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第十二話 クラウンタルト セレスティア編

注)セレスティア視点のアーサーの描写はただの事実です。安心して読んでください。

後、最初の「アレキサンダーの腹ペコ英雄譚」は飛ばしても内容は追えるので、本編を追いたい人は読み飛ばしてください。

ーーーーこれは遥か昔の話。


まだサルムンド王国が栄えていた時代。



アレキサンダー皇帝は魔王と戦うため魔王城に来ていた。


だが、すでに魔王は勇者に殺され倒れていた。


皇帝は深く嘆き悲しんだ。


しばらく魔王の亡骸を抱いた後、失意に暮れて魔王城を後にした。

そんな時、城門に一つの小さなタルトが落ちていた。


皇帝は、その王冠を模した小さなタルトを拾い、口に入れた。

それは滑らかなクリームや芳醇な果物が口の中で混じり合い、なんとも言えぬ素晴らしい味だったらしい。

だがしかし、タルトはあまりに小さかった。

まるで小人の食べ物であるかのような大きさのタルトでは満足できず、皇帝はお腹を空かせてしまった。



“どうしよう。

もっと食いたい。

でも食べ物がない。

でも食いたい。”


皇帝は困り果てた。

だが、しばらく進むと、皇帝の足にグチャっとした感覚があった。

それは潰れたタルトだった。


勿体ないと思ったら皇帝は時空魔術を使ってタルトを元に戻し、そして口に放り込んだ。

これもまた美味であった。



そうしてしばらく進んでタルトを食べる、そしてまた進むことを繰り返した末、皇帝はサルムンド王国の王都サルバトールに辿りついた。

王都に入ると、あれだけ人々の笑顔で満ち溢れていた街は、今では人間の死体で満ち溢れ、あれだけ笑い声で満ちていた空間ではもう何も聞こえない。


だがしかし、そんなことより皇帝は腹が減っていた。



“誰もいないのなら俺が道に落ちているタルトを食っても誰も咎めはしないだろう。”



そう思った皇帝は周囲を気にせずタルトを食べ続けた。


そして王城に入ってもタルトは落ち続けており、皇帝は喜びながらタルトを食べ続けた。


そしてある時、タルトを咀嚼していたら、どこからともなく赤子の声が聞こえて来た。

声がする方へ近づくと、そこには天使のように可愛らしい赤子が大きな口を開けて泣いていた。


皇帝は赤子を抱き、子守唄を歌った。

すると赤子は可愛らしい寝顔ですやすやと寝だした。


ーーー直後、突然雄叫びが聞こえた。



皇帝は振り返る。


そこには巨大な黒い影が悠然と佇んでいた。


強敵の来襲に、皇帝は目を輝かせて喜んだ。


そして黒い影と戯れた。



その過程で、皇帝は赤子の父親であった勇者カイゼルの命を救う。



黒い影が死んだ後、黒い影ともっと戦いたかった皇帝は少し落ち込んだ。

しかし腕の中から赤子の笑い声がしたので悲しくはなかった。


その後、皇帝が救った青年カイゼルは国を興して英雄王となり、赤子もまた父の死後、跡を継いで国王となった。



勇者を救い、サルムンド王家の血を繋いだ皇帝の偉業は後世まで語り継がれ、皇帝を王城に誘ったそのタルトは力と武勇の象徴として、代々次期皇帝となる皇子が食べる習わしができた。


終わり。


ーーーーーーー


【セレスティア視点】



ーーーークラウンタルト。

王冠の形を模した小さなタルトのことで、ここプエルグラトゥス王国では代々女性が想い人に贈ることで、初代国王夫妻のように幸せになれると言われている。


けど、本当は違う。

初代国王は亡き恋人ヴィータを生涯想い続け、プエルグラトゥス王国建国後、一度も花嫁を迎えず人生の幕を閉じた。

だが二人の悲恋の物語は歴史の闇に葬られ、綺麗な逸話だけが残った。


昔、祖母からそう聞かされたことがある。





アーサー「ーーーーセァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」



ガウェイン「どりゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」




ーーーーガキィンッ!!!


はぁ......またやってる........


