貴族としてではない生活
嫌われ悪女として断頭台で斬首されて
死んでいった自分が
今は、別の少女となって
第二の人生を送ることになるなんて。
信じたくなかった。
けれど現実のようで…。
あれから、セレナーデは起き上がり
木製のクローゼットからこの身体の主のものらしき
素朴のワンピースを手に取り着替えた。
着替え終わったタイミングで
部屋からさっき起こしに来てくれた
幼い少女がやってきて
「フィナお姉ちゃん!
朝ごはんできたよ!」
手を引かれてそのまま食堂へと連れられた。
そこには、沢山の幼い子供たちが集まっていた。
中には自分と同じくらいの年齢の男の子や女の子
この孤児院先生らしき女性達がいた。
皆、私に挨拶をしてくれた。
前世だったら自分に挨拶してくれる相手は
少ないし、こんな風にも賑やかな空気ではなかった。
だから不思議な感覚であった。
それから、席に着いてから
先生達が食事を一人ずつ置いてくれた。
食事は
ふっくらとしたパン
温かいスープ。
少量の、野菜と果物のみ。
公爵家にいた時は、豪勢な食事ばかりであった。
けれど、嫌でないなと感じた。
「いただきます!!」
子供たちの元気な声が響いてから、
皆は食事をし始める。
皆、美味しそうに食事にありついていた。
そんな中でセレナーデはただ、
呆然とスープに映る自分を眺めていた。
そうしていると先生がやってくる。
「フィナ?」
「大丈夫?具合悪い?」
「…いえ。」
慌ててスプーンを手に取ってスープを飲む。
とても優しい味で、思わず
「美味しい…。」と呟いた。
「良かった。」
心配してくれた先生は優しく微笑んだ。
自分を心配してくれ
微笑んでくれる人に。
セレナーデは驚きを隠せなかった。
昼の時間
子供たちと洗濯した洋服を干しに行く。
貴族であれば有り得ないことだ。
令嬢が働きにいくなんて。
けれど、皆
誰もセレナーデを特別扱いしない
媚びようとしない。
ただ、それだけだった。
綺麗に洋服を干したあと
子供たちは庭で遊び始めた。
一緒に遊ぼうと誘われたが優しく断り
私は木陰で子供たちを眺め続けた。
木陰で無邪気な笑顔で遊んでいる様子の子供たちを
見ていると、服の裾を掴まれる。
ふと後ろを振り向くと
小さな女の子が。
「フィナお姉ちゃん、これあげる!」
シロツメクサの花冠をくれた。
シロツメクサを見れば思い出す。
一人部屋で読書をしていると、
アリシアが入ってきてあげると言って
くれたシロツメクサの花冠。
その際私は、結構だと断って
読書の邪魔をしないでちょうだいと言って
追い出したんだっけ。
胸が苦しくなる感覚がした。
そんな彼女に女の子は心配したような顔をする。
「フィナお姉ちゃん?大丈夫?」
「もしかして嫌だった?」
その言葉に思わず首を横に振った。
嫌ではない。
ただ、どういう反応をすればいいのか分からなかった。
こんな自分にプレゼントしてくれるなんて。
セレナーデは、優しく女の子から
シロツメクサの花冠を受け取る。
そして優しく微笑む。
「ありがとう。」
女の子は満面の笑みを浮かべる。
そして他の子供たちに遊びに誘われて
セレナーデに手を振ってから走っていった。
自分に無邪気な笑顔を向けてきて
自分に純粋な好意を向けてくれるなんて。
ずっと前世の頃から望んでいたことなのに。
いざ、経験してみると
不思議な感覚であった。
セレナーデは、強く花冠を握る。
今、どうしてこうやって生きているのか。
どうして転生したのか。分からない。
けれど確実に凍てついていた彼女の心を
段々と溶かしていく。
そんな彼女の様子を
孤児院の屋根の上からノクティスは眺めていた。
変わっていくセレナーデに
思わず微笑む。
「変わっているな。」
先程死を望んでいたというのに
今はもう死を望んでいるように見えない。
そう考えると
何故か安堵ししてしまうノクティス。
フンと鼻を鳴らしたあと
「今後、変わっていくのが楽しみだ。」
と言いながら再び眺め始める。
嫌われ悪女であった彼女を。




