優しい夫婦
フィナとしての人生が始まって
一ヶ月ほど経ったある日のこと。
今日は、全員食堂へと来るよう
シスター達に言われる。
子供たちが食堂へ集まる。
その中にはフィナもいた。
全員いるかを確認が終わったあと
「皆さん!注目してください!」
手を叩きながら告げるシスターの方を
全員視線が向けた。
「今日はお客様が来ているの。」
「どうぞお入りください。」
そうして食堂へとやってきたのは
若い夫婦だった。
茶髪の柔らかい笑みを浮かべる
眼鏡をかけた男性
栗色の髪を腰まで伸ばした女性
どちらとも優しそうな雰囲気であった。
「この二人はここにいる誰かを
養子にしたいそうです。」
その瞬間
子供たちの目は輝き始めた。
養子になるそれは
つまりそれは家族の一員になれる。
新しい人生を歩むことができるということ。
それは孤児である子供たちにとって
大きな希望なのだ。
「男の子でも女の子でも構いません。」
「ですが、一人だけ迎えたいと思います。」
一人だけ選ばれる
それが一体誰なのかは二人が決める。
子供たちは緊張し始める。
そんな中でフィナは違っていた。
(きっと私は選ばれることはない…。)
前世の時からそうだった
いつも選ばれるのは
異母妹であるアリシアもしくは
別の貴族の令嬢。
たとえ努力したとしても
それは変わることはなかった。
そんな現実を突きつけられ続けた
セレナーデは
いつの日か期待しなくなっていた。
期待してしまえば
更に心を傷つけてしまう。
そうならないために
期待はしない。
フィナは静かに立ち上がり
食堂を出ようとした。
「あら、フィナどこへ行くの?」
「そろそろ洗濯物が乾いている時間だと
思うので、取り込んできます。」
いつもの仕事をしようとしていた。
なぜなら、養子に選ばられるのは
絶対に私ではないから。
そう思っていた。
「待って。」
後ろから優しい声がした。
この声はシスターでも子供の声でもなかった。
振り返って見ると目の前には
奥さんが立っていた。
「あなたの名前はなんていうの?」
「…フィナです。」
警戒しながらも質問に答えるフィナ。
奥さんは優しく微笑んだ。
「いつも、お仕事手伝っているの?」
「はい…。」
「すごいわね!」
その言葉にフィナは戸惑う。
公爵家令嬢だった頃は
できて当然だというのが当たり前。
褒められることなどなかったのに。
今、こうして誰かに褒められると
どう反応をすれば分からず俯く。
「どうした?リーナ」
前から旦那さんがやってくる。
「あなた、この子よ。」
「私、この子が気になるの。」
そう言う奥さんを見て
旦那さんはこちらを見つめ始める。
人に見られるのに慣れていない
フィナはたじろいでしまう。
数分ジロジロと観察された後
旦那さんは優しく微笑む。
「うん。僕も同じことを考えてたよ。」
「え…?」
予想外の言葉に思わず声を出してしまう。
旦那さんはシスターの方へと
振り向いて告げた。
「この子にします。」
子供たちもシスター達も
フィナを見て驚いていた。
何より本人が一番驚いていた。
「私が…ですか?」
「ええ。私もあなたがいいわ。」
どうして?
元気な子や可愛い子や
この沢山いる子供たちの中にいるはずなのに。
どうしてこんなにも大人しく表情が
乏しい私が選ばれるのだろうか。
色々と考え込んでいると
奥さんが自分の方を向きながらしゃがみ
そして優しく顔に触れる。
「どうして?って顔をしているね。」
「…。」
「だってフィナちゃん」
「とても寂しそうな顔をしていたから。」
フィナの瞳が大きく揺れた。
そんなこと言われたことがなかった。
誰にも気付かれずに
誰にも知られたことがなかった自分の気持ち。
この人達はたった一回会っただけなのに
自分の気持ちを読み取ることができていた。
胸の奥が熱くなる。
どうしてか分からない。
どういう感情なのかも分からなかった。
一方で
孤児院の中庭に生えている
木に乗っかって様子を眺めていたノクティスは
興味深そうにしていた。
「ほう…?
面白そうな展開になっているな。」
あの孤独だった少女が
今、誰かに選ばれているのを見て
ノクティスは嬉しそうであった。
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