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シロンの夏休みの会話 親父の昔話編

「あるか、と言えばある…」

白くごついその手がファイルをテーブルに落とす。そして視線も落ちる。


「いわば、この者の『背景』には心当たりがあると言ったところか」

「…少し長くなるが、聞いてくれるかね?」

頷く「男」。


「四百年以上前、人の世の混沌、戦国時代も終わろうかという頃に、私は犬神の子として産まれた」

視線が上がり、男を見る。

「…そう、兄との双子でな」


「えっ」驚きの声。


続ける白理事長。

「かつて犬神に双子が生まれた事は数少ない。しかしそれは世の趨勢が別れる時でもあった」

「その時は、犬神が―、『人の世と共生するか』、『人の世と争うか』の岐路だったのだ」


「わが兄は『犬神いぬがみ 太郎兵衛たろべえ』」

腕を組み天井を見つめる。

「彼は狼一族と結び、犬神の伝統たる蠱術こじゅつの力も大きく、強大な力を誇った」


「その時『犬神いぬがみ 次郎佐じろうざ』と名乗っていた私は…」

また、視線を床に落とす。

「この地の動物たち、獣精らを味方につけてはいたが、兄の力には遥かに及ばなかった」

「我らが父犬神の死後、決められた百日後の決戦の前、あまりの実力差に、私は死を覚悟していた」


「その時だ。私の前に一人の修験者しゅげんじゃが現れた」


「それは?」首を傾げる「男」。


「その人は『人間の力』を私に貸すと言ったのだ」

「戦乱の災いが落ち着き、安定してきた世を乱したくないと言ってな―」

全く嬉しくもなさそうに、淡々と話を続ける。


「そして兄との決戦の日―、事前に兄が用意していた数千の使い魔、悪霊、妖魔は全く参戦できなかった」

「その修験者しゅげんじゃの霊力のおかげでな」


「私は、なんとか兄との一対一の戦いに持ち込む事が出来た」

「凄まじい戦いだった、蠱術こじゅつの掛け合い、そして方術の打ち合いの応酬…」

「まあ最後は犬神でありながら、野良犬のような取っ組み合い、牙での噛み合いとなり―」

顔を手で覆う。思い出したくもないが、言わねばならない葛藤かっとう


「それら三日三晩の血みどろの戦いの末…」

古傷を押さえるように右わき腹に手をやる。

かろうじて勝利する事が出来た」


「兄は傷だらけのまま北の地に落ち伸びたと聞くが、それ以上は私は追わなかった」

「いや、決戦の手傷がひどく追えなかったのが本当かな」

右わき腹を押さえた手にグッと力をこめる、そこから内臓でもはみ出したことが、あるように…


「もっとも、兄ももう反攻する力もなかっただろう」

「右眼をつぶされ、右手も根元から失っていたのだから…」


何分かの沈黙。

「待ってください、もしかして今回の件は、そのお兄さんが―」やっと口を開く「男」。


「いや、あり得ない」


「えっ、でも…」


「あの誇り高い『犬神いぬがみ 太郎兵衛たろべえ』なら」

「いかに窮乏きゅうぼうしていても、人におもねるる事などありえない」


「そう、この写真は、この者は、兄の…」

「…息子、なのだろう」


「しかしこの姿…」

ファイルの写真を見る。


「人型でありながら、耳も牙も隠し切れない…」

「おそらく、兄と北方の狼との子供であると、思われるが…」

「力での、復讐のみしか考えられぬ…」

「過ぎたる怨念と、狂暴を感じる!」


その写真を撫でる指。

「おぞましくも、また、不憫ふびん、だのう…」


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