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2〜いつか、君に素直に〜

カラッと晴れたある日の午後。

私は咲子と一緒にショッピングをしていた。

今日の目的は水着を買うこと。

テストやバイトや塾で忙しかった私たちが合う日がなかなかなくて、こんなギリギリになってしまった。


「あ、美央可愛い〜」

フィッティングルームから出てきた私を見て、待っていた咲子が歓声をあげた。

私はピンクのドット柄の水着を試着していた。肩紐を首の後ろで結ぶタイプだ。

「やっぱこれいいな〜これにしちゃおうかな」

鏡とにらめっこしながら私は悩む。

ちょっと値ははるけど、やっぱり可愛い!

「美央は何でも似合うよ」

咲子が嬉しいことを言ってくれる。

うう〜、咲子なんていい子なの!大好き!

「咲子はいい水着見つかった?」

「うん、これ試着してみる」

そう言って咲子が持ってる水着を見ると、真っ白なフリルの水着だった。

清楚な感じで、咲子にはぴったりだ。

「いいじゃんいいじゃん!着てみなよ〜」

咲子とのショッピングはやっぱり楽しい。


その後私たちは互いに試着した水着を購入すると、とあるカフェに向かった。

その名も『エデン』。

実は咲子とおにいちゃんのバイト先だったりする。

咲子たちったら、バイトでもラブラブなんだから!

ナチュラルな造りの扉を開けると、涼しげな鈴の音と甘いケーキの匂いが私たちを迎えてくれた。

「いらっしゃ……あら!美央ちゃんと咲子ちゃんじゃない!」

そう言って満面の笑顔で出迎えてくれたのは、このカフェの店長内山さんだった。

女言葉を使う店長は実は、カッコいいお兄さんだったりする。

「店長こんにちはっ」

二人して元気よく挨拶をする。

私も咲子も、店長が大好きなんだ。

「あら二人とも、袋持っちゃって。今日はショッピング?」

さすが店長、めざとい。

私はニコニコしながら答えた。

「うん!今日は水着買ってきたの。楽しかったよ〜」

「やーんもう!私も混ぜてくれればよかったのに〜」

そう言う店長は男前なのになぜか愛らしい。

やっぱり人間、中身が外に反映されるのかな。

なんてことを考えつつ私と咲子はテーブル席につくと、それぞれドリンクを注文した。

本当はケーキも頼みたかったけど……水着を着る日も近いし、今は我慢、我慢!

私と咲子は向かい合いながら、たわいもない話に華を咲かせていた。

「いい水着買えてよかったよねー。咲子の白のやつなんて、ほんとぴったりだし!」

「でもちょっと可愛過ぎて、水着に負けちゃいそう」

「そんなことないよぅ!試着した時もすごい似合ってたし!」

もう、咲子ったら本当に謙虚なんだから。

素直で可愛い咲子の唯一の欠点を挙げるならば、この自信のなさなのかもしれない。

入学したての頃はまだオシャレに目覚めていなかった咲子に、あれこれアドバイスをしたのは実はこの私。

昔、私も冴えない女の子だった。

でも美容師を目指していたおにいちゃんに沢山の「キレイの魔法」をかけてもらって――今では、自信を持っていられるんだ。

だから、オシャレに不器用だった咲子が気になったんだろうな……。

まぁ今ではそんなの関係なく、咲子が大好きなんだけどね。

「咲子もっと自信持っていいよ!あの水着着たらビーチの視線一人占めだよ!」

咲子を励ますべくそんな風に豪語していたら……。

「な、なんだってぇ〜!?」

変な声が背後から聞こえた。

その声の主は……。

「おにいちゃん!」

「し、信也さんっ」

私たちにドリンクを運んできたバイト中のおにいちゃんだった。

トレーがカタカタと震えている。

「さ、咲子ちゃん!そんなに派手な水着にしちゃったの!?」

「えぇ!?そんなことないですよ!」

「でも今『ビーチの視線一人占め』って!ま、まさかビキニなのか!?」

おにいちゃん……そんなことより早くドリンク配ってよ〜。あぁ、零しそうっ。

「今時ビキニじゃない方が珍しいよ、おにいちゃん。大丈夫、咲子の水着はスカートもついてるし……」

「そういう問題じゃないぞ、美央!」

じゃあどういう問題なのか。

おにいちゃんはトレーごとテーブルの上に置くと、咲子の肩をしっかり掴んだ。

「いいね、咲子ちゃん!当日はパーカーをちゃんと着ること!あと俺の傍から離れないで!」

そう言うおにいちゃんの目は真剣だ。

もう、おにいちゃんてば過保護なんだから!

