王家の噂
孤児院での生活に慣れてきた頃
仕事を終えたフィナ・・・
いやセレナーデは、
外に出て中庭のベンチに座る。
慣れた手つきで
紅茶をティーカップに入れる。
少しだけ息を吹きかけてから
紅茶を口にしながら
中庭で遊んでいる子供たちを眺めていた。
本来なら生活に慣れてきて安心しているのに
セレナーデの心の中にはまだ
引っかかっているものがあった。
前世、自分が死んだ後のことだ。
自分が死んで
憎み続けたアリシアとフェンリルは
どうなったのか。
自分にとって最悪な場所であった公爵家も。
気にならないと言えば嘘である。
その日の午後
シスターと一緒に紅茶を嗜んでいる時に
セレナーデは聞いた。
「シスターセフィナ。
聞きたいことがあります。」
「どうしたの?」
「今の…王国は平和ですか?」
シスターは思わず目を丸くした。
「随分と難しいことを聞くのねフィナ。」
苦笑いをしながらもシスターは答えた。
「ええ。今の王国はとても平和よ。」
「今はフェンリル殿下が国王になっているわ。」
その言葉に驚きはしなかった。
なぜなら、彼はあの時から既に
国王になるのは決まっていたから。
「…そうですか。」
「そして、王妃様はアリシア様よ。」
その言葉にも驚きはしなかった。
だって二人は愛し合っていたから
だから婚約したのだから。
「…お二人は仲がいいんですか?」
「ええ。とても仲が良い夫婦らしいわ。」
「息子さんもいらっしゃるし。」
セレナーデは驚いた。
あの二人に子供が産まれたとは…
自分が死んでかなりの年月が経っているとは
思いもしなかった。
「最近、八歳になったらしいわ。」
(その子とは…同い年か…。)
そう心の中で呟きながら紅茶を一口飲んでいるとシスターは首を傾げる。
「でもね、変な噂があるのよ。」
「噂ですか?」
「ええ。」
シスターは声を潜めた。
「本当かどうか分からないけど」
「王妃様は今でも亡くなった
お姉様のお墓参りをしているらしいの。」
セレナーデの瞳が僅かに揺れた。
亡くなったお姉様…
その言葉が誰を記しているのか
当本人は考えるまでもない。
「毎年の命日に必ず
忘れたりせずに行かれるとか。」
「花も絶対に供えたりとか。」
「今でもお姉様の事を考えると
涙を流しているとか。」
「王都では有名な話なのよ。」
セレナーデの
腹の奥底からどす黒い感情が湧き出てくる。
どうして
どうしてそんなことをするの。
私はアリシアを虐げて
殺そうとしたとんでもない
悪女だ。
そんな私になんでそんなことをするの。
どうして私なんかのために
お墓参りをするのこんな私に花を供えるの。
「それだけじゃないわ。」
シスターは続ける。
「国王陛下も
彼女の話題が出ると黙り込むらしいの。」
「黙り込む…?」
「昔のことを悔いているとか」
「どうして彼女のことを知ろうとしなかったのか知っていれば救えていたはずなのに。」
「って言ってたらしいわ。」
「まあ、それも噂だから
本当か分からないけれど。」
後悔ーー
その言葉が
セレナーデの胸に突き刺さる。
どうして後悔しているのか。
悪女である私に。
大切な人を殺そうとした私を
憎まずにどうして後悔しているのよ。
どうして?
真意は本人に確認をしなければ分からない。
けれどもう
それすらもできなくってしまった。
セレナーデは静かに視線を落とした。
そんな彼女を
バレないように屋根から眺めていた
ノクティス。
赤い目を細めながら呟いた。
「今さら知ってどうするんだ。」
せっかく、前へと進もうとしているのに
さっさと忘れてしまえばいいものを
未だに過去に縛られている彼女を見て
ノクティスはため息を吐く。
「…面倒な女だ。」
その言葉とは裏腹に
今日も今日とて
彼女を見守り続けていた。
その頃
豪華な王宮の一室にて
一人の女性は古い肖像画を眺めていた。
美しい水色の髪に
燃えるような真っ赤な瞳を持った美貌の女性。
セレナーデ・エル・ヴァレンシュタイン
アリシアは静かに肖像画に触れる。
「…お姉様」
そう小さく呟いた後、
青い瞳から一筋の涙が零れた。
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