寿命
お医者さんがネコをみて、なんとかネコのいのちがたすかった。
朝になって帰った私たちは、リビングでならんですわっていた。
「それで、どうするの礼司さん? 本当にこのネコ飼うつもりなの?」
お母さんは私じゃなくて、お父さんに聞いた。
テーブルにしかれたタオルの上で、スヤスヤとネコはねむっている。
ネコをひろったのは私なのに……とブスっとしたきもちになった。
「真由貴はどうしたいんだ?」
けどお父さんはすぐ私に質問をなげた。
「飼いたい。だって私、こいつに『たすけて』って言われたんだもの」
「動物がそんなことしゃべるわけないでしょ? まったく。私は反対よ。医者だって言ってたでしょ? この猫の命はもう長くないって」
お母さんはお父さんにうったえかける目をむけた。
「もう15歳よ。人間で言えば75歳。そんな年寄りを養ってる余裕、これ以上ウチにあるわけないでしょ?」
とげをチクッとさすような言いかただった。お父さんは顔をムッとさせる。けどちょっと時間がたってから、お父さんはどっかりと椅子にせなかをあずけた。
「俺は別に、真由貴が猫飼ってもいいと思うんだけどなぁ」
ちょっとそれは、言いかえすような口ぶりだった。
「礼司さん! 本気で言ってるの? 私は嫌よ! 昨日みたいに吐かれたら床が汚れちゃうじゃない!」
「しばらくの辛抱さ。どうせそいつは1、2ヵ月したら死ぬって医者も言ってたじゃないか。真由貴が世話をして、実際に猫が死ぬのを見たら、真由貴も後腐れなくちゃんと納得できるだろ?」
「それは、確かに、そうかもしれないけど……」
お母さんがとなりの私にチラリと顔をむける。
それはなにか、かわいそうな人でも見るような目だった。
「真由貴、あんたはホントに飼いたいの? 私たちが面倒見たって、どうせすぐ死んじゃうのよ?」
「飼いたい。だってこいつ、私に『たすけて』って言ってたから」
私は同じ言葉をもういちど言った。
まっすぐじっとお母さんを見る。
しばらくお母さんは口をとじていると、はぁ、と大きなためいきをついた。
「……わかったわよ」
お母さんは立ちあがり、めんどくさそうにレイゾウコにむかって歩く。
「けど、あんたが最後まで面倒見るのよ。もし途中で世話を投げ出すようなら、お母さんすぐ捨てるからね」
「うん、わかった!」
私はうれしくなってネコをなでる。
はじめてわらえたような気がした。
スヤスヤとねむるネコは、もうつめたい体じゃなかった。




