腹が減っては・・・(2)
王子派食料地。
ここには王子派の20万の兵士達の胃袋を満たす為の食料が置かれている。勿論その量も膨大な量となるので2つの陣地に別れて、其々の陣に5千ずつ警備の兵が置かれていた。
この2つの陣地は少し離れた場所に有り、どちらの陣も周りを木の柵で囲ってある。また、この2つの陣は補給地の為、本陣や先鋒部隊の位置から1日、王都の位置から2日の場所に置かれていて、王都を背に向けて左右に別けられている陣の間には少し広い何もない道が有り、互いの陣に行く事を簡単に出来るようになっている。
そしてこの右側の陣が今回この食料の守りを命じられたベリモル・ガリのいる本陣となっていた。
しかし、今このベリモルはイラついていた。
「何故だ。何故姿を見た情報は有っても捕えられない」
1人陣の中で怒鳴り散らしている長身の男、ベリモルは近くに居る兵を睨みつけた。
「分かりません。後を追った者は皆『突然消えてしまった』としか言わない為、理由は分かりませんが確かに敵の偵察が居る事は確かです」
兵はこう言うしかなかった。だが、これもベリガルの怒りを煽る。
「ふざけるな!!将軍閣下にこの食料を守るように言われ、しぶしぶ食料などを守っているが、こんな物を守るのではなく俺の初陣はもっと敵を殺し、将の首を上げる様な派手な物にしたいのだ。2日前から城への攻撃を始めたと聞くが、このままでは俺が参戦せずに終わってしまうではないか!!」
ベリガルの言うように一本道の攻撃より10日となった2日前に城への本格的な攻撃を開始したのだ。だが、そう易々とあの堅固な城が落ちるわけが無く、王子派の兵たちは苦戦を強いられていた。
一方のベリガルの所には、一本道の攻撃から6日後となる6日前から敵と見られる兵が確認され始めた。当然戦いに参加できないベリガルは、自分の兵に追わせたが誰も捕えたり、殺せず、逆に兵が殺されて身ぐるみを剥がされて放置されるという事が続いていた。そして、追っていた者が生還した際に何故逃したか聞けば皆『突然消えた』としか言わないのだ。
「被害はどうなった?」
「はい。死者や行方が不明になった者は100を超えました」
兵の報告にベリガルは頭を抱えた。自分の生家であるガリ家は最近貴族になったばかり、その為ラノス家の派閥の中でも肩身が狭い思いをしている。そんな状況から脱出する為には何としてもこの戦で功をたてて、周りから認められるしかないのだ。そんな事情の中、将軍に預かった兵をみすみす100ばかり失い、敵は1人も討てていませんなどと報告できるわけがない。
「申し上げます」
ベリガルが報告をどうするか悩んでいた時だった。1人の兵士がベリガルのテントに入ってきた。
「何事だ?」
「本陣より、閣下の使いと名乗る者が50騎の兵を連れてまいりました」
「な・・何だと!?急ぎ出迎える」
兵の報告に焦ったベリガルは、慌ててテントを出て、将軍の使者を出迎えた。
「出迎え遅れた事、誠に申し訳ありませんでした。私はこの陣を預からせていただいております、ガリ家次期党首のベリモル・ガリと申します」
そう言って使者に頭を下げた。
「気になさるな。私は将軍閣下直属の部隊を率いるレルブだ。役目がら名を全て名乗れぬのでご理解願いたい」
そう言ったレルブは、壮年の男だが、長い戦場暮らしの所為か顔や体には傷が有り、正に歴戦の猛者だった。
「いえ、このような所にお出で頂き誠に恐悦至極でございます。まずは、私のテントの方へご案内いたします。後ろに居られる兵の皆さま方には別の場所にておくつろぎください」
そう言ってラルブを自分のテントに招き入れ、少し酒を酌み交わした後本題に入った。
「ところで、閣下はどのようなご用件であなたを遣わされたのですか?」
「実は・・・・」
レルブは少し言葉を言った後に言葉を止めベりモルに目配せをした。
「お前達は下がれ」
レルブの意思を読み取ったベリモルは控えていた兵を下げ、人払いした。
「実は閣下より密命を受けて参ったのだ。最近このあたりを敵兵が偵察をしているのを閣下はご存知でな」
ベリモルはこう言ったレルブの言葉に愕然とした。自分が恐れていた事が起こってしまったのである。
