シロンの夏休みの会話 街のチンピラ編
「街の南西、ってことはあっちか」
大通りの繁華街から少し外れた雑居ビル群、を進んで行く。
「道、あんまり分かんないケド、真っ直ぐ行ってりゃ出会えんだろ」
「アッチも、こっちを探してるんだもん」
オヤジと喧嘩別れしたオジサン、の子供か―
イトコってやつ?!
血縁―、シロンには経験した事の無い間柄だ。
「マジで会いたくねえけど」
「会わなきゃ、だなー。フクザツぅ…」
やがて道の前には二つのビルが遮る。その間には人が二人並んで通るには狭いほどの路地。
「ここ…、行くしかねえか」
二、三十m程の路地、そこには錆びた裏口や非常口、そして上下に延びる古い配管。
そして三、四m上に無造作に居並ぶエアコンの室外機。
典型的な街の裏道だ。
真ん中手前ほどに来たシロン。その行方に人影が現れる。一瞬警戒する。
がそれは、Tシャツとトレーナーを着た二人の若者、気楽な様子でぶらぶらと歩いて来る。
…しかしシロンの後ろからも気配。
振り返ると、アロハシャツを着たやや年配の男、その後ろについて来る手下らしき二人。
みんな、いかにも「ザ・チンピラ」と言った雰囲気だ。
シロンを挟んで五、六歩のところで足が止まる。
「よう、久しぶりだな、白神」
年配のチンピラの右隣、半そでシャツの若造が言う。
ちょっと考えて言うシロン。
「アンタは、まさか…、もぶ?」
その若造チンピラは首を傾げる。
「ああん?、俺は茂部なんて名前じゃ…」
いきなり横の年配チンピラが若造の頭を張り飛ばす。
「い、イテッ」
「遊ばれてんのが分からねえか?!」
「へ?!」
「てめえ『モブキャラ』って言われてんだよ!」
「…なん、だとおっ!」
「―うん、ぜーんぜん分かんね、ホントあんた何?」
唾を飛ばして喋り出す。
「今年の春、入学式で会っただろ…」
「あ、あーあっ!」チンピラの言い掛けをぶった切り、バシンと手を叩くシロン。
「アタシのダチにちょっかい出すから、足の指踏みつぶされたってヤツぅ?!」
「あははっマヂ、イメージ記憶の中だけの『モブ』じゃんっ!」
「う、ぐっ!」拳を握るチンピラ。
「ロクな卒業生じゃねぇっ、て思ってたけどー、本当にロクでもなかったんだー、ケッサクぅ!」
けらけら笑い転げるシロン、…が、
「…、お、おっといけね、こんな事してるバアイじゃねー」
自分の笑いを自分で打ち消す。
「なあアタシ大事な用があるんだー、見逃したげるからぁ、あっち行って?」
理解不能なチンピラたち。
「ーは、何言ってんだ、お前??」いら立つ年長チンピラ。
「グダグダぬかすと。いてこますぞ!」
「わ、わーっ!」何でか大喜びするシロン。
「ホントーにあるんだぁ、そんな言い方」
「なんつーの、下品な迫力っ、つーかあ?」
こめかみ辺りに怒りが噴き出してるチンピラ。何か言いながら一歩踏み出そうとする―
ービクンッ、シロンの身体が大きく騒めく。
いきなり、黒髪の一筋の白いメッシュが生き物のように、跳ね上がり広がる。
白いベールに覆われたようなシロンの頭部にせり上がる白い犬耳。
女子高生の突然の「犬耳変化」に驚き、立ち尽くす面々。
「ちょっとの感じだけでー?、何だよコレ?!」
ばっー、と身体ごと大きく振り返るシロン。
それは、最初に見たチンピラ二人の背後に、現れた背の高い人影―
黒っぽいパーカーを来てフードを下ろし、マスクで顔をおおっている。
それはゆっくりと、近づいてくる。




