家族は代筆屋
自分が選ばれてしまった。
その事実が信じられなかった。
呆然としているフィナに
奥さんは首を傾げる。
「フィナちゃん…嫌だった?」
フィナは首を激しく振った。
別に嫌である訳では無い
ただ選ばれたことに驚いているだけだった。
そしてこの日から数日間
養子縁組の手続きが行われて
正式にフィナは二人の養子となり
孤児院を旅立つ日がやってきた。
「元気でね!フィナお姉ちゃん!」
「また遊びに来てね!」
「幸せになるのを願っているわ。」
涙を流しながら見送ってくれる
子供たちやシスター達に
胸の中が温かくなった。
前世では
別れを惜しまれたことなどなかった
寧ろ周りは
別れを喜んでくれる事を喜んでいた。
けれど
孤児院にいる子供たちやシスター達は
悲しんでくれた。
一ヶ月間しか関わりがなかったのに。
「…ありがとう。」
小さく呟いて笑顔を向けた後
フィナは夫婦達に手を引かれながら
馬車へ乗り込んだ。
それから馬車は動き始めてから
中で奥さんであるリーナは
フィナに優しく声をかける。
「緊張してる?」
「…少しだけ。」
そう言うと旦那さんである
オールダーがフィナの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。」
「絶対にフィナを幸せにしてみせるよ。」
フィナは瞳が僅かに揺れた。
母親が亡くなってからこんな風に
優しく頭を撫でてくれたことはなかった。
こんな風にしてくれたのは
久しぶりだったこともあり落ち着かなかった。
けれど嫌とは感じなかった。
王都から離れた街まで馬車は走り続け
やがて馬車が止まる。
「着いたよ。」
馬車の扉を開いて、
フィナに優しく手を差し伸べる。
優しく手を取り馬車を降りた後
フィナの視界に入ったものは
白とベージュを基調とした
小さな屋敷だった。
ヴァレンシュタイン公爵家とは
比較的小さい。
けれどどこか温かみのある屋敷だった。
庭には色とりどりの花に
綺麗にされている芝生。
どれほど大切な屋敷であるか分かった。
「ここが、僕たちの屋敷だよ。」
その言葉にフィナは胸の中が少しだけ揺れた。
帰りたいと思う家・家族
かつてずっと欲しいと思っていたもの。
それが今、帰りたい家と家族がある。
まだ実感はできていなかった。
屋敷の中へと案内される
公爵家とは違って豪勢な飾りや家具などはない。
けれどしっかりと掃除をされていて
どこの空間も全て清潔。
リーナとオールダーの
部屋を案内された後
オールダーが特別にと
仕事部屋を案内してくれた。
たくさんの本が置いてある本棚
執務机には沢山の紙と、
羽根ペンやインク壺が置いてあった。
それにフィナは首を傾げる。
「お父さん…これは?」
「ああ、これ?」
オールダーは嬉しそうにしながら答える。
「これはね手紙を書くためのものなんだ。」
「手紙…?」
聞きなれない言葉であった
オールダーは優しく説明をし始める。
「僕やリーナはね。
代筆屋をしているんだ。」
「代筆屋…?」
「そう。
届けたい人への想いを綴る仕事だよ。」
「例えば、遠いところにいる
家族」
「友達や恋人だったり」
「謝罪や感謝したい人だったり」
「色んな人に手紙を書いてるんだ。」
フィナは…セレナーデは
唖然としていた。
手紙とは自分で書いて自分で送るものだと
思っていた。
しかし、届けたい人への想いを綴るという
そんな職業があるとは…。
少しだけ関心を抱いた。
「色んな人が依頼してくれるんだ。」
「嬉しい気持ちを伝える人」
「悔いて謝りたい人」
「好きだと伝えたい人」
「最後に、想いを伝えたいという人」
「色んな人達の想いを受け取って
預かるお仕事なんだよ。」
オールダーから説明を受けたものの
フィナはあまり分からなかった。
想いというものが分かっていれば
オールダーの言っていることは
分かっていたかもしれないと思うフィナ。
「難しそうな顔をしてるね。」
オールダーは笑いながら
フィナ頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。」
「いつか分かるようになるから。」
その言葉にフィナは小さく頷く。
仕事部屋を出てからは
二人が用意してくれた部屋へと案内される。
夜には星空がはっきりと見える大きな窓のある
部屋。
フィナはすぐに気に入った。
そんな様子を遠い場所から
ノクティスは眺めていた。
「代筆屋を営む人間達の養子となったか…。」
「面白そうだ。」
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