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第06話 お兄ちゃんがお姉ちゃんみたいで

「じゃあ早速探しに行こう!次の休みはいつ?」


「ええっと、来週の火曜とか〜」


レントはその場でスマホを開き、迷いなく指を走らせた。


「オッケー! 有給とる!」


「ええっ、ちょ、ちょっと!? お仕事いいの!?」


あわあわと焦るルウを横目に、レントはもう申請を完了させていた。



そして翌週、火曜日。


待ち合わせ場所に立つレントは、今日はレンちゃんに完全変身していた。黒とピンクを基調にしたフリフリのロリータ服、完璧なセット、完璧なメイク。


(商社のコネで良い豆屋さんも予約済み。有給もバッチリ取れた。完璧なプランだ)


心の中で自画自賛しながら、待ち合わせ場所に視線を走らせる。


「やっほ〜! レンちゃんおまたせ〜!」


元気のいい声とともに、ズカズカとこちらへ歩いてくる姿があった。


レントはその瞬間、固まった。


「…………」


どういうことだ。あの喫茶店で可愛いメイド服を着ていたルウは、どこへ消えたのか。目の前にいるのは、「56」とプリントされたダサいジャージに、だぶついたカーゴパンツ姿のルウだった。顔はあんなに可愛いのに。あのポテンシャルが、これによって完全に殺されている。


「ちょっと! 何なの、その格好は!!」


思わず声が荒くなった。


「え〜? いつも着てる服だよ〜」


ルウは心底きょとんとしている。レントは頭の中で火花が散るような感覚を覚えながら、なんとか気持ちを整理した。


(確かに、初めて会った時もダル着だった。でも……あんなポテンシャルを、こんな服で埋めてしまっているなんて)


「予定変更よ! 豆探しより先に、行くところがあるわ!」


「おわぁ〜!? レンちゃんどこいくの〜!」


レントはルウの腕をぐいっと引っ張り、足早に歩き始めた。



「レンちゃん、ここにコーヒーはないよ〜」


ルウが首を傾げるのも当然だ。目の前に広がるのは、外装から内装まで余すところなくフリルとリボンとパステルカラーで埋め尽くされた、ロリータ服専門店だったから。夢の国がそのまま店舗になったような空間に、コーヒーが存在する余地など一ミリもない。


「当たり前でしょ、服屋さんなんだから」


レントは迷いなく扉を押して、店内へと踏み込んだ。


ずらりと並ぶフリフリとした服たちが、柔らかい照明の下できらきらと輝いている。喫茶店のメイド服でさえかすんでしまいそうなほどの、圧倒的な可愛さの濃度。その光景を目にした瞬間、ルウの目がぱあっと輝いた。


「ほわぁ〜……」


声が漏れる。それを聞いてレントはにやりとした。


早速、ハンガーラックを端から眺め始める。


「やっぱりピンク主体で……あっ、こっちの水色もいいかも! これも捨てがたい!」


夢中でアイテムを引き抜いていくレントの背中を、ルウは少し遠くから静かに見守っていた。


振り返ったレントが、腕いっぱいに服を抱えてルウに差し出す。


「ルウちゃん、これとこれと、あとはこれ! 店員さん、試着させてください!」


ロリータ服に身を包んだ店員さんが、微笑ましそうな顔でふたりを交互に見た。


「かしこまりました。妹さん、可愛らしいですね〜」


「むふーん♪ そうでしょ! 今日はこの子をもっと可愛くするの!」


レントはご機嫌な鼻声で答えながら、ルウのほっぺたをぷにっとつついた。



「はい、両手を開けて立ってて!」


「ん〜!」


試着室の前で、ルウはすっかりレントの着せ替え人形になっていた。一着着替えるたびに、レントの実況が飛んでくる。


「あ、最高!」


「ワンダフォー!」


「いいよ! ルウちゃんいいよ!!」


叫び続けるレントに引っ張られるように、ルウもだんだんノリノリになっていた。


そして、ピタリとピースがはまった瞬間が訪れた。


「決まり! これよ!!」


サイドテールを大きなリボンでまとめ、その下にふわりと広がる水色を基調としたロリータ服。品があって、可愛くて、どこかの国のお姫様がそのまま飛び出してきたような、完全体のルウがそこに立っていた。


ルウは自分の服をそっと見下ろして、ぽつりとつぶやく。


「かわいい服……。でも、ルウ、お金足りないかも〜」


「何言ってるの、私が払うに決まってるでしょ」


「えっ、でも……」


「これは私が買いたいから買うの! 可愛い子は存分に可愛くならないと!」


ルウはもう一度、自分の服を見つめた。それからゆっくりと顔を上げ、少し照れたように笑う。


「……ありがとぉ、レンちゃん」



「ありがとうございました〜」


店員さんに見送られ、ふたりは店を出た。


新しい服を身にまとったルウと並んで歩道を歩きながら、レントはこっそり満足感に浸っていた。やっぱり、可愛い子は可愛くしてなんぼだ。


「ルウ、こんな可愛い服着たの初めてだよ〜。いつも同じ服ばっかりだったから」


「ふふふ、似合ってるわよ」


ルウはそのまま、くんくんと鼻を動かしながら歩く。そして何かに気づいたようにぽつりと言った。


「レンちゃんは……匂いは完全にオスなんだけど」


グサッ。


「なんかね〜、お兄ちゃんとお姉ちゃんが同時にできたみたいで……うれしいなぁ〜」


レントはしばらく、ぽかんとしていた。


青空の下、ショッピングバッグを抱えたルウが、なんでもないことのようにそう言って笑っている。


「……ふふーん! 当たり前でしょ!」


気づいたら、レントはルウをぎゅっと抱きしめていた。


「ほわぁ!?」


「さ、豆探しに行くわよ!」


「うん!」


ふたりは笑いながら、並んで歩き出した。豆屋への道を、少しだけ軽くなった足取りで。

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