「ベリモル殿、最後まで聞くのだ。閣下以外にこの事を知っている者はいない。閣下はそなたが初陣である事や派閥内で肩身が狭い思いをしているのをご存じでな。今回の事を解決する為に私に力になるよう命じなされたのだ」
「・・つ・・つまり、閣下はご存じだが、私に気を使って下さり、あなた様を使いとして派遣なさったのですね」
「そうだ。実はもう一つの陣にも私と同じ密命を受けた者が50騎で派遣されている。もうじき知らせが来るころだろう」
そうラルブが言った時、隣の陣から使者が来た事を告げる報告がやってきた。
どうしたらいいのか分からない時に訪れた将軍の密命を受けた部隊の到着にベリモルは喜んだ。上手くやれば功を上げられるかもしれないし、将軍が想像以上に自分に目をかけている事が分かったからだ。
この後、ベリモルは隣の陣にやってきたシンという使者に会う為隣の陣に移動し、夕刻に帰ってきた。そして、その夜は使者歓迎の簡単な宴を開き安らかに眠りについた。使者としてやってきたレルブが夜に密会していたなど知らずに。
★
それは使者のレルブがやってきた翌日の夜、補給の為に食料を移動する準備を終えた時だった。
「申し上げます。左の陣の方角より煙が見えます」
そう言って1人の兵がテントに駆けこんできた。
「ほ・・本当か!?」
「大変だべリモル殿!!シンから敵襲の知らせが来たぞ!!」
そう言いながら今度はレルブがテントに入ってきた。
「ど、ど・・どうしたらいいのです?レルブ殿・・」
急な知らせに対応が分からなくなったべリモルはレルブに助けを求めた。
「落ち着きなされ。指揮官が落ち着かなくて何とする?ベリモル殿は5千の兵を率いて救援に駆けられよ。この地は私が守る」
「分かりました。では、閣下に秘密の報告をお願いします」
「それより気を付けよ。左の陣につく前に敵に、こちらの陣に向かう敵に遭遇するかもしれん」
「分かっています。では、この地はお任せします」
そう言い残しベリモルは早急に5千の兵を集め陣を出た。
ベリモルが率いている軍は5千の内4千が歩兵で、残りの千が騎兵だ。この歩兵はガリ家の私兵だが騎兵の方主要な者以外は将軍から預かっている兵である。これとは反対に、左の陣を預けたコークの率いる5千全ては将軍より預かっている兵である。そして、この兵が置かれている左右の食料地の間は、馬で駆ければおよそ1刻で到着する距離となっていた。
ベリモルが陣より飛び出しおよそ半刻。2つの陣のちょうど中間地点で前から来る兵を確認した。その数およそ5千。
「いかがなさいます?数はおよそ同じですがこのまま突っ込みますか?」
ベリモルの近くを駆ける兵が判断を仰いだ。
「このままいくぞ!!血祭りにしてくれるわ!!!」
戦という言葉と殺し合いという状況に完全に興奮したベリモルは大声で叫ぶと剣を抜いた。
「全軍突撃!!!!!!」
剣を構えながらそう叫ぶと更に馬の駆ける速度を上げた。前方に見えた兵も前から来る兵に気づき武器を手にして両軍がぶつかった。しかし、両軍には明らかな違いが有った。ベリモルは全軍突撃の特攻で纏まらずに突っ込んだのに対し、敵兵は横陣を作り応戦したのだ。
「ふん!陣など吹き飛ばしてくれる」
自分の剣の腕に絶対の自信を持つベリモルは先頭に立ち敵の歩兵に突っ込んだ。加速するだけ加速した騎馬に当たるだけで敵の歩兵は吹っ飛び、剣を振るえば敵の歩兵の首や手を飛ばした。また、先頭に立ち戦うベリモルに刺激されたその配下の騎兵もその後に続き敵陣に斬りこみ歩兵を殺していった。そして、その後にさらに続く歩兵の士気も上がり敵の歩兵に突っ込んでゆく。
「はぁぁぁぁ!!!」
気合いの声を上げながら剣を振り敵を倒してゆく。剣を振る度に敵の歩兵を殺し、血が吹く。完全に戦場の空気はベリモルの側に向いていて、押していた。
そんな戦場の空気や敵の血に酔いしれてきたベリモルの耳に後方から馬の地響きと悲鳴が聞こえ始めた。
「若。敵の騎兵が後方に回り込み我が歩兵を攻撃し始めました」
「放っておけ。先にこの陣を抜けてあそこに見える騎馬にのっている将を討てば問題ない」
そう言って更に突撃をしかけてゆくが、敵は陣を抜かれまいと戦っていない兵を動かし陣の厚みを増してゆく。それにより、敵の陣は抜けそうで抜けない厄介な陣に変わっていった。
