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シロンの夏休みの会話 「罠」の解説編

「犬神を、命を!、なんだと思ってんだあ!!」

シロンの血を吐くような絶叫。

その時、拳がめり込んだままの『狼牙ろうが』の眼から―

…こぼれる一筋の涙。

しかしその瞳はそのまま、ぐるん、と上向く。

白目をむき完全に事切れた『狼牙ろうが』は、真後ろに枯れ木のように大の字に倒れ落ちた。


血にまみれた右こぶしを握り締めるシロン。

その肩がわなわなと震え出し、その両目からは大粒の涙。

「いやだ、ヤダよこんなの…、おかあさん―」

敵を倒した爽快感、など一切なく、泣きじゃくる。


その時、扉がバン、と開いて息せき切って下から駆け上がって来たらしい「男」が現れる。

「―シ、シロンさん、ママッ!」

しかし泣きじゃくるシロンの肩を抱くママ…

そして、大の字に倒れる顔面真っ赤の『狼牙ろうが』を見比べ、唖然としてしまう。


「―あ、あの、これは一体?」


「良い所に来たのう、お主の得意技『後始末』を頼む」

「わらわはこのを慰めてやらねばならぬゆえ」


「え?、いや、ちょっと、事情が全く呑み込めないんですが??」

シロンの肩を抱え、さっさと階下に消えようとする。

「…ち、ちょっと、ママ!」


…そして翌朝。そこはママの自宅のマンション。

ピンポーン。


「おう、ドアは開いておるゆえ入って来りゃれ」

ドアを開く「男」。

そこには狐耳のママが、DKのテーブルでブラックコーヒーを飲んでいた。

軽くあくびをしてママが言う。

「で、あの『狼牙ろうが』という奴はどうした?」


「犬狼男?、なんて医者に連れて行けませんからね…」わざと首をすくめる。

「しょうがないんで闇医者に金をはずんで、応急処置をしてもらいました」

「鎮静剤を大盛にしてもらいましたので、目を覚ますのは明日くらいでしょう」

なんだか落ち着かない様子の「男」。

―自分の分のコーヒーも出して欲しい、のではなさそうだが。


「聞きたいことがありそうじゃの?」どこか得意げなママ。


「ええ、いくつもね」

はい、私の負けですよ、と言いそうな「男」。


「順を追って話そう」

「まず、何故『フェロモン』とやらがあのに効かなかったのか、からじゃが…」

「あのは、『犬神』である事は知っておろう?」

当然の事のように頷く「男」。


「この世には様々な『神』がおる、千差万別じゃが、それらの共通している点を無理矢理上げれば…」

「まず一つは、人間よりはるかに長命であること」


「…確かに神と名乗る者が、人間より早く死んではカッコつきませんね」腕組みをする。


「もう一つは、ある程度自分で自分自身を、設計デザイン制御コントロールできる事―」

「雷を落としたいと思えば出来る、巨大化したいと思えば出来る、龍に変化したいと思えば出来る」

「…多かれ少なかれ、いかにも神らしい力であろ?」

「神に等しいわらわがそう言うのじゃ、間違いないわい」


首を竦めるしかない「男」。


「さてシロンじゃが、あのは、人間の尺度で言うと、高校一年生じゃったな」

「つまり生まれてから十六年じゃ、でもそれは『犬神』の尺度で言うと、どうであろう…」

「そう、シロンの親父は、見た目では四十歳くらいに見えなんだか?」


「まあ、それくらいですかね」考える「男」。


「あの父親は、たしか生まれて四百年以上と言ったそうじゃな」


ママの問いに、記憶をたどる「男」。

「ああ、戦国時代の末に生まれたと言ってましたね」


「では大雑把に、『犬神』は人間の十倍程度の寿命を持つ、と考えようか」

飲み干したコーヒーカップを傍らに押しやるママ。

「つまり実際は四百歳以上でも、見た目は四十歳。それをシロンに当てはめれば…?」


「えーと、見た目は十六歳なら、実際は…」ちょっと考える。

「…え、ええっ?、一歳ちょっと?!」

驚きの表情の「男」。


「その通りじゃ、あのシロンは、『犬神』としては『幼児』なのじゃ」


「見た目は確かに十六歳、人間なら子を産む事は可能じゃろうが…」

「本体の『犬神』としては、全く未成熟の『幼児』!」

「男」に笑いかける狐耳。

「…そんなシロンに、『フェロモン』など効くはずが無かろう?」





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