第十四話 深紅の天秤
ーーーーー深紅の天秤。
世界最凶の暗殺組織。
プエルグラトゥス王国のみならず世界各国に勢力を広げている超巨大組織である。
依頼達成率100%を誇り、貴族や王族を相手にすることもある。
組織内は階級ごとに戦闘力が違うが、上位メンバーはAランク冒険者すら葬るほどの別格の強さを持つ。
.........ちなみに、皇帝国軍に送り込まれた異邦人の多くが“深紅の天秤”出身である。
そのわけは後ほど。
ラグナール「ーーーー何?失敗した?」
彼の名はラグナール。
深紅の天秤の統領にして世界最高の暗殺者。
金色の髪に真紅の瞳を持つ。
クロード「ハ、ハイ........」
リッパー「ア、アイツは化け物です!!」
ーーーーダァンッ!!
ラグナールはテーブルを叩く。
ラグナール「言い訳は不要なり。深紅の天秤四天王ともあろう者が敗走など........」
クロード「“神々の愛子”です!!予言の救世主がシルヴェール邸に現れたのです!!!」
ラグナール「....................へ?」
プエルグラトゥス王国には、古くから伝わる予言がある。
だがしかし、実はその予言には、一部の王侯貴族しか知らない続きがある。
その内容はあまりに衝撃的すぎて、国民に混乱を招かぬように国家機密となっている。
「武の国が栄えし時、英雄の国に癒しの巫女現れん。
空色の瞳の少女は万物を癒す奇跡の力を身に宿す。
その力は傷を癒し、病を治し、呪いをも祓う奇跡となる。
世界が闇に覆われし時、巫女の光は人々を照らす大いなる光となりて地上に救いをもたらすだろう。
ーーーーーーーーされど神々の愛子が降り立つ時、巫女の使命は終わりを迎える。
枯れぬ魔力を宿す者、その刃は万物を断ち、その身は世界を守る盾となる。
神々の愛子が生まれし時、世界は救いの光で満たされるだろう。」
そう、その内容は“癒しの巫女”すらも必要なくなるほどの圧倒的な力を持つ救世主の誕生を予言していた。
当時予言を聞いた初代国王達はざわめいた。
それは予言に書いてあったある一節ーーーー「枯れぬ魔力を宿す者」だった。
そう。
それはまさに、かつて北の覇者と呼ばれ、
偉大なる大帝国を築き、
今もなお世界中から恐れられる史上最強の戦闘民族ーーーーーフォルティトゥード民族の体質を表す言葉だった。
戦神へファイストスの血族であるフォルティトゥード民族が住む場所は遥か北ーーーー魔王城のすぐ近くだった。
魔素の源とも言える魔王の近くに住んでいたこともあり、彼等は生まれた時から尋常ではない濃度の魔素に晒された。
故に、彼らは魔素を体に取り込み魔力に変換する体質に変わっていった。
そう、フォルティトゥード民族の魔力に限界はない。
その上、オーガや獣人族など身体能力に優れた種族ですら震え上がるほどの戦闘能力を持っていた。
そんな中でユースティティア皇族はへファイストス直系の子孫故に他のフォルティトゥード民族から敬われていた。
そんな全く付け入る隙のない、馬鹿げた強さを誇る帝国に救世主が生まれるというのだ。
無論、このことはディレクトゥス王家と五大公爵家のみが知る国家機密となった。
時は流れ予言が告げられてから約170年後、ユースティティア皇族に一人の皇子が生まれた。
その皇子は雪のように白い肌と、くりくりとした大きく丸い深緋色の瞳を持ち、屈強な使用人たちを骨抜きにしてしまうほどの、天使の如き愛くるしさを持つ赤子だった。
しかしーーーーそんな可愛らしい見た目とは裏腹に、赤子が持つ才能は常軌を逸していた。
プエルグラトゥス王国から呼ばれたエドマンが適正を測ったところ、その赤子は水晶が測定できる全ての適正で、“測定不能”という結果を残した。
そう、遂に“神々の愛子”が誕生したのだ。
その存在は他国を脅かすほど強力だった故に、“深紅の天秤”には暗殺依頼が殺到した。
相手がフォルティトゥード民族ということもあり、皇帝国を拠点にしていたメンバーが総がかりで、誰にも気づかれずに皇子の部屋に忍び込んだ。
辺りは静かで、誰も駆け寄る気配はない。
皇子はベッドで可愛らしい寝顔ですやすやと眠っている。
そうーーー誰の邪魔も入らず、完璧に暗殺できるはずだったのだ。
ーーーーーーー誰が想像できただろうか。
総勢2000人ほどのプロの暗殺者が、たった一人の赤ん坊に全員やられてしまうなど。
先程までベテラン暗殺者でも一瞬手を止めるほど、可愛らしい寝息を立てていた天使のような赤ん坊が、生後8ヶ月でこの世の全ての魔術の原理を理解した天才だったなど。
本当に、誰が想像できたというのだろうか。
その後、皇子の魔術で叩き起こされた皇帝ダリオスによって、皇子を襲った集団は全員捕えられた。
皇帝は笑って言っていた。
ダリオス『なぁに!!筋肉の素晴らしさを伝えてやればきっと改心するだろう!!』
そうして総勢2000人の元“深紅の天秤”メンバーは地獄のような皇帝国軍訓練に放り込まれ、今もなお解放されていない。
3年後、幼児となったその赤子は剣術でも才を見せ、皇帝国の騎士団長を打ち負かしてしまった。
ーーーその、“深紅の天秤”にとっては天災と同義である“神々の愛子”が、アイリス襲撃時に現れたというのだ。
ラグナール「た、確かなのか.........?」
襲撃者A「ーーーーそれは私の方から説明します。」
襲撃者A。
あの時アーサーを見てビビり散らかしていた“深紅の天秤”メンバーの一人である。
襲撃者A「わ、私がアイリスを庇い立てする妙な剣士を片付けようとした瞬間......後ろにいた数十人の部下が突然やられてしまったのです。
そ、そこにいた男は......深緋色の虹彩と藍色の瞳孔を持っていたのです。」
ラグナール「な、何故応援を呼ばなかったのだ!?