――けれど、どうやら咲子のが一枚上手だったらしい。

咲子は少し悲しそうにこう言った。

「信也さんは私の水着姿見たくなかったですか?」

「えっ……いや……」

戸惑うおにいちゃん。

「見たい……けど」

「ならよかった、ちょっと不安になっちゃいました」

――ううーん……咲子って実は小悪魔系なのかも?

でもこれが計算されてやってるんじゃなくて、天然だから余計に質が悪いのかも。


でも、羨ましいな。

あんな風に、素直に相手に気持ちを言えて。

私は……意地っぱりだから。



――美央ちゃんの悪いところはプライドが高いところと欲張りなところだな――



これは以前、稔くんに言われた台詞だ。

私と咲子がケンカをした時に、稔くんは仲を取り持ってくれた。その時に言われたんだ。

年下のくせに、生意気って思った。

でも……言ってることは的を得ていて。

まるで私の全てを見透かしているかのような稔くんの目を、意識するようになったのはそれからだ……。


(でも稔くんって、何考えてるのかいまいちよくわかんないし……)

天真爛漫。

人をおちょくるのが大好き。

んでもって女の子も大好き。

いつもハーレムに囲まれてる……て、確か咲子が以前言っていたよーな。

私のことを会う度に「可愛い」って言ってくれるのは嬉しいけど、素直に喜べないのはきっと、そのせいなんだろう。

だから私は稔くんの前ではいつも素直になれない。

こんな、咲子とおにいちゃんみたいに自然体でいられる間柄にはなれない。

(羨ましいなぁ……)

目の前で笑い合っている咲子とおにいちゃん。

もう以前みたいなヤキモチは妬かなくなったけど、羨ましさだけが増していく。


いつか、私も。

稔くんの前で素直に笑えたらいいな……。





海旅行前日の夜。

私は荷物いっぱいのトランクと、格闘していた。

「あーん!入らない〜っ!」

ググッと無理矢理押す。

二泊三日の旅行なのに、トランクに入りきらないとはどういうことか。

「もーちょっと……」

あと一押し!……という時に、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

(もう誰よ、こんな時に〜)

しかし携帯電話のディスプレイを見て私のそんな怒りはなくなった。

稔くんだったからだ。

「も、もしもし!?」

慌てて私は電話に出た。

背後からはバフッとトランクから荷物が溢れ出す嫌な音が聞こえた。

『あ、美央ちゃん?今よかった?』

稔くんの柔らかい声が、私の耳をくすぐった。

「う、うん、大丈夫だよ」

なぜか正座してしまう私。

「稔くん、どうしたの?」

『んー……別にただ、美央ちゃん何してるかなぁって思って』

「!」

――もう、どうして……こんなに恥ずかしいことをサラっと言えるの!?

私がそんな何気ない一言に一喜一憂していることを、稔くんはわかっているのかしら。

『準備はできた?』

「今してたとこだよ。稔くんは?」

『俺は今終わったとこ〜』

そんな風に言う稔くんの表情が浮かんで、思わずにやけてしまった。

電話って、不思議。

直接会って話してる時よりも、声がすごく近くに感じる……。

その後私たちは取り留めのない話をした。

明日の海楽しみだね、とか。

ビーチバレーとかしようね、とか。

そんな何気ない話ばかり。

でもそれがすごく……幸せな時間だった。

『……あのさぁ、美央ちゃん』

ふと、稔くんが呟いた。

「ん、なぁに?」

私は何気なく答えた。

稔くんは少しだけためらって……。

『やっぱ何でもない』

そう言った。

「何それー」

『やっぱ言うのは旅行中がいいかなって思って』

「えー何なに。すごく気になるんだけど!」

……ひどいな稔くん。

そんな気のあるみたいな素振り見せて。変な期待しちゃうじゃない。

どうせ、無駄な期待なのに―――。

でもそう思う気持ちと心は別物で。

私の心臓は、ドキドキしっぱなしで仕方なかった。



結局稔くんとは三十分も話をしていて、荷物の準備を再開するのが遅くなってしまった。

明日は早起きしなくちゃいけないのに。

ああ、でも……。

どうやら今夜は……眠れなさそうだ。

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