は魔神の首を斬り落とした。


単純に速いだけでも強いだけでもない。


剣技そのものが異常に完成されていたのだ。


まるで剣に人生を捧げ、80年ほど修行を積んだ達人の如く。


美しく洗練された、無駄のない剣技だった。





その後、カイゼルはここぞとばかりに色々質問した。



カイゼル(25歳)『ちょ、今のどうやって倒したんです?』


アレキサンダー(20歳)『..........?

どうやってって..........普通に倒しただけだぞ?

こう.........スパって。』



カイゼル(25歳)『魔王より強いんですよ!?

聖剣も折った相手ですよ!?!?!?』




アレキサンダー(20歳)『?』




皇帝は、ずっとキョトンとしていた。


まるで、自分のやっていることがごく当たり前の常識だと言うかのように。


何がおかしいのか欠片もわからないとでも言うかのように。


そう、フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の強さにはタネも仕掛けもない。


ただ、国民も皇族も異常なまでに強かった。


ただそれだけのこと。


魔神すらも屠る戦闘民族の発見は、世界を恐怖で包み込んだ。


そう、世界最大の脅威である魔神ですら容易く葬られたのだ。


別に恐ろしいわけではない。


凶暴なわけでもない。


むしろ皇帝は気さくで親切な人だった。


だがーーーーーー敵に回せば、最悪人類が滅ぶやもしれない。


その事実が、世界に激震をもたらし、今では帝国を侵略する国はただの一つも無い。





そして約200年後ーーーーー今から14年前フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国は、ある問題を抱えていた。



そう、



ーーーーーーーー観光客が来なァァァァァァァァい!!


当然の結果だね、来るわけ無いね。


魔神ですら止められない化け物が蔓延る巣窟に誰が進んで行きたがるの?




ダリオス『うぅむ.......参ったな...........』



アーサー(1歳)『ぱぁぱ.......?』



待て。


何故会議に赤ん坊を連れている?


いくら我が子が可愛いからってお前それは..........




ギルバート『このままでは我が国の観光業が潰れてしまう.........』




ツッコんでーーーーー?


会議に赤ん坊がいることになんか言ってーーーーーー!?


ちなみにコイツはギルバート。


宰相である。




アルト『もしかして、我が国.......怖がられてるのでは?』



アーサー(1歳)『ぱぁぱ.......わがくに....こわい?』



アーサーがダリオスを見つめる。


漆黒の髪は細くて柔らかく、動くたびにふわっと揺れる。


肌は雪のように白く滑らかで、頬はまるでマシュマロのように柔らかくてぷくぷくしている。


手足は短く、全体的にふくよかで丸いフォルムをしている。


長くクルンと上にカールしている黒いまつ毛に縁取られた深緋色の瞳は大きくてくりくりしており、水分を多く含んでいる故にうるうると揺れている。


そう、要は天使のように可愛らしいのだ。



故にーーーーーー




ダリオス『そんなことないでちゅよー。

アーサーちゃんが怖がるようなことはないからねー?』




めちゃくちゃ甘やかされて育った。





ダリオス『我が国のイメージを払拭するのだ!!』



全員『『ははっ!!』』



そこからは話が早かった。


黒い城壁を白く塗り、


皇帝も黒から白の甲冑に着替え.........


ってオイ!!甲冑から卒業しろよ!!


更に暗雲立ち込める天気を口から魔力を放出して無理やり晴らした。


うん、余計ビビられるだろうね。


ちなみに濃すぎる魔素は、アーサーが魔術を使いまくってどうにか消費した。


だから余計ビビられるって。




だが、国中の怖いところ探しの末、臣下があるものを見つけた。



そう、封印された魔神たちだった。


その数...........97柱。



ダリオス『..........コレだな、我が国が怖がられてる原因。』


ギルバート『間違い無いですね.......薄暗い場所、湿度の高さ、悪魔を象った大量のオブジェ......』


アルト『おまけに中央の夥しい札が貼られたオブジェの周囲に禍々しいオーラが渦巻いている。

こんなものが我が国に100近くも........他国の人間が寄りつかないわけです。』



ギルバート『魔神と言えば、かつてサルムンド王国を滅ぼし、勇者ですらても足も出なかった伝説の脅威となってますからね。』




いや.........そうなんだけどさぁ.........もっとあるだろ......


兎にも角にも、魔神討伐作戦が始まった。


ーーーーただし子連れである。




ガウェイン(8歳)『セァァァァァァァァァァ!!!』


マルクス(5歳)『ヤァァァァァァァァァァァ!!!』


カストル(3歳)『ハァァァァァァァァァァァ!!!』




ガキキキキキキキキキッ!!!


鋭い轟音が連続して鳴り響く。


その音は大地を揺らし、直後、突風が巻き起こった。


無数の銀閃が光り、幾重にも重なって魔神を襲う。


だがーーーーかすり傷だった。



ガウェイン(8歳)『ハーハッハッハ!!!面白い!!』


マルクス(5歳)『この俺の剣を受けてかすり傷で済むとは.......見事なり!!!』


カストル(3歳)『それでこそ我らユースティティアの血が騒ぐと言うもの!!!』



..............変わらないねぇ.........



突如、3人が消えたと共に地面が大きく隆起する。


土が舞い、周囲を覆い尽くす。


だがーーーーーー3人の幼子が突風を伴って動き回り、土の霧を晴らしていく。


マルクス・カストルが消える。




ーーーーーードガガガガガガガガガガガガガッ!!!


鋭く短い轟音が集合し、連続音となって空気を切り裂く。


魔神が咆哮し、攻撃しようとした瞬間ーーー




ガウェイン(8歳)『ゼァァァァァァァァァァァァァ!!!!』


幼子が出す音とは思えぬ野太い雄叫びが、鋭く、そして重く響く。


直後、魔神は砂となって消えた。



こんなことが続いたせいなのか。


遂に、アーサーを狙う魔神が出てきた。



三兄弟をすり抜け、まっすぐ突っ込む。


そしてーーーー




アーサー(1歳)『だーーーーーーーーー!!!』





バリバリバリッ!!!


魔神は黒焦げになった。




別に、魔神は弱いわけではない。


むしろマッスル皇帝国は魔素が濃い場所にあるので、封印によって弱った魔神が全盛期に戻るのに時間はかからない。


そして三兄弟は馬鹿正直に魔神が全盛期になるまで待っている。


ただ、彼らがそれ以上に強かっただけである。


ダリオスなんて........



魔神『ハーハッハッハ!!今こそ世界は闇に包まれーーーーーー』




ダリオス『フンッ!!』


ーーーーーーーザンッ!!



コレである。


魔神は力を取り戻した瞬間、首と胴が真っ二つになってしまった。




そうして、100柱いた封印された魔神は、今ではたった3柱しか残っていない。


だが、それもたまたまマッスル皇帝国から離れた場所にあった故に見逃されただけである.




ちなみにマッスル皇帝国の観光業は.........一応戻ったよ。


まぁマッスル皇帝国を恐れて各国の精鋭たちがゾロゾロやって来ただけですけどね。

そう、皇帝を刺激しないよう、私服の精鋭たちが、涙ながらに笑顔を作ってね。

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