嫌われ悪女 セレナーデ・エル・ヴァレンシュタイン
誇り高く美しい公爵令嬢
セレナーデ・エル・ヴァレンシュタイン
彼女が最後まで願い続けたのはただ一つだけ。
愛して欲しい。
ヴァレンシュタイン公爵家の長女として生まれたセレナーデ。
美しい水色の髪に燃えるような真っ赤な瞳を持ち見ると誰もが、
振り返ってしまう美貌を持った少女。
しかし、
彼女の人生は恵まれていなかった。
父であるヴァレンシュタイン公爵は、
母であるエリーラを愛していなかった。
政略結婚で
結ばれたにすぎないということだろう。
しかし、母エリーラは
セレナーデに沢山の愛情を注いでいた。
「大好きよ愛しいセレナーデ。」
幼いセレナーデは、
母がこの世で一番大好きな存在だった。
例え、
父に愛されなかったとしても
寂しくはなかった。
母が居てくれる
愛してくれる優しく抱きしめてくれる。
笑ってくれる。
それだけでセレナーデは幸せだった。
しかしその幸せは長く続かずに。
セレナーデが七歳の頃ある日
エリーラは病で倒れた。
そしてすぐに帰らぬ人となってしまった。
ベッドで横になりながら
大粒の涙を零しながら見つめるセレナーデに
何度も愛していると何度も言い続けて
「この世で一番大切なセレナーデ。愛しているわ。」
セレナーデを抱きしめながら
最後の愛しているを伝えたあと
エリーラは永眠した。
母を失った日、
セレナーデは一人ぼっちとなった。
その数ヶ月後
父であるヴァレンシュタイン公爵が
一人の女性と自分よりも幼い女の子を
迎え入れた。
アリシア
セレナーデの異母妹。
金色の髪に青い瞳で人形のように美しい少女。
父は、迎え入れた女性とアリシアを愛した。
まるで、
最初から本当の家族だったかのように。
食事も、お出かけも、誕生日も。
アリシアが中心となっていた。
そんな輪の中にいながらも
セレナーデだけが一人取り残されていた。
アリシアは悪い子ではなかった。
寧ろ優しい少女であった。
自分を「お姉さま」と慕ってくれ
仲良くなろうと話しかけてくれた。
しかしその優しさが
セレナーデを苦しめていた。
どうしてあなただけ愛されて、
どうして私は愛されないの?
ふと思ってしまったものが
心の中に絡まり続けて
やがて、心を蝕んでいき
嫉妬と憎しみに変わっていき
アリシアに対して当たりが強くなっていった。
そのせいで周りからは
妹を虐げる悪女だと
噂されることとなってしまう。
しかし、周りは気づいていなかった。
彼女の心が壊れてしまっていることに。
十五歳の時
セレナーデは初恋の相手である
王太子フェンリルに告白をした。
真面目で誠実な彼に惹かれて
勇気を振り絞って告白をした。
しかし
「悪いが、君の想いには応えられない。」
王太子フェンリルはセレナーデを拒絶した。
フェンリルにも届いていた。
セレナーデは、アリシア以外にも
悪質なことをしていることを。
王太子として人間としてセレナーデを
受け入れられない。
当然のことだった。
それでもセレナーデの耐えられなかった。
初恋で想っていた彼に拒絶されるのは。
数ヶ月後
フェンリルとアリシアが婚約した。
ヴァレンシュタイン公爵も義母も
アリシアを舌打ち人達も皆が
二人を祝福した。
一人を除いて。
二人が婚約したと話を聞いた瞬間
セレナーデの心は完全に砕かれた。
それと同時に
今まで膨れ上がっていた怒りと憎しみが
限界を迎えてしまい。
犯罪に手を染めることとなってしまう。
誰にもバレないように
違法毒物の入った小瓶を手に入れる。
婚約の祝儀で
アリシアの席に置いてある
ジュースの入ったグラスに違法毒物を入れた。
そして、セレナーデの予想通り
アリシアはジュースを口にすれば
血を吐き出して倒れた。
会場にいる人達は皆驚いていた。
無論、恋していた王太子フェンリルも。
そんな中で、セレナーデは
静かに血を吐いて苦しむアリシアを
医務室に運ばれるまで
ずっと眺め続けていた。
アリシアは幸い命は無事であった。
そして、始まる
アリシア毒殺未遂事件の捜査
結果、犯人はセレナーデであった。
セレナーデは捕まり投獄された。
投獄された日に
王太子フェンリルがやってきた。
「どうしてあんなことをした…!!」
怒りと悲しみを滲ませた声でそう言われる。
セレナーデは思わず笑ってしまう。
そしてフェンリルに告げた
今までの出来事。
全てを聞いたフェンリルは
言葉を失ってしまう。
「…殿下、私はもう壊れていたのです。」
「こんなことで壊れない人間なんて
どこにいるというのですか。」
その言葉にはフェンリルは何も言えなかった。
彼女は元々壊れていたのだ。
そして、自分も彼女の心を壊していたと。
セレナーデの裁判が行われる。
判決は王太子妃候補であるアリシアを
殺そうとした罪により斬首刑となった。
セレナーデは何も反論はせずに
全てを受け入れていた。
処刑当日。
曇天で今にでも雨が降ってしまいそうな時
セレナーデは鎖に繋がれながら
断頭台へと向かっていた。
自分に対して冷めた瞳で見てくる人達を
気にせず歩いていると。
「お姉さま!!!」
遠くから叫び声が聞こえた。
自分をお姉さまと呼ぶのは
たった一人しかいない。
アリシアであった。
涙を流しながら人をかき分けて
こちらへと近づこうとしていた。
「お願い!!お姉さまを殺さないで!!」
必死にこちらへと手を差し伸べてくる。
しかしセレナーデはアリシアの方へ向かずに
断頭台まで歩いていく。
手は時すでに薄汚れている。
今さら手を伸ばされたって遅い。
そして断頭台まで着いて
死刑執行人がセレナーデの罪状を告げられる。
その後、首を晒すように断頭台に跪かされる。
跪かされた瞬間に
ポツンとポツンと何かが落ちてくる。
雨のよう。
セレナーデはゆっくりと目を閉じた。
これでようやく終わる。
ようやく解放される…。
次の瞬間、首に激痛が走った。
しかしすぐに引いていき
セレナーデの意識はなくなった。
こうして、嫌われ悪女のセレナーデの
人生は幕を閉じた…はずだった。
空の上で
「哀れな女だ。」
人の死を見届ける死神
銀髪で赤い瞳を持った男
ノクティス・アークレインは
ずっとセレナーデのことを見ていた。
読んでくださりありがとうございます!




