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シロンの夏休みの会話 街での出会い編

「なんだお前」「あっち行け!」

威嚇する二人のチンピラ。しかし構わず歩いて来る人影。

「この野郎!」

腕を振り上げ殴り掛かる一人、一瞬遅れて続くもう一人。


見えたのは一瞬。

まず何気なく突き出されたようなその右手のひら。

ーボギャッ!

肉体の異常な変形音を残しすっ飛んでいくチンピラ。

シロンのすぐ右上を飛び越し、見事に三人のチンピラにヒット!、なぎ倒した後、動きはない。


続いて襲い来るもう一人、次の一瞬見えたのは上に払い除けるような左手の動きだけ。

―ボゴオッ!!

何かの砕ける音と共に、勢いよく上空に飛びあがる身体。

路地の両側は四階建てのビル。

少し斜めに舞い上がるチンピラはその屋上に、狙ったように、飛び落ちた。

わずか一瞬、いや二瞬で無力化され沈黙してしまうチンピラ五人。

明らかにモブの最後らしかった。


上手く屋上に落ちたかを確認するように上を見上げる人影。

そのパーカーのフードが背の方にずり落ちる。

その頭に現れるのは、黒っぽい灰色の犬の…、いや狼の耳。

そしてゆっくりと顔のマスクを外す。

見えるのは、犬歯というには大きすぎる、どう見ても「牙」としか言えない口許。


気圧されたように声の出なかったシロンが、喘ぎながら尋ねる。

「…アンタが、『犬神いぬがみ 狼牙ろうが』?」

ほんの二、三mで対峙たいじする二人。


やや斜めの立ち位置で、シロンを冷ややかな目で見降ろす、背の高い男。

「…」返答は無言。


それでも一生懸命、語り掛けるシロン。

「アンタのオヤジと、ウチのオヤジ、昔いろいろあったんだろ」

「ウチのオヤジやアタシに、何か言いたいコトがあって来たんだろ?」

「…だったら、それを言って!」

溢れ出る言葉は続く。

「悪口、ウラミ、どうしようもない気持ち―」

「どんなコトでも、アタシ、聞くからあ!」

「ね、お願いだか…」


しかし『狼牙ろうが』のあまりに感情の見えない瞳に、つい押し黙るシロン。


暖簾のれん腕押うでおし、ぬかに釘?

いやそんなものでは無い。

心を閉ざしているのではない、無視しているのでもない。


ひやり、と感じる冷たい感覚、それはまるで、待機している「装置」。

その眼は監視カメラであるかのように、見つめる。


「…何だよコイツ」戸惑うシロン。

でも行かなきゃ何も始まらない―、シロンが一歩近寄ろうとしたその時、


―ダッ、といきなり駆け寄る『狼牙ろうが』!


「なっ?!」

―驚き、ついジャンプして上空に逃れるシロン。


狼牙ろうが』はそれを見ると、ズボンの両のポケット辺りを、バン、と叩く。

ボッー、その両脚の筋肉が一瞬で異様に弾ける。

その麻のズボンがビリ、と裂けるほどの!

―ダンッ!!

そして飛び上がり、うなりをあげてシロン目がけてすっ飛んでくる!


「うっそぉ!」

思わず足を伸ばし、そばの壁を蹴る!

何とか身体をずらしたシロンをかすめていく狼耳!!

交差する一瞬、その眼がシロンを見たのがはっきりと分った。


そして屋上辺りまですっ飛んで行った『狼牙ろうが』は―

またも、ダンッと壁を蹴り、再びシロンに迫ろうとする。


「―ヤベッ」

シロンも壁を蹴り上がり、屋上を飛び越し逃げる。

それを追う『狼牙ろうが』。


屋上やビルの壁、貯水塔の上を、間を、走る、跳んでいく!

おかしな街中の「追いかけっこ」が始まった!!


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