第十七話 舞踏会編2
シルヴェール家別館の裏庭にて
ルシウス「......今日は来ませんね、セレスティア様。」
訓練の合間の休憩中、汗を拭うアーサーにルシウスが歩み寄った。
アーサーは水をガブ飲みした後、コップを置く。
アーサー「アーハッハッハ!!そんな日もあるだろう!!
今日は別の散歩ルートだったのだ!!」
お前.....少しは気にしろよ.......
ルシウスはそんなアーサーに呆れ、ため息をつく。
ルシウス「兄上.....少しは気にかけてあげてください.......」
アーサー「.......?何をだ?」
”何をだ?”じゃねぇよ!!
もう一度言うが、少しは気にしろ!!
ルシウス「もう.....セレスティア様のことですよ!
ここ最近毎日来てるのに、今日だけ来てないじゃないですか!」
そうだそうだ!!
アーサー「さっきも言っただろ~。
セレスティアにだって気分ってものがあるさ!」
うーん....もはや芸術だなこれは......
そんな鈍感主人公アーサーだったが、何かを感じ取ったのか、
別館の反対側にある森を見つめていた。
ルシウス「あ、兄上?何かあるのですか?」
困惑するルシウスをよそに、アーサーは不敵な笑みを浮かべた。
シリアスになるとカッコイイんだよな.....
アーサー「この俺に気取られず近づくとは見事なり。
先程まで全然気づかなかったぞ。」
その声は低く、そして鋭かった。
アーサーの声で空気が重く揺れる。
穏やかな風とは裏腹に、ピリピリとした緊迫感が流れる。
しばらく沈黙が流れた後ーーーギデオンが森から姿を現した。
やっぱりお前かよ!!
毎回毎回驚かせやがって!!
ギデオン「アーサー殿下こそお見事です。
まさか姿を見せる前に勘付かれるとは.......お見逸れ致しました。」
ルシウス「いや.......そもそもなんで毎回気配を消して近づくんですか!?
普通に近づけばいいのでは!?」
ルシウス、お前は正しい。
アーサー「ところで何用だ?」
アーサーが問いかける。
ギデオンは頭を上げた。
ギデオン「セレスティア様がご実家に帰られたご様子です。」
そう言った瞬間、空気が変わった。
両者に沈黙が流れる。
その静寂を切り裂いたのはーーーー
アーサー「..........?何故俺に.........?」
鈍感主人公だった。
”何故”じゃねぇよ!!
お前以外の誰に言うんだよ!!
アーサー「ふむ.....しかしセレスティアの生家か..........面白そうだな!!
よしギデオン!!
馬車を出せ!!」
ギデオン「既にご用意しております。」
仕事早いなオイ。
ルシウス「僕も行かせてください!!
兄上だけには行かせられません!!」
まぁそうですよね。
ちなみにダリオス皇帝は......息子達と元気に戦ってるよ!
親子だね!