今日はガウェイン殿下ですか。


ガウェイン・フォルティトゥード・ユースティティア。

フォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国の第一皇子である。

女性のような顔立ちのアーサーとは系統が違う顔だが、豪快に笑うところは兄弟そっくりだ。


そんなガウェイン殿下は、パワーとスピード両方凄まじいマルクス殿下やアーサーと違い、純然たるパワータイプ。

スピードは私にも見えるほどだが、その分攻撃力が凄まじい。

彼が全力で暴れ回った時はセレネスト王国の王都が吹っ飛ぶほどの被害が出たものだ。

あれは確か.....そう、セレネスト王国で開かれた舞踏会で魔神が襲ってきた時だった。



アーサー「おぉセレスティア!!今日も来てたのか!!」


ガウェイン「いつも弟が世話になってるな!!セレスティア嬢!!」



ーーーそう。


何故か私は最近、頻繁に別館に訪れているのだ。


本邸から別館までは5キロメートル以上離れていて、決して気軽に通える距離ではない。


それでも私はここに足を運んでいる。


それが何故かは、自分でもよくわからない。


ただ、アーサーに名前を呼ばれるたび、アーサーに笑いかけられる度、胸の奥がじんわり暖かくなるような感覚を覚える自分がいる。


昨日だって、アーサーがいると知ってすぐ別館に向かって行った。


アーサー「セレスティア?どうかしたのか?」


不意にアーサーが私の顔を覗き込む。


落ち着いた深緋色の虹彩は薔薇のように鮮やかで、瞳孔の藍色が真っ赤な虹彩に彩りを添えている。

その瞳はガラスのように澄んでいて、太陽の如き眩い光を湛えている。

雪のように白く絹のように滑らかな肌と、全てを飲み込むような艶やかな濡羽色の髪のコントラストが、彼の神秘的な美貌を引き立てる。

まさに夜の女神の如き絶世の美貌が目の前にあった。


私は咄嗟に顔を背ける。


セレスティア「い、いきなり顔を覗き込まないでください!びっくりするじゃないですか!!」


アーサー「.........?何故だ......?」


セレスティア「なんでもです!あなたはもう少しご自分の美貌を自覚なさってください!」





アーサー「ハーハッハッハ!!セレスティアよ!!いいことを教えてやろう!

美貌というものは戦場ではなんの役にも立たんのだ!!」



彼は胸を張ってそう言い張った。



ーーーーーいや!!そういう問題じゃないでしょう!?


その時、背後から声が聞こえた。




ルシウス「ーーーーー兄上達。昼食の用意ができたらしいですよ。」


ルシウスだ。


アーサーと違って庇護欲をそそる見た目で愛くるしい。



カストル「........いつも思うのだが、何故お前が言いにくるのだ?」


マルクス「普通は使用人が伝えにくるものであろう?」





いや.......多分それはーーーーー


ルシウス「当たり前です!!毎朝こんなに派手にやり合って.........いつ巻き添え食らって死ぬかわからないのに、ズカズカ入っていけるわけないでしょう!?!?」



そう、彼らの戦闘は派手すぎるのだ。


特にアーサーとマルクスは目にも止まらぬ速さで動きながら、岩すら真っ二つにするほど鋭い斬撃を連続的に放っている。

ガキキキという剣と剣がぶつかり合う金属音が聞こえたり、無数の火花が同時に発生しているように見えたり........もはや人間が出せるスピードの上限を超えている。

ガウェインもガウェインで先程言ったとおり、その圧倒的なパワーゆえに地響きも起きるし、彼が拳で殴ったところは必ず抉れるだけでは済まされない。


こんな化け物共が戦ってるような魔窟にノコノコやってくる方がおかしいのだ。



ーーーーやっぱり、最近の私はおかしい。




今日の昼食は、ルシウスを除く皇子4人の料理はほぼ肉、私とルシウス皇子は別メニューである。



料理長「ーーーーでは、肉料理2皿目を」



ーーーーーー2皿目!?!?!?


昨日も思ったけど......あれだけ前菜から魚までしっかり食べておいて......どんだけ肉料理食べてるんですか!?



ガウェイン「おぉ、待っておったぞ!!」


カストル「腹が減ったのじゃ。」


アーサー「早く食わせろ!!!」




皇子達の目の前には首から下が完全に隠れるほど分厚い巨大なステーキが置かれた。

普通なら辟易するほど巨大な肉。



だがーーーー四人の皇子は「待ちくたびれた」と言わんばかりに肉にがっついていた。

その姿はまるで、最近巷で有名なフードファイターのようである。



セレスティア「待ってください......昨日もすごく巨大な肉料理3皿出てませんでした!?!?

