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第十一話 クラウンタルト アイリス編

※注意)アイリス視点のエイトの描写はだいぶ美化されています。

客観的なエイトの顔は悪いというわけではありませんが別段良いわけではないので悪しからず。


ーーーーーーーそれは、遥か昔の話。


まだサルムンド王国が栄えていた時代。

突如、魔王アポカリプスによって、地上は血と炎で包まれた。

魔王を討つために立ち上がった勇者カイゼルは、魔王城に行く前日、

当時勇者カイゼルの恋人であったサルムンド王国の王女ヴィータからとある菓子が贈られる。

その菓子は、王冠を模した小さなタルトだった。


「“私と結婚し王となり、共に国を支え続ける”

このタルトを食べるたびに、

どうかあなたが私に言ってくれた、その約束を思い出して。

そして生きて帰り、その逞しい腕で私を強く抱きしめて。」


そんな思いが込められた、小さなタルトを受け取った。


タルトを受け取った勇者カイゼルは、彼女を強く抱きしめた。

そして誓った。


“必ず生きて帰ってくる。

そして君と永遠に生きる”


と。


その後、勇者カイゼルは魔王を討伐した。


“ヴィータとの約束を果たせる”


そう思ったカイゼルは舞い上がり、意気揚々と国に帰った。


ーーーーーだが、サルムンド王国はとある脅威によって滅亡を迎えてしまう。


あれだけ人で溢れかえった街は死骸で満ち溢れ、かつてあれほど賑やかだったのに今はなにも聞こえない。


カイゼルが王城に駆けつけると、そこには王国騎士団の騎士たちと、国王夫妻の亡骸があった。


カイゼルは駆けた。

そして願った。


“どうかーーーーどうか無事でいてくれ、ヴィータ。

俺はやったんだ、ついに魔王を討伐したんだ。

どうか、俺に君との約束を果たさせてくれ。”



ーーーしかし現実は残酷だった。



国王の玉座の前には、血塗れになったヴィータが冷たくなって倒れていた。

カイゼルは彼女の亡骸を抱き、そして嘆き悲しんだ。

怒り狂ったカイゼルは聖剣エクスカリバーを抜き、ヴィータを殺したその怪物に向かって剣を振った。

しかし、その刹那ーーーー聖剣エクスカリバーが折れてしまう。

カイゼルは絶望した。

もうダメだ、そう思った。



だがーーー次の瞬間、怪物は呻き声を上げながら倒れた。

その体には、無数の切り傷が刻まれている。


怪物の横には一人の男が佇んでいた。


その男は、かの帝国の皇族の証である全てを飲み込む闇の如き漆黒の髪を持っていた。


瞳は太陽を思わせる鮮烈な黄金。


彼の名はアレキサンダー。


偉大なるフォルティトゥード・イプサ・ユースティティア皇帝国に君臨した、若き皇帝である。



皇帝は言った。


“魔王城からこのサルムンド王国の王都サルバトールまで、王冠を模したタルトが道に落ちていた。

それを辿り王都まで来た。


王城に来てみれば、王女が倒れていた広間から赤子の声が聞こえた”と。



カイゼルは急いで懐を確認すると、あれだけたくさんあったヴィータのタルトが一つ残らず消えていた。

そう、カイゼルはいつのまにかタルトを落としてしまったのだ。




ーーーー次の瞬間、どこからともなく赤子の笑い声が聞こえた。


声がした方をよく見ると、皇帝アレキサンダーの腕にはーーーーカイゼルと同じ少し青みがかった黒い髪と、ヴィータと同じヘーゼル色の瞳を持つ赤子がいた。


それはまさしく、勇者カイゼルと王女ヴィータの血を継いだ赤子だった。



そう。



勇者を救ったのは、王女ヴィータの愛だった。

彼女の愛が勇者と、そして勇者とヴィータの間に生まれた子を守ったのだ。

カイゼルは涙を流し、そして、ヴィータの唇に口付けをした。



これがクラウンタルトの伝説の始まり。



世界を救い、愛し合う二人の子を救い、荒廃した街に再び人々の賑わいと笑顔を蘇らせたそのタルトは、のちに幸福と愛の証となった。


ーーーーーーーーーーーーー


【アイリス視点】


あの事件の翌日。


私は、ベットに寝っ転がりながら昨日のことを思い出していた。


“あなたが隣にいてくれるから、私は強くなれたんです。”



〜〜〜〜〜〜〜っ!!!