ーーーーーーーーーー
ヴァレンティア公爵家。
五大公爵家が一つであり、代々プエルグラトゥス王国の騎士団長や、優れた剣士を排出してきた家系である。
セレスティアはそのヴァレンティア公爵家の次女として生を受けた。
他には姉が一人、妹が二人、兄が3人いる。
代々「正義」と「武勇」を掲げるヴァレンティア家は、悪を断ち、弱きを救う、所謂騎士道精神といわれる考えを良しとする家である。
セレスティアはその思想を色濃く受け継ぎ、ヴァレンティア家の歴史の中で歴代最強とも言える才能を持って生まれ、弛まぬ鍛錬の末に強くなっていった。
それ故に、最も最初に生を受けた男性が後継となる風向きが強いプエルグラトゥス王国において、セレスティアは女性でありながらヴァレンティア家の後継者候補の一人となった。
故にセレスティアは、長兄に忌み嫌われた。
ヴァレンティア家の長男として生を受け、
ヴァレンティア家に誇りを持ち、
いずれヴァレンティア家を引き継ぐ者として弛まぬ努力を続けて来たからだろう。
あっという間に自分を追い越した妹を、幼い彼は心底憎んだ。
だが、セレスティアはそんな兄にも天使のように優しかった。
兄が剣を振っていれば差し入れを持っていったり、兄が剣術大会に出ていれば必ず応援に向かっていた。
無邪気に兄を慕い、兄を見つければ可愛らしい声で“お兄様”と呼び、そして兄の後をついていくような妹だった。
そう、セレスティアは兄が大好きだった。
しかし、彼は少々思い込みが激しい部分があった。
セレスティアの言葉を言葉通りに受け取らず、常に裏を探った。
そしてセレスティアを「薄汚い悪女」と罵るようになってしまった。
兄に認められるため、そしてまた昔の優しい兄に戻ってもらうため、セレスティアは更に自分に厳しい鍛錬を課した。
だが、余計に兄との溝は深まるばかりだった。
そんなある日。
セレスティアは偶然夜中に起きた。
そして、両親の会話が聞こえてしまう。
真実を知ったセレスティアは絶望した。
自分の才能が、そして自分の努力が兄を苦しめてしまっていた。
セレスティアは、兄の苦しみに気づかなかった自らを責めた。
それ以来、兄や家族の前ではずっと弱い振りをし続けた。
しかし今から5年ほど前、プエルグラトゥス王国で開かれた剣術大会にて彼女の人生は変わることになる。
剣術大会は子供部門と大人部門の二つがあった。
毎年各国の王族や皇族が招かれるため、ここで負ければ家の名に傷がつく可能性があるが、逆に勝てば家に箔がつく。
そのため参加者のほとんどは軍事に携わる貴族家の令息令嬢達だった。
一次予選ーーーセレスティアの相手は明らかに身なりのいい子供だった。
手には剣ダコの一つもなく、髪には無造作に見えて艶があり、乱れがない。
剣も派手で繊細な装飾が施されており、一見ただの儀礼用の剣に見えた。
肌は雪のように白く、日焼けの跡が全くない。
“なんだ、ただの素人か。”
当時のセレスティアはそう思った。
レフェリー『ーーーーーはじめ!!』
セレスティアは剣を構え、地面を蹴る。
ーーーーーだが。
ーーーードゴォッ!!!
何をされたか、セレスティアは分からなかった。
地面を蹴り、刺突攻撃を放った瞬間、突然少年が視界から消えた。
次の瞬間、気づけばセレスティアは壁まで吹っ飛ばされ、壁がめり込むほど強く背中を打ち付けられた。
すると、賓客席から声が聞こえた。
ルシウス(7歳)『兄上ーーーーーーーー!?何故.......何故大会に参加しているのですか!?!?』
アーサー(10歳)『だって......見てるだけなんてつまらないのだ!!!俺だって戦いたい!!!』
そう、彼はフォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の賓客席から抜け出して大会に参加していた皇子だった。
ダリオス『ハーハッハッハ!!!流石は俺の息子だ!!この後の大人部門も楽しみにしておるぞ!!』
アーサー(10歳)『へへっ!絶対優勝するから褒めてね!!父上!!!』
ガウェイン(17歳)『ハッハッハ!!!それでこそユースティティアの男だ!!!』
ルシウス(7歳)『今すぐ席に戻ってくださーーーーーーーーーい!!!』
この時、セレスティアは初めて自分より強い存在に会った。
どう足掻いても動きが見えないからこそ、セレスティアは彼の剣術に魅入ってしまった。
さらに彼は自分に負けた剣士を見下すことはなく、弾けるような笑顔で健闘を讃えた。
それ以降、アーサーはセレスティアの憧れとなった。
