お狐様との会話 二個め
「幼子相手に、わらわが手加減すると、見くびるか?」
ボッ!とその右手に、真っ赤で凶悪な光が燃え上がる。
「どうじゃ、この力、これを―」
しかし見るのは、親子ともどもの無反応。
煽り、の対極?、いや無視?!
まるでやり場のない気持ちをぶつけるように、右手をかざし幼子目がけて振り下ろす!
「いけない、ママ!」叫んだのは、傍の男。
―ふっ、いきなり辺りが暗くなる。
それは、いきなり子供の寸前で凶悪な光が消えたから。
固まってその場に立ち尽くしている狐耳。
ほっとして、汗を拭う仕草の「男」。
「…では話を聞いていただきませぬか?」
場違いな程、落ち着いた命婦の言葉。
「あなたも子を成したと聞きました」
「九尾殿が、と、最初は驚きましたが」
袖を上げて、微笑みを隠す命婦。
「大切な命を慈しむ気持ちの、芽生えと見て、お話したく存じました」
そっぽを向くママ。
「フン、情を交わした者を、裏切って見せる、それがどんなものか、試しかっただけじゃ」
「日々、どんな趣向で裏切ろうか、考え中であるわ!」
傍らに顎をしゃくって見せる。
「この男も裏切った様にな…」
…沈黙、しかし微笑みの稲荷神。
「何か言いたいのか?!」いら立ちの言葉。
…微笑みが少し薄くなった程度。
「…沈黙で、返すな!」さらなるいら立ち。
…
「言うておくが、」
「我が、傷んだ際に、そちらが癒してくれたことは…、忘れてはおらぬ!」
つい大きくなる声。
「ただ、それをどう思って、どうするかは、わらわの―!」
声を留め、首を振る。
「…止めじゃ」
「…ああ、そうじゃ、わらわの負けでよいわ、好きにせい!」
頷いて、声を出す命婦。
「卿よ」
いきなり呼ばれて戸惑う男。
「は、はい」
「かねてより卿の上奏の件、承知したことを伝えたくての」
「えっ」驚きの表情。
「なんじゃそれは?」横から尋ねてしまう九尾。
「稲荷神様にお願いしていたのは…」
「犬神さんたちとの、同盟ですよ」
何だか複雑な表情のママ。
「うむ、それで早々に犬神より誰ぞ来てもらいたい」
「話をしたいのじゃ、できれば―、犬神殿のご息女にのう」
何だか呆れた表情のママ。
「まあ我ら稲荷は、攻撃力は無いが…」
にこやかに笑いかける。
「回復などの支援はできる、少しは当てにしてくれても良いぞ」
親子ともどもの微笑みで、何だか話を強引にまとめたようだ。
「今宵は楽しい時を過ごせた、礼を言うぞ、葛の葉」
「もったいなきお言葉」
深く頭を下げる白髪の狐耳。
「では、去ぬとしよう」
あくまでも静かに帰っていく葛の葉狐、そして稲荷神親子。
緊張が解けたため息の「男」。
「稲荷神が自ら来られるとは、驚きですね!」
「しかし肝を冷やしましたよ、稲荷神に何事もなく済んで…」
ぼそりと言う狐耳。
「…あの時のわらわの『発剄破』の攻撃の事か?」
「ええ、寸前で消していただき、助かりました」
「消したのでは、ない」
「え?」意外の驚き。
「消えた、いや、正確に言えば、『消された』のじゃ」
意味が分からない「男」。
「どういう事です?」
「あの時の感覚を、簡単に言うと…」
「いま、わらわがこうして…、拳を伸ばしアンタを打とうとする…」
拳を握り男に手を伸ばすママ。
「アンタはそれに対して、普通ならどうする?」
「避けて反撃、でしょうね」
「…なら、その時」、暗い表情のつぶやき。
「一瞬、周りの空気が無くなったら、どうする?」
ポカンとする、言葉の意味が分からない。
「は、そんな事、有りえ…」
言葉を飲み込む「男」。
「ま、まさか」
「…そう、だった、と?!」
うなだれるママ。
「息ができず、力が途切れ、拳は制御できず…、挙句は下に落ちるしかない」
「まさしく、『そう』されたのじゃ」
「何が『攻撃力は無い』じゃ!」
「奴らは、取引に来て、しれっとした顔で、見事我らを出し抜いて見せたのよ!」
ギリッ、と歯を、いや牙を鳴らすママ。
「…、ふ、ふふふ、逆にそうでなくば、面白くない!」
「お手並み拝見と行こうか、稲荷神よ?!」