あれ、何かのお祝いとかじゃなくて普段からあの量食べてるんですか!?」



ルシウス「やっぱり.......そういう反応になりますよね。」



アーサー「鍛錬後の食事は美味いな!!」



私はふと、あることを思い出した。


“赤い獅子”のことだ。


アーサーは最近一日中鍛錬をしているがパーティ運営はどうなっているのだろう?





アーサー「ーーーあぁ。アイツらなら祖国の軍で鍛えてもらってるぞ。」



セレスティア「............は?」



私は言葉を失った。


だって.......皇帝国軍の訓練と言えばーーーーーー


アーサー「本当は俺が付き添いたかったのだがな、父上が“あとのことは任せろ”と譲らなくてな?

せっかくだから任せることにしたのだ。」



ルシウス「兄上!?!?初耳ですよ!?」



セレスティア「一体何を考えているのです!?」



アーサー「........?二人とも、何をそんなに焦っているのだ?」


ーーーーー焦るに決まってる。


皇帝国軍の訓練は世界最凶。

死よりも恐ろしい目に遭う。

これは世界共通の認識だ。

実際問題、皇帝国軍に送られた者は見るも無惨な姿になって帰ってくる。


ーーーそんな.......皇帝国軍の訓練に......一介の冒険者が.......?


考えただけでも恐ろしい............


だが、アーサーはキョトンと首を傾げている。

つくづく彼のこの世間知らずっぷりには辟易する。




ーーーー辟易しているはずなのに。

どうして笑みが溢れるのだろう。



デザートにはクラウンタルトが出てきた。




ーーーーそう言えば、エクリプス戦の後わざわざ立ち直らせてくれたお礼をまだしていませんね。


クラウンタルトを送りましょうか。


別にクラウンタルトは市販のものを友人や家族に親愛の印として送ることもあるし、変ではないでしょう。


そう、特に意味などありません。


ただのお礼です。


それ以上の意味なんてあるはずがありません。


............でも、そうですね。


せっかくだから作ってみましょうか。





ーーーーー厨房にて


クラウンタルトの材料は、普通のタルトと変わらない。

だが、タルトの中に入れるものによって意味が微妙に変わる。


木苺が“初恋”、林檎が“永遠の愛”、蜂蜜が“優しさ”など、多種多様である。


そんな中で私は木の実をチョイスした。


木の実には“家庭円満”という意味がある。


別に私がアーサーと家庭を築きたいという話ではありませんよ?


木の実は友達や家族に送る際よくあるタイプなのです。


決して何か特別な意味があるわけではありません。





そんな、誰に言うのかわからない言い訳を頭の中でしていたらーーーー





アイリス「セ、セレスティアさん........」


セレスティア「あら、アイリスさん!」



アイリスさんが厨房にやって来た。



貴族令嬢が厨房に足を運ぶことは非常に少ない。

まさか......アイリスさんもアーサーにクラウンタルトを?

いいえ、あり得ませんね。

エイトさんからアイリスさんはユースティティア皇族を怖がっていると聞き及んでいます。

そもそも交流が少ないでしょう。



........では一体なぜ?



アイリス「あ、あの......セレスティアさんはなんで厨房に.......?」


セレスティア「えっと........クラウンタルトを作ろうと思って.......」



アイリス「............」


セレスティア「...............」



き、気まずい.......


どうしましょう....アイリスさんが黙り込んでしまいました.......


何か変なことを言ってしまったのでしょうか?



アイリス「あ、あの......わ、私も.....その.....エイトさんに作ろうと思って........」




.....................エイトさんに?


それは盲点でした。


エイトさんはその.....本人には言いにくいのですが、優しいけど恋愛対象にはならないタイプだと思っていました。


でも.......確かに優しいですものね、エイトさん!


すっごい素敵な話だわ!




セレスティア「まぁ、素敵ですね!応援しますよ!」



アイリス「.................へ?」



セレスティア「え?」

次回はついにクッキング回!



アーサーとエイトそれぞれの反応は如何に........?


次回!!「第十三話 クラウンタルト エイト&アーサー編」よろしくお願いします!

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