わ、わわわ私なんであんなこと言ったの!?


あんなの.......あんなのまるで告白みたいだわ!


うぅぅ.......もう嫌..........絶対はしたない女だと思われてしまったわ.......


そんなことを考えて自己嫌悪していると、不意に扉が開いた。


エ、エイトさん.......!?


私は一瞬驚いてドアの方を見た。





ーーーそこにいたのは。


ギデオン「お嬢様。朝食の準備ができました。」


.........あ、ギデオンさん.......


アイリス「は、はい.....!すぐ行きます.....!」




なんでだろう........ドアの先にいたのがギデオンさんだったと知った時、一瞬だけ落ち込んでしまったわ......


ギデオンさんはなにも悪くないのに.......


ご飯のこと伝えに来てくれたのに、すごく申し訳ないわ........




昨日から、私はずっと変だった。


エイトさんが笑いかけると、顔が熱くなってしまう。


何かしようとしても途中でぼうっとしてしまって.......気づいたらエイトさんのことを考えてしまってる.......


この気持ちは.......一体なに........?



そんなことを考えながら廊下を歩いているとーーーーー



エイト「アイリスさん!おはようございます!」



アイリス「..........っ!

エ、エイトさん........」




エイトさんと遭遇した。


灰色がかった黒い髪が、窓から入ってくる風によってふわっと靡いている。


燻んだ青色の瞳はキラキラと輝き、まるで満点の星空のよう。


シャツの上から覗く喉仏が妙に色っぽい。


あの長い夜を乗り越えて再び会った彼は、初めて会った時よりずっとカッコよく見えた。


途端、いきなり顔が熱くなった。


呼吸が浅くなる。


心臓の音がうるさい。


耐えかねた私はーーーー挨拶も返さずにエイトさんから逃げてしまった。



エイト「..........?どうしたんだろう........」



嫌だわ.......なんで.......なんで避けてしまったんだろう....


昨日は普通に返せたのに........


あんな避け方、感じ悪いじゃない.......!


どうしよう.......嫌われたかしら........



ーーーーー食堂にて。


エイトさんと二人っきり.......すっごく緊張するわ........


どうしたのかしら.........?


だって.........昨日は普通にお話できたじゃない........


セレスティアさん......まだかしら.........?



セレスティア「ーーーーおはようございます。エイトさん、アイリス様。」



ーーーー来たわ!!


アイリス「お、おはようございます........!」


やっとセレスティアさんが来てくれたわ!


よかった.......もうこれで二人きりじゃないわ......!


エイト「お、おはようございます!セレスティアさん!」




............あれ?


エイトさん........私と会った時より嬉しそう.......?





ーーーーーーーズキッ



その嬉しそうな顔を見た瞬間、一瞬だけ胸が痛くなったような気がした。


一皿目は冷製コンソメのジュレと山羊乳のムース。


澄んだ肉と野菜のスープを固めた透明なジュレの上に、山羊乳を泡立てたふわふわのムースが乗っている。


エイトさんは不思議そうに皿を眺めていた。



エイト「これ......なんですか........?

ゼリー......?

一番最初にデザート出すなんて変わってますね、」


せ、説明しなきゃ.........



アイリス「あ、あの.......」




エイト「ーーーーーセレスティアさん。」



ーーーーえ?


な、なんでセレスティアさんが........?




セレスティア「........エイトさん。それはコンソメのジュレです。

ゼリーですが、甘くないんですよ。」




エイト「へぇ.......甘くないゼリーなんて変わってますねぇ。」



も、もう一度話しかけてみよう........


今度は返事してくれるかも.......!



アイリス「エ、エイトさーーーーー」



エイト「見てくださいセレスティアさん!すっごい綺麗な料理ですね!」



セレスティア「それはテリーヌですね。

薄く切った魚や春野菜を層状に固めているんです。」


............また、遮られてしまった。


エイトさんに限って、わざと無視するなんてあり得ない。


..........私の声が聞こえないほど、何かに夢中になっていない限り。


もしかして.......セレスティアさんのことが好きなのかな........?