全員でかかればもしかしたらーーーーーーー」
クロードが重々しく口を開いた。
クロード「そ、それが........我々はやられてしまったのです。」
ラグナール「................は?」
リッパー「わ、我々はたった四人の剣士たちによって全滅させられたのです........。
..........四天王全員とその直属の配下合わせ総勢800人のうち、生き残ったのは我々二人と、たった数十人の部下達のみ。
たった......たった四人の剣士に、我々は壊滅させられてしまったのです.......!」
そう、別館を襲っていた襲撃者達はほとんど死んでしまっていたのだ。
別にアーサー達自身は皆殺しにするつもりはなく、むしろ6割方は生き残らせようとしていた。
だがしかし、アーサー達が移動する時の突風によって巻き添えを喰らって亡くなってしまった者が多かった。
ラグナール「シ、シルヴェール家にそんな屈強な剣士達が........?」
襲撃者A「ーーーー違います。」
ラグナール「ーーーーーは?」
襲撃者A「た、戦っていたのは“神々の愛子”含む、よ、四人の皇子のみ。
もう一人の皇子は剣を握っていなかったとのことです.......」
ラグナールの顔がみるみる青ざめた。
大きく目を見開き、手足がカタカタと小刻みに震え出した。
その恐怖は、かつてラグナールが自ら“神々の愛子”暗殺に赴いた時に感じた、強烈な死の予感。
10年前、プエルグラトゥス王国に来訪していた皇子の部屋に忍び込んだ時のこと。
《マジック・キャンセル》で魔術を封じ込み、無力化したはずだった。
ーーーだと言うのに、キャッキャとはしゃぎながら元気に飛び回る幼子に、ラグナールは殺されかけたのだ。
その時の皇子の言葉は今もラグナールの脳に焼き付いている。
アーサー(5さい)『ふふん、きょうのところはみのがしてやるのだ!!
だっておれ、すごいからっ!!
3さいのとき、“きしだんちょう”をたおしたんだ!!
ちちうえが、“すごい”ってほめてくれたんだぞっ!!
うらやましいだろっ!!』
「騎士団長を倒した」ーーーその言葉が、ラグナールに絶望をもたらした。
世界中から恐れられるほどの戦闘能力を誇るフォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の騎士団長を、齢わずかの子供が倒したというのだ。
その後ラグナールは全力で逃げ、一命を取り留めた。
ラグナール「.........別館に皇子達がいる以上、屋敷に襲撃を仕掛けるのはやめた方がいいだろう。」
クロード「と、とりあえず各国に散らばっているメンバーを集めてから考えた方がいいのでは?」
リッパー「集めてどうするのだ!?舞踏会にはユースティティア皇族も参加するだろう!!」
ーーーーその時、とあるメンバーが口を開いた。
ジャック「魔神の封印を解く、というのはどうだ?」
魔神。
魔王より上位の存在で、魔界に住んでいると思われる伝説上の存在。
その強さはあまりにも強大で、勇者の聖剣エクスカリバーすら叩き折る。
世界でたった二つの例外を除き、地上に現れたほぼ全ての魔神はその時代に現れた救世主によって封印されて各地に眠っている。
たった二つの例外を除いて、魔神が倒されたことはない。
その封印が今ーーーーー解き放たれようとしていた。
作者です!
追い詰められた深紅の天秤が解き放つ魔神.....その強さは一体!?
次回は過去回!!
赤い獅子の真実が遂に明かされる!!
次回!!「第十五話 赤い獅子の真実」よろしくお願いします!!




