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第01話 趣味がバレた街の真ん中で

休日の午後は、全力で趣味を満喫する。それがレントの流儀だった。


大きなつぶらな瞳をもつ猫のケモノが、リップを手に取り、慣れた手つきで唇に塗っていく。最高に可愛い服に袖を通し、お気に入りの靴を履いて、街へと颯爽と繰り出す。


よく晴れた公園の遊歩道をゆっくりと歩きながら、レントはさりげなく周囲の視線を感じていた。それも当然の話だ。ニャンスタグラムに自撮りを投稿すれば、いいねが嵐のように押し寄せてくる。スマートフォンの画面には、猫耳をあしらった可愛らしいケースごしに、自分の顔と大量のいいねとコメントが映し出されていた。その美しさの裏に、秘密があることなど誰も知らない。


レントはスマートフォンを自分に向け、シャッターを切った。


(僕の名前はレント。正真正銘、オスである)


平日は大手商社の凄腕営業マン。そして休日は、美少女系インフルエンサー"レンちゃん"。レントはふたつの顔を持っていた。これまで一度だってバレたことはない。見た目も声も、すべてが完璧な女装で世間を欺いてきた。


「あれってレンちゃん!?」「まじで!?ニャンスタの有名人じゃん!」


公園を歩いていると、周囲のケモノたちからそんな声が上がり始めた。レントはそれに軽く手を振って応える。まるでどこにでもいる、気さくな有名人のように。


そのとき、近くから聞こえた。


くんくん、と。


誰かが匂いを嗅いでいる。そして、何かに確信を得たように「やっぱり……」と小さくつぶやく声。


ゆっくりと近づいてきたそのケモノは、躊躇なくレントに声をかけてきた。


「ねぇ。オスなのに、どうして女の子の格好をしているの?」


開けた空の下にビルが並び、木々が緑に揺れる公園の真ん中で、二匹はしばしの間、無言で向き合った。


レントの脳が高速で回転し始める。そして、次の瞬間にはそのケモノに向かって、勢いよく壁ドンをしていた。


(──今、オスって言った? 女装は完璧なはずだぞ。いや、聞き間違いの可能性も……)


内心ではじりじりと焦りながらも、レントは努めて落ち着いた声で問いかける。


「お嬢ちゃん、今なんて言ったっけ?」


「オスなのに──」


お嬢ちゃんのような見た目のそのケモノが言い切ろうとした瞬間、レントは思い切り叫んで遮った。


「わーーーーーーーーーー!!」


(完全にバレてる……! なぜだ……なぜバレたんだ……!)


レントの脳裏に、これまでの記憶が走馬灯のように流れ込んできた。夜景の見えるレストランで「女性一名様ですね、こちらへどうぞ」と案内されたこと。薄暗い女性専用サロンで「毛のツヤがすごいですね、うらやましいなあ」と店員にしみじみと言われながらマッサージを受けていたこと。そのたびに心の中でガッツポーズを決め込んでいたこと。これまで向けられてきた、憧れの眼差し。


それがすべて、パリン、と。レントの中で何かが砕け散った。


(こんな……何も考えてなさそうな子に……バレた……?)


しかし問題の当人は、ぽへーとした顔で立っているだけだった。


レントはその少女に顔を近づけ、静かに、しかし切実に声を絞り出した。


「お嬢ちゃん……この事は、どうか内緒に……」


「いいよ〜」


「……いいの!?」


あまりにあっさりした返事に思わず素が出たが、深く考えている時間はない。レントはそそくさとその場から立ち去ることにした。


「じゃっ! 私はこれで!!」


颯爽と、しかし若干どたばたとした足取りで走り去りながら、レントは思った。


(何なの、あの子……!?)


そしてこの時、レントも少女も、まだ知らなかった。この偶然の出会いが、二匹のケモ生を大きく変えてしまうことを。

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