ーーーーズキッ



また、胸に突き刺すような痛みが走った。


どうしたんだろう......私.......


モヤモヤした思いを抱えたまま、私は自室に戻った。



ヒルダ「ーーーーーそれは恋でございます、お嬢様。」


アイリス「や、やっぱり......そうなのかな.......?」



彼女の名前はヒルダ。

私の専属侍女だ。

幼い時から私に仕えてくれている。



アイリス「でも.....どうしましょう.........」



ヒルダ「アプローチされてみては?」



アイリス「で、でも.......エイトさんは....セレスティアさんのことが.......」



私の少し癖のある桃色の髪とは違い、セレスティアさんの髪は長くて美しい白銀色だった。


瞳は太陽を思わせる黄金で、肌も雪のように白い。


ずっと背を丸めている私とは違って姿勢も美しく、いつも堂々としているのに、優しくて女性らしい気品も持ち合わせている。


そして......何より私と違ってエイトさんの横で剣を振れる。



........どう考えても.....私じゃ勝ち目がないわ.......



ヒルダ「.......お嬢様も十分魅力的です。

ご自分に自信を持たれては?」



アイリス「で、でも..........」



ヒルダ「ーーーーーところでお嬢様、“クラウンタルト”はご存じですか?」



クラウンタルトーーーープエルグラトゥス王国の伝統菓子だ。



手のひらサイズの小さなタルトで、側面のギザギザが王冠のように見えることから、そう名付けられた菓子。



アイリス「知ってるわ?プエルグラトゥス王国の伝統菓子でしょう?」



ヒルダ「実は.......クラウンタルトには逸話がありまして。

女性が想い人へクラウンタルトを贈ると初代国王夫妻のように幸せになれるという逸話があるのです。」



アイリス「そ、そうなの......?」



ヒルダ「ただの迷信ですけどね。

ですが、非常に有名な話ですので意識させることはできるかと。」



.........私にできるのかな。


エイトさんを振り向かせるなんて.......


.......セレスティアさんを敵に回すなんて.......怖いわ......


でも、このまま終わりたくない。


たとえ私を好きになってもらえなくても.......一瞬だけ、振り向かせることができるなら.....私は.......





ーーーーー一歩、踏み出してみたい。



私は厨房に向かった。


するとそこには、



ーーーーセレスティアさんがいた。


.........も、もしかして......セレスティアさんもエイトさんに......?


う、ううん.....まだクラウンタルトを作りに来たと決まったわけじゃないわ.....!


もしかしてお弁当作りに来たのかも.......


さっき鍛錬に行くって言ってたもの..........!




アイリス「セ、セレスティアさん........」


セレスティア「あら、アイリスさん!」


セレスティアさんは振り返った。


やっぱりセレスティアさんは綺麗。


サラッとした銀髪は絹のように滑らかで、光を受けてキラキラと輝いていて、私の癖のある桃色の髪が見劣りする。


太陽を思わせる黄金の瞳の中は、まるで星が瞬いているようにキラキラ細かく光ってて、眩しくて思わず目を瞑ってしまう。


雪のように白い肌は滑らかで、ガラスのように透明感があって水々しい。


背筋がピンと伸びていて、所作も優雅で堂々としていて.......いつも縮こまってビクビクしてる私とは大きな違いだ。




アイリス「あ、あの......今日はなんで厨房に......?」



セレスティア「えっと.......クラウンタルトを作ろうと思って.....」




ーーーーーーズキッ


あぁ.......やっぱり、セレスティアさんもエイトさんに........


で、でも........私も頑張らなきゃ..........!




アイリス「あ、あの......わ、私も.....その.....エイトさんに作ろうと思って........」


うぅ......言ってしまったわ..........


こんな、他人に宣戦布告するようなこと、初めてなのに........


セレスティアさん.....なんて言うのかしら........


怖いわっ........!





セレスティア「ーーーーーまあ、素敵ですね!応援しますよ!」





アイリス「..........ヘ?」



セレスティア「え?」

作者です!



アイリスの宣戦布告(?)に予想外の反応を示したセレスティア!!


セレスティアの真意は一体......?



次回!!「第十二話 クラウンタルト セレスティア編」よろしくお願いします!

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