死んだはずの私は…
暗闇の中にいた。
何も見えない、何も聞こえない。
ただ静寂だった。
それはそうか。
だって私は死んだのだから。
首を切られて意識が途切れたのを覚えている。
これでようやく終わった。
辛い記憶も嫌な記憶も
忘れられない憎しみや怒りも
全て手放せる。
これで私は解放される。
そう思っていた。
ふと、誰かの声が聞こえる。
「フィナお姉ちゃん!」
知らない女の子の声だった。
「フィナお姉ちゃん、起きて!」
フィナとは誰?
私の名前はセレナーデよ。
そう思った瞬間、意識が段々と戻っていく。
眩しい光が飛び込んでくる。
思わず目を細める。
見慣れない天井
小さな空間、木造の家具達。
微かに感じる花の匂い。
「フィナお姉ちゃん!」
再びそう呼ばれて振り向くと、
五歳ぐらいの女の子が部屋に入ってくる。
ふんわりとしたボブヘアーに
素朴な白いワンピースを着ていた。
しかし、セレナーデはこの女の子を知らない。
「…あなたは誰?」
そう問いかけると女の子は首を傾げる。
「…フィナお姉ちゃん寝ぼけてるの?」
「もうすぐで朝食の時間だよ?」
朝食の時間?
一体どういうこと?
私はもう死んだはずよ…。
一体何が起こっているのか分からない。
セレナーデは身体を起こす。
ふと違和感を感じた。
身体が明らかに軽い。
そして視界に入った手。
とても小さくなっていた。
公爵家令嬢として育ったであろう
自分の手ではない。
「え…?」
心臓がドクンとなる。
思わず、ベッドから降りて辺りを見回す。
そして鏡台を見つけ近づいてみると。
セレナーデは目を見開いた。
そこに映ったのは、セレナーデはない
誰かだった。
明るいベージュ色に、琥珀色の瞳をした少女。
(…誰?)
動いてみると鏡の向こうにいる
少女は自分と同じ動きをする。
思い切って、頬を引っ張ってみれば
痛いと感じる。
夢でもない。
幻想でもない。
現実であった。
フィナが挙動不審で、戸惑った少女は
心配そうに話しかける。
「フィナお姉ちゃん…大丈夫?」
フィナ
この身体の主の名前か。
頭が混乱するセレナーデ。
可笑しい…
私は死んだはず。
だって首を切られた感覚と、
意識が途切れた瞬間を覚えている。
なのに。
どうして私は生きているの?
どうして別人になっているの?
何が何なのか分からなくなるセレナーデ。
すると、ふと部屋の窓から視線を感じて
見てみると。
数人の女性たちが洗濯物を干しているのが
見える。
そして物干し竿の近くに
小さな看板が立っている。
書いてあるのは
「マレイア孤児院」と書いてあった。
それを見た瞬間セレナーデは理解した。
自分はもう、
悪女セレナーデ・エル・ヴァレンシュタイン
ではない。
今は、知らない誰かになっていることを。
「…どうしてよ。」
思わず呟いた。
どうして私は生かしたのか。
ようやく解放されたと思ったのに。
神様はそれを許さないというのか…。
涙が零れそうになるが零れなかった。
泣くことができなくなっているのだ。
一方
孤児院に生えている大きな木の幹の上に
座り込んでセレナーデを見ている。
ノクティス・アークレインは呟く。
「…やはりそういう反応をするか。」
小さく笑うノクティス。
「見せてもらおうか。」
「第二の人生で、」
「お前がどうしていくのか。」
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