シロンの夏休みの会話 「罠」最終編
「男」のスマホが鳴る。ちら、と見てやや顔を曇らせる。
「『狼牙』を見張っている部下からです」
「えっ」声を出すシロン。
「もしもし」
「…え、逃げた!?」
「さっき、いきなり窓を突き破って?!」意外そうな「男」の声。
思わず近づく犬耳娘。
「今日一日は眠ってるのではなかったのか?」狐耳ママが訊く。
「そうですよ、意識は完全に眠っている筈…」
「おそらくは洗脳…」
「いや、二重の洗脳?、捕らえられた後に、逃げ出すような…」
「男」は再びスマホに言う。
「ああ、無理に追わないでください、いえ、全く予想外でした。待機続けて下さい…」
一瞬重苦しい沈黙。
しかしシロンは言う。
「アイツ、アタシに殴られた時、最後、涙流してたんだ」
「アタシ見たんだ、ホントだよ!」
「あの時、ゼッタイ、アイツ、後悔してた!!」
「そうかねえ」冷たく否定する狐耳。
「アタシ、そうだって信じたい、いんにゃ、信じる!」
「さもなきゃ―」
うつむくシロン。
「犬神の血を引くモンが、あんな事、言うなんて、思いたくないよっ!」
優しくなだめる「男」。
「いいじゃないですか、信じておいて貰いましょうよ、ママ」
「…ふん、甘いのう」
そっぽを向くママ。
「そんなものは、子供のうちだけじゃぞ」
うつむいた顔を無理矢理のように上げる。
「そのとーり、アタシ、子供だもん!」
「甘いの、だーい好き!!」
やれやれと言った風情の狐耳。
「勝手にせい」
しかし、ニタリと笑う。
「…じゃがお主には、今は『お子様でない部分』があるが、それはどうする?」
「なんだよ、そりゃ?」ピンと来てないシロン。
「これじゃ」胸の前に両の掌を出すポーズ。
「う…」黙り込む犬神娘。
「それに服はどうする」
「今持っている『貧乳服』に、その巨乳は入るまい?」
「おまけに、下着も持っておらぬじゃろ?」
「え、あ、そ、それは」あたふたする少女。
「サービスじゃ、わらわがセンスの良いのを選んで進ぜよう」
嬉しそうな狐耳。
「センスはお願いすっけど…」しぶしぶ頷くが、
「…何かイヤラシイのは、嫌だよっ!」
「…ちぇっ」
見抜かれたか、という雰囲気のママ。
…店を後にする三人連れ。
「何でスポーツブラ、なんていう色気の無いのを選ぶのよ」
狐耳をしまい、すっかりバーのママに戻ったママがぼやく。
「アンタに似合いの『見せブラ』があったのにぃ」
「清純な乙女に、んなモノ選ぶなっ」にらむシロン。
「そーお?、その胸で清純って言っちゃうのは、ちょっと無理あるんじゃなーい?」
ある意味図星の発言に、溜息をついてしまう。
「ちぇえっ、何でこんな胸になっちゃったんだ」
「せっかくそんな良い『モノ』授かったんだからぁ」
「上手な使い方を教えてア・ゲ・ル」シロンの顔を覗き込む。
「アンタに初めて会った時に『いろいろと教え甲斐がありそう』ったのは、コレか?」
あきれ顔のシロン。
「ようやくわかったぁ?」明るく言うママ。
「分かりたくなかったけど…」
そう言って、うつむいてポツリと言う。
「…あんがと、みんなで慰めてくれて」
「なによ、慰めてなんか…」
ママの言葉を遮る。
「イトコの、あの『狼牙』、もう、会えないんだろ…」
「…もう、生きてない、んだよな、もう、二度と…」
シロンの肩が震え始める。
「言うな―」
それだけ言って、両腕を広げて見せるママ。しりぞく「男」。
しばらくは、すすり泣きがママの胸を濡らしていった…