その後、「剣を握る女は嫌だ」と元婚約者に婚約破棄されたセレスティアは家を出て冒険者となった。
そしてそこでアーサーと再会する。
変わらず無邪気で、でも自分が行き詰まった時は度々アドバイスをくれるアーサーにセレスティアは無自覚ながら惹かれるようになる。
だがーーーー冒険者業を続けるうちに、アーサーと自分の間にある絶望的なまでの才能の差を突きつけられるようになってしまった。
一週間でSランクになった冒険者と、一カ月かけてもAランク止まりの冒険者。
本来ならAランクになるのにも数年かかるため、一ヶ月でAランクになっただけでも十分異例の速さだ。
だが、それでもアーサーとの差は歴然だった。
アーサーのことを嫌っているわけではない。
だが、剣の強さへの劣等感、そして無意識のうちにあったアーサーが本当は自分を見ていないのではないかという恐怖故に、セレスティアは段々アーサーを避けるようになった。
それがセレスティアとアーサーの間にあった確執である。
そんな二人が仲直りした経緯については第五話を読んでもらおう。
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一方、セレスティアはヴァレンティア邸の居間にいた。
目の前には壮麗な男性がいた。
銀色の髪にはも乱れ一つなく、光を受けて絹糸のように輝く。
青みがかった翠色の瞳は、まるで森の中にいるような穏やかな印象を受けるものの、瞳の奥には刃を首に突きつけられるような威圧感がある。
彼の名はロドリック・エペ・ヴァレンティア。
プエルグラトゥス王国現騎士団長であり、セレスティアの父親である。
ロドリック「ーーーーーそろそろ結婚を考えたらどうだ、セレスティア。」
ロドリックは静かに問う。
セレスティアを真っ直ぐ見据える緑の双眸からは感情が見えない。
両者の間には重苦しい沈黙が流れる。
ーーーしばらくして、セレスティアが口を開いた。
セレスティア「............お父様........私にはもう、結婚など........」
俯きながらそう言うセレスティアの声は震えていた。
強く握りしめた手は、わずかに震えている。
瞳は涙によって微かに歪む。
ロドリック「...........実はな、隣国の王太子がお前を妃にと望んでいるのだ。」
それを聞いた瞬間ーーーーセレスティアの顔から色が消えた。
まるで金縛りに遭ったかのように、セレスティアは動けなくなってしまった。
頭が真っ白になるほどのショックから抜け出せぬまま、喉の奥から搾り出すように声を出す。
セレスティア「........な........んで.........どうして........」
泣きそうなセレスティアの顔を見て、ロドリックはしばらく固まった。
額には汗が滲む。
しばらく沈黙したのち、咳払いをして訂正した。
ロドリック「........無理にとは言わない。
お前が望むなら断ってもいいんだ。」
その時、扉が開く。
そこには爽やかな顔の美青年がいた。
深海を思わせる藍色の髪は絹のように滑らかで美しい。
瞳は月を思わせる柔らかな黄金で、光を受けて淡く輝く。
スッと鼻筋が通っており、肌はきめ細やかで陶器のような滑らかさを持つ。
セレスティアがだーい好きなアーサーとどっちがイケメンかって言うと........いや、やめておこう。
流石にアイツと比べたら可哀想だ。
彼の名はユリウス・エル・ローゼンブルグ。
あのマッスル皇帝国には負けるが、一応大国の王太子だ。
彼は自信に満ちた足取りで進み、そしてセレスティアの前に跪いた。
ユリウス「セレスティア嬢、俺とーーーーーーー」
ーーーーーバンッ!!
扉が勢いよく開かれる。
騎士A「旦那様ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
ロドリック「なんだ、騒々しい。」
ロドリックは低い声で言い放った。
その瞳は氷のように冷たい。
だが、騎士はそれに気づかないほど切羽詰まった様子で叫んだ。
騎士A「ーーーー緊急事態です!!
ユースティティア皇族の方がいらっしゃいました!!!」
その言葉を聞いた瞬間、ロドリックの目の色が変わる。
血の気が引き、額から滝のように汗が流れ出る。
ロドリック「ーーーーー何?」
作者です!
セレスティアの前に現れたイケメン王太子!!
しかしプロポーズらしきタイミングで乱入者が!?
次回「第十八話 舞踏会編3」よろしくお願いします!!