「若、歩兵の被害が止まりません。このままでは退路を失います」
「くそ!!!」
何度突撃しても陣を破れず、味方の歩兵が騎馬に後ろから攻撃された被害が止まらないず勢いが無くなった状況になり、ベリモルに苛立ちが募る。
「敵将よ!!降伏なされよ!!」
イライラが募っているベリモルに敵の陣の後ろに居る騎馬に乗った将が大声で言った。
「誰がするものか!!」
「我らの主であるガリ家のベルモル様や四家のラノス将軍閣下は、捕虜にも気をかけて下さるお人ぞ!むやみに殺したりせぬ」
「ウソを言うな!!!俺がそのベリモルだぞ!!」
敵からでた自分の名前にベリモルは叫び返した。
「そちらこそウソをつけ!!ベリモル様の陣を襲った女王の兵であろうが!!!」
「我が陣は攻撃されてない!!そっちこそコークの陣を襲った女王のへいだろう!!」
互いに怒鳴りあう2人の周りはどちらも攻撃をせず見守っている。そんな中、後ろに控えていた騎馬に乗った男が動きベリモルのそばに寄ってきた。
「べ・・ベリモル様!!」
「コーク!!」
互いに顔が見える状態になりようやく将が誰かが判明した。
「コーク、どういう事だ?何故お前がここに居る?」
「若、今はそんなことよりこの戦闘をやめさせるのが先です」
そう言ったコークとその考えに従ったベルモルは互いに戦闘をやめさせるために合図を出した。
「で、コーク。何故お前がここに居るのだ?」
「それはこちらのセリフです。若の陣が攻撃を受けたと知らせを受け、煙が上がっているのを確認して兵を出したのです」
「どういう事だ?俺も同じ知らせをレルブ殿から聞いた。シン殿より敵襲の知らせが有ったと」
「そうなのですか!?私はシン殿からレルブ殿より敵襲の知らせが有ったと・・・「まさか!!」」
2人が同時に叫んだ時、それぞれの率いている兵からも同時に知らせが有った。
「「申し上げます。今度は我らの陣より濃い煙が上がっております」」
~時は少し戻りベリモルの出陣時~
「それより気を付けよ。左の陣につく前に敵に、こちらの陣に向かう敵に遭遇するかもしれん」
「分かっています。では、この地はお任せします」
そう言ってベルモルが居なくなった事を確認したレルブは、自分の連れてきた50人の部下に移動の為に集められた食料を各自が持っている袋に入れるように指示を出し、ベリモルのテントの中に入り書類などを漁ってゆく。
「レルブ殿、何をしておいでかな?」
突然後ろから声をかけられたレルブは剣を抜いて振り返り、声の主に斬りかかろうとした。
「ちょっと待て!!俺だから!!ラルフさん、俺だから!!」
「あ、隊長でしたか!」
そう言ってレルブことラルフは首元まで迫っていた剣をしまった。
「いきなり声を後ろからかけないでください。敵かと思うではないですか」
「分かりました。もうしません」
切りかかられた隊長ことアオイはもう絶対にしないと心に決めた。悪戯で死にたくない。
★
「で、どんな感じなの?食料は」
「予想よりも多いですね。今夜食料を送り始めるらしいですよ。4日分だそうです」
「なるほど。それは多いね。次のここへの補給は何時?」
「未定です」
「そうか。なら、今後補給路を攻撃する必要は無くなったわけか」
そんな会話をしながらベリモルのテントで書類などを漁ってゆく。
(ここから敵の本陣まで1日。今夜発つとなれば食料はあともって1日くらいか)
「アオイ、袋に入りきらない食料どうする?」
書類を漁るのをやめて外に出ると袋に入りきらなかった食料を持て余したマークに声をかけられた。
「ああ、ちょっと待ってて」
俺はそう言うと異空間より樽を1つ出した。
「・・・・まだ有ったのか・・・」
「そういうなよ。これを食料の近くにおいて燃やしとけば良いからさ」
そう言って周りから不評の酒入りの樽を置いて空間に穴を開ける。
「何処行くんだ?」
「いや、向こうにも同じ物を渡さないとね。終わったら洞窟に城へ通じる穴が開いてるからそれで帰ってきてね」
そう言い残し反対方向にある陣に酒の樽を渡す為に陣を後にした。
2つの陣から煙が上がり始めたのは、そのすぐ後の事だった。




