シロンの夏休みの会話 街の追いかけっこ編
狭い路地から、シロンが、そして『狼牙』が飛び上がり、追い掛け合っていく。
それを傍らのビルの屋上の隅から、あきれて見送る狐耳のママ。
「何とまあ、派手じゃのう」
「若さと筋肉にまかせた勢いにはついていけぬわ」
遠ざかっていく二人。
「九尾本体なら体力勝負は楽勝なのじゃが、この姿では…」
ふわっと身体を浮かせて、後を追うママ。
「移動は妖力頼み、付かず離れず行くしかないのう」追い掛けつつスマホを取り出す。
場面は変わり、「男」。
「…ええ。はい、分かりました。ママは引き続き追ってください!」
手下の角刈りと筋肉質が運転する車を呼び寄せる。
「ビルの谷間を追いかけっこって『パルクール』ですかね?!」
「お待たせしました」
「で、社長、どこへ?」
「…しばらくは待機です」
「何か派手にパルクールやってるらしいですから」
「へえ、それって、ビルの間を走って跳んで登ったりするカッコいいパフォ-マンスでしょ?」
「凄いっすねー」
「はは、でも追っかける方は大変ですよ」苦笑いの「男」。
「しかし、ヤツが真正面から攻めてくるとは思いませんでしたよ」
男のぼやきに返す手下。
「え、どういう事っすか」
「あの『狼牙』という男、何か卑怯な手を使って、シロンさんを引き離して…」
「…何か罠でも、仕掛けてくると思っていたのですがね」
…と、今の状況を手短に告げる。
「え、引き離してって…」
振り返る角刈りと筋肉質。
「…いま、その通りになってないっすか?」
「ーいや、それは…」
言いかけて動きの止まる「男」―
…そしてぱちんと自分の額を叩く。少しの沈黙。
「ありがとうございます」
「私がとれだけアホか教えてくれて」
にこやかな男の笑顔だが、手下たちはかえって押し黙る。
なんせ今のが、皮肉か本気かが全く分からないからだ。
しかし「男」は思索にのめり込む。
どこで間違えた?
『狼牙』の今の行動にどんな意味が??
彼は親の敵を討つ、恨みを晴らしに来ると思っていた、そこからか?
そう、思いを込めて、感情的に来ると思っていた、そう、復讐に来ると!
『狼牙』その本人が、親の怨念、自分の境遇…
そんなものをぶつけてくると思っていなかったか?
でも違う。なぜ、違う?
それは―
『狼牙』その本人の復讐、ではなくなっているから?!
そうだ、集団『異能』の幹部、『牧場主』の元に彼は居たのだ。
敵討ちの、その意図が、ソイツによって歪められたのでは?
『異能』の『牧場主』、ですか…
たしか報告では、人道を外れた人体実験、人と獣との交配、獣人の作成などなど…
…本当にイカレたマッドサイエンティスト、ですね。
他人を家畜としか見ていない…、ん?!
…まさか、その意図は?!
はっ、と顔を上げる「男」。
思わず振り返る手下たち。
…もし、そうだとすれば、『牧場主』!
許しがたい、ですね!!




