シロンの夏休みの会話 グラビア写真?編
真夏の抜けるような青空の下。花柄の日傘に麦わら帽子、質素な麻生地の白いワンピース。
爽やかな風のもと、くるくると回る日傘、微笑む美少女シロン。
素晴らしい絵。感動する構図だ!
…と、向こうにカメラを持った、白い姿の大男が手でOKサインを出したようだ。
…それを確認するなり、
いきなり日傘を放り出し麦わら帽子を脱ぎ捨て、日陰に駆け込むシロン。
「―あっぢぃぃーっ!」
白いワンピースのすそをバタバタと下品にはためかせる。
前から見ればパンツ丸見えなのだろうが、しかしその恩恵にあずかるのは…
右斜め前で不思議そうに首を傾げる、認知症の要介護度4の老人だけなのが惜しいところだ。
「はしたないぞシロン」
近寄り嗜める白オヤジ。
「だあってさぁー、施設のイメージ写真だ、グラビアだ、ビデオ撮影だ、なんつって、アタシにこんな格好させてさーあ、昭和かっ、ての!」
「ん、昭和…、いや私の場合は『元禄』かな?」
「はあ、なんだそりゃ?」何だか歴史の授業で聞いたかな?
「もう350年ほどになるか。そう、あれは良い時代だった…」
遠い目になる筋肉理事長。どうやら変なスイッチに触れてしまったようだ。
「あの頃の最新は、浄瑠璃や歌舞伎、狂言!、ある意味今よりももっと、突き抜けておったかもな」
「ふふふ、竹本座、豊竹座に義太夫を観にいくのは…」
「…例え父に、三日三晩松の木から吊るされようが、辞められなんだっ!!」
何かアブナイ視線を宙にやるオヤジに、徐々に引いていくシロン。
「もしあの時、井原西鶴や近松門左衛門が、イメージビデオを作っておったら、と思うと―」
良く分らないが、江戸時代あたりの強烈な「押し活」だろうか?!
さっと両手を前に出し何とかさえぎろうとするシロン。
「あ、オヤジィ、悪りぃ」
「ダチとプール行く約束してんでぇ、じゃね―」
たっと駆けていく。
後に残されるのは、まだ自分語りの白オヤジ…
…そんで二時間後くらい後、
理事長室で机のパソコンに向かう筋肉白犬Tシャツ。
その画面に映るのは、今日撮ったばかりの愛娘シロンの、そう、グラビア写真!
「…ふむ、これがいいか、いやこの笑顔も捨てがたい、…ああ、悩むのおっ!」
どう見てもアブナイ匂いしか感じないが。
―コンコン、ノックの音がした。
「お客様、お見えになりました」
「おお、お通ししてくれ」恥ずかしそうに画面をオフにするオヤジ。
案内されて入ってきたのはあの「男」。にやけた笑いは控えめに。
「理事長、急な要件にさっそくご対応いただきありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ」
「早速ですが、『良い知らせ』と『悪い知らせ』、両方ともありますが…」
「どちらを先にお聞きになりたいですか?」
「…終り良しの方がいいですな」、ゴホンという咳払い。
「では、悪い知らせから」
「分かりました」
カバンからファイルを取り出す「男」。
「集団『異能』の要注意人物、幹部はあと三人…」
「『Meiko』、『Dr』そして」
「『牧場主』とまでは分かっています」
「そして…」
「そのうちの『牧場主』の本拠地らしきものが『北州』にあるとにらんでいます」
「まあ、あそこ等は酪農が有名な土地柄、ありがちな話かもしれません」
「その『異能』のアジトらしき処を張っていると」
「一人の気になる人物が浮かび上がりました」
ファイルを開く。
「北の大国との国境の島嶼部からの密入国と思われますが」
「詳しいデータは全くありません」
「…これが、私の手の者による近影です」
倉庫のような建物を背にした、パーカーらしきものを着た、背の高い男性の写真。
見詰める白犬理事長に、ゆっくりと言う「男」。
「その男が気になった理由、一つは」
「その者の名は、『犬神 狼牙』」
はっ、と理事長の顔が上がる。
「そして理由二つ目は…、ファイルの次を見て下さい」
めくったファイルの写真、先ほどの男の姿、ややぼけているのはフォトを拡大したからか。
それは胸あたりから頭頂までが入ったバストショット。
そして、はっきりと分るのは、風でめくれたフードから見える…
獣のような耳、そして犬歯というには大きすぎる、どう見ても「牙」としか言えない口許!
「『犬神』という名、そしてこの容貌…」
両手を組み、上目遣いの「男」。
「お心当たりは、ありませんか